【作品#0544】ニューヨーク・ニューヨーク(1977) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ニューヨーク・ニューヨーク(原題:New York, New York)


【概要】

1977年のアメリカ映画
上映時間は155分
※特別編は163分

【あらすじ】

第二次世界大戦に勝利した日のニューヨーク。復員したジミーは、パーティで知り合ったフランシーヌを口説いて、サックス奏者のオーディション会場に連れて行く。

【スタッフ】

監督はマーティン・スコセッシ
音楽はラルフ・バーンズ/ジョン・カンダー/フレッド・エッブ
撮影はラズロ・コヴァックス

【キャスト】

ライザ・ミネリ(フランシーヌ・エヴァンス)
ロバート・デ・ニーロ(ジミー・ドイル)

【感想】

「タクシードライバー(1976)」で成功を収めたマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロのタッグ作。ミュージカル女優ジュディ・ガーランドの娘で「キャバレー(1972)」でオスカーを受賞したライザ・ミネリをキャスティングした音楽映画だが、製作費すら回収できず興行的には失敗してしまった。

ちなみに、興行的に振るわないことが早々に分かったため、再編集した136分のバージョンが後に公開されている。また、終盤のフランシーヌが「ハッピー・エンディング」を歌う場面が復元された164分のバージョンを収録したDVD等で視聴することができる。

本作は興行的な失敗もあり、マーティン・スコセッシのフィルモグラフィーの中でも忘れられた1本というイメージがあるが、そう簡単に切りするべき作品ではないと感じる。本作はマーティン・スコセッシ監督の映画愛、特に往年のミュージカル映画愛を感じる1本である。にもかかわらず、本作の終盤に用意されたミュージカルシーンは劇場公開時にカットされてしまったのである。一度は本気で愛した女性が、その才能を見込まれて大成功を収めた様子をジミーが見る場面はとても重要だと思うが、製作者側の判断でカットしてしまうんだからなかなか驚きである。また、このミュージカルシーンを含めて、どう考えても後の「ラ・ラ・ランド(2016)」に影響を与えているとも感じる。

また、癇癪持ちの男が主人公をロバート・デ・ニーロが演じると言えば、マーティン・スコセッシ監督との次回のタッグ作「レイジング・ブル(1980)」にも繋がる話である。

本作は第二次世界大戦の終戦を祝うニューヨークから始まる。そこで主人公のジミーは、パーティにいる女性を片っ端から口説きまくっている。おそらく長年の出兵により女性に飢えていたのだろう。そこで出会うのがフランシーヌである。このジミーがフランシーヌを口説く場面はたっぷり時間を取り、終戦を祝う豪華な会場でエキストラも多数出演しており、金と時間がかけられているのが伝わってくる。この場面ではジミーの衝動性や情熱、フランシーヌの慎重さが対比されつつ、こんな対照的な2人において、最終的に互いが好きな音楽の存在、ジミーの情熱が勝ってしまうからこそ、2人は結ばれるわけであり、別れるわけでもある。

結ばれた2人はコンビを組み、徐々に成功を収めていくが、ある日フランシーヌはジミーの子供を身籠ることになる。それを知ったジミーに対して子供を欲しいと思っているかフランシーヌが聞く時、「そうだ」と答えるジミーの顔は影で真っ暗になっている。肯定の返事をしていても、ジミーの顔は暗闇であり、後の彼の行動を予感させる演出となっている。妊娠によりコンビでの活動ができなくなることで、ジミーの思惑は外れていく。自分の思い通りにならなければそのために行動すればよい。ただ、そんなジミーであってもフランシーヌに対して中絶を強要することはない。本作のジミーは大概酷い人間だと思うが、そこまではできない人間なのだろう。

また、ヒロインを演じたライザ・ミネリは、母親にミュージカル女優の大御所ジュディ・ガーランドを持つ女優である。ジュディ・ガーランドの出演していたミュージカル映画の黄金期の時期を意識した、またその時代設定とした映画である。彼女の代表作も多数あるが、本作を見て思い出すのは、題材としては3度目の映画化となった「スタア誕生(1954)」であろう。本作と同じく歌手(音楽家)を主人公にした引き裂かれる男女を描いた作品である。

