【作品#0598】AIR/エア(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

AIR/エア(原題:Air)

 

【Podcast】

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【概要】

2023年のアメリカ映画
上映時間は112分

【あらすじ】

1984年。ナイキの中でも業績不振のバスケットボール部門で働くソニーは、CEOのフィル・ナイトからバスケットボール部門の立て直しを命じられる。ソニーは、ドラフト候補の選手の中からマイケル・ジョーダン1本に絞ってアプローチを掛け始める。

【スタッフ】

監督はベン・アフレック
製作はベン・アフレック/マット・デイモン
撮影はロバート・リチャードソン

【キャスト】

マット・デイモン(ソニー)
ジェイソン・ベイトマン(ロブ)
ベン・アフレック(フィル)
ヴィオラ・デイヴィス(デロリス・ジョーダン)
クリス・タッカー(ハワード・ホワイト)

【感想】

ベン・アフレックにとっては「夜に生きる(2016)」以来の監督作となり、幼馴染のマット・デイモンとは「最期の決闘裁判(2021)」以来の共演となった。当初はAmazon Prime Videoでの配信のみを予定していたが、試写が好評だったことを受けて劇場公開されることとなった。また、マイケル・ジョーダンは本作の製作自体に関与こそしていないが、ベン・アフレックと製作前に会って、脚本の変更やキャスティングについて話し合っている(母親デロリス役はヴィオラ・デイヴィスが演じることを条件にした)。

まず、ベン・アフレックの監督作品だと「アルゴ(2012)」に非常に似た印象を受けた。1980年代の実話で、主人公が不可能と思われるミッションに臨んで多くの壁を乗り越え、意見の合わない者とも協力して、最後には大成功を収めて、みんなで大喜び。こういうゲームチェンジャーの物語はハリウッドの王道であり、アメリカ人好みでもある。かつてのハリウッド映画でよく見てきた光景であり、その点においては意外性はほとんどない。ベン・アフレックがインタビューで語っているように、映画を見た後にスキップして映画館を出られるような作品になっている。ベン・アフレックもバットマン映画の監督予定を降板したり、コロナ禍だったりで苦労もした。この結論が分かっている物語をどう盛り上げるかという点においてもマット・デイモンやヴィオラ・デイヴィスという名優で確かな盛り上げに成功している。

ただ、本作を鑑賞して非常に興味深かったのは、説得する側だったソニーが、最終盤でマイケル・ジョーダンの母デロリスから説得される側に回るところである。契約をアディダスに取られたと思っていたらデロリスから「ナイキと契約したい」という旨の連絡を受けてソニーは喜ぶ。ただ、デロリスから「靴の売上の一部をもらいたい」という条件を突きつけられ、それまで興奮気味だったソニーも冷静さを取り戻し、「複雑な事情があるからその条件は飲めない」と断ってしまう。

映画のクライマックスは、ソニーがマイケル・ジョーダン一家を社に招いたプレゼンだったが、それと同じ熱量のプレゼンをデロリスがしているのだ。しかも電話で。選手の名前の入ったシューズが売れる度に選手にお金が入れば当然会社の利益も減るだろうし、CEOのフィルが言うように前例ができるとこれから同じような流れになることを恐れている。ソニーも相手には「変わること」を求めていたのに、いざ自分たちが「変わる」側に立とうとすると及び腰になってしまう。それを説得するだけの十分な熱量と演技がそこにはあった。

ジョーダン一家のような黒人という視点から見れば、黒人はいつも搾取され続けてきた。もしエア・ジョーダンが売れる度にマイケル・ジョーダンに収益が入らなければ、ただナイキが儲けてそれで終わりだった。そんな収益がなくても生活に困ることはないとかそういう問題ではなく、今後もマイケル・ジョーダンの歴史が受け継がれていくようにという強い意志を感じる、ヴィオラ・デイヴィスの名演説シーンになっていたと思う。

そんな本作は80年代当時を代表する映像が次々に流れていく。「ビバリーヒルズ・コップ(1984)」のエディ・マーフィ、「ゴーストバスターズ(1984)」の面々、TVシリーズ「ナイトライダー(1982-1986)」などなど当時の粗い解像度の映像で、映画の舞台となる1984年らしさを演出していた(ただちょっと長かったかな)。

また、本作ではシューズ自体の性能の話は皆無と言ってよい。NBAで戦うバスケットボール選手が試合の度に履くシューズの性能がどれほど優れているかとか、性能を向上させるためにどういった苦労をしたとかそういった話は出てくることはない。あくまでデザイン、戦略がメインである。特にシューズは白色が51%以上でないといけないルールを逆手に取り、赤色の部分を増やして罰金をナイキが支払い続けるというアイデアも面白い。バスケットボール選手として超一流に到達するマイケル・ジョーダンという人物を考えると、ルールや枠組みを取っ払うべく企業側が努力しようという姿勢は間違っていないと思う。

そして、若き日のマイケル・ジョーダンを演じる俳優もなかなかその姿を確認できないように作られている。特に顔はなかなか映らず、あえてそのようにしているのは分かるがややノイズに感じた。これもマイケル・ジョーダン側からの要求なのか不明だが、出るべき場面ではしっかり映すべきだったように思う。満を持して画面に登場して「全然違うやん」となるよりかは良いと思った。

そんな本作はエンドクレジット前に字幕でその後の登場人物の物語が語られることになるが、ソニー・ヴァッカロがナイキを後にしてアディダスに転職した話は語られない。本作の描き方でラストに「実はアディダスに転職しました」なんて言えないのは分かるが、ちょっと美談にしすぎた印象を持ってしまう。

ただ、ソニー・ヴァッカロがマイケル・ジョーダンとその両親を説得すべく奮闘するシーンは名シーンだし、序盤のキング牧師の演説用のメモの話がわかりやすい伏線として効果的だった。決まったことをそのとおりにするのではなく、臨機応変に対応でいる力こそが生きていく上で重要な力だとも感じさせてくれる。ソニー・ヴァッカロが機転を利かせたのもあらゆる人物と交流してきたからこそであり、豊かな人生経験がそうさせたのだろうという説得力もある。

ベン・アフレックとマット・デイモンが「最後の決闘裁判(2021)」でのタッグを期に映画会社Artists Equityを立ち上げ、本作がその第1弾となった。その第1弾でベン・アフレックは監督も努め、映画内ではCEOというトップの立場を演じた。マイケル・ジョーダン一家が社に来る場面では、事前の打ち合わせ通りにCEOは忙しい合間を縫って会議室に入ってくることにし、マイケル・ジョーダン一家に「忙しい合間を縫って来た」と正直に言うのは、監督業で忙しい合間に出演していることを言っているよう。また、マイケル・ジョーダンとの契約が成立した後、CEOが「俺にもそれなりの功績がある」というのはベン・アフレック自身が俳優や映画監督として築いてきたものへの言及なのだろう。50歳を過ぎたベン・アフレックとマット・デイモンがコロナ禍に新たな映画会社を設立し、その門出を祝うような明るい作品になっている(今までのベン・アフレック監督作品は基本的に犯罪絡みの作品ばかりだった)。万人に勧められるスッキリとした味わいの作品だった。

 

 


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【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

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