興味深いのは終盤にほんのわずかに登場する彼らの息子の場面である。子育てにはほぼ関わってこなかったであろうジミーに対して、フランシーヌは息子に会うように促し、その息子は父親のジミーに対して好意的に接している。完全に崩壊したジミーとフランシーヌの関係であっても、フランシーヌはジミーに対して息子と会わないようにしている訳でもない。また、息子が父親のジミーに対して好意的に接しているのはフランシーヌがジミーを悪い父親として吹き込まなかったからだろう。

終盤で久しぶりの再会を果たしたであろう2人の関係は少し進歩している。ジミーは大成功したフランシーヌに対して「誇りに思っている」と言っている。また、ちょっと意見が合わないと分かると、喧嘩になる前に引き返す理性も身に着けている。ジミーの派手な靴のアップで始まったオープニングに対して、地味な靴のアップで終わるエンディングが対になっており、ジミーが落ち着いた人間になったことを示している。

多少長く感じる箇所もあるにはあるが、情熱的な男と慎重な女が音楽で結ばれ、その音楽が原因で別れてしまう物語は切ない。ライザ・ミネリとロバート・デ・ニーロが基本的に出ずっぱりで、それ以外で終始登場する人物はおらず、まさに2人のためだけの映画のようである。共にオスカー受賞経験のある2人がまさに渾身の演技を披露していると言える。

【音声解説】


参加者
├マーティン・スコセッシ(監督)

├キャリー・リッキー(映画評論家)


上記2名による音声解説だが、別撮りの音源を繋ぎ合わせたものである。ただ、両者とも映像を見ながら話している。作品の始まりと終わり、ロバート・デ・ニーロとライザ・ミネリの演技アプローチの違い、マーティン・スコセッシ監督の体験してきた40年代から50年代のミュージカル映画への愛、プロデューサーからラストのミュージカルシーンを削除するように言われて従った話、20年以上前の地震の監督作品を振り返ってしみじみ感じた話などしてくれる。

 

 


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【ソフト関連】

 

本作のソフト関連は消費者にとって好ましい状況ではない。

そもそも2023年3月現在、廉価版がなく(少なくともAmazonにはない)、やや高めの値段で購入するか、中古市場から探すしかない状況である。

また、本編に関してもDVDでもBDでも劇場公開版は収録されておらず、おそらく視聴するのは不可能だろう。

そして、奇妙なのは音声/映像特典である。DVDの音声解説や映像特典には日本語字幕が収録されているのに、後に発売されたBDには同内容にもかかわらず日本語字幕が収録されていない。おそらく権利の問題(字幕の制作会社が潰れたとか!?)だと考えられるが、もし音声解説や映像特典を楽しみたければ2枚組のDVDを購入しなければならない。

 

<DVD(アルティメット・エディション/2枚組)>

 

本編

├特別編

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え(TBS版)

 ※日本語吹き替えの欠落箇所はオリジナル音声/日本語字幕に切り替わる

音声特典

├マーティン・スコセッシ(監督)、キャリー・リッキー(映画評論家)による音声解説

映像特典

├マーティン・スコセッシ監督によるイントロダクション

├メイキング・オブ・「ニューヨーク・ニューヨーク」パート1

├メイキング・オブ・「ニューヨーク・ニューヨーク」パート2

├ライザ・ミネリが語る「ニューヨーク・ニューヨーク」

├アドリブ&NGシーン集

├ラズロ・コバックス(撮影監督)によるシーン別音声解説

├フォト・ギャラリー

├予告編集

 

<BD>

 

本編

├特別編

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え(TBS版)

  ※日本語吹替の欠落箇所はオリジナル音声/日本語字幕に切り替わる

音声特典

├マーティン・スコセッシ(監督)、キャリー・リッキー(映画評論家)による音声解説

  ※日本語字幕は収録されていません

映像特典

├マーティン・スコセッシ監督によるイントロダクション

├メイキング・オブ・「ニューヨーク・ニューヨーク」パート1

├メイキング・オブ・「ニューヨーク・ニューヨーク」パート2

├ライザ・ミネリが語る「ニューヨーク・ニューヨーク」

├アドリブ&NGシーン集

├ラズロ・コバックス(撮影監督)によるシーン別音声解説

├フォト・ギャラリー

├予告編集

  ※日本語字幕は収録されていません

 

【音楽関連】

 

<CD(サウンドトラック)>

 

収録内容

├23曲