【作品#0243】コーダ あいのうた(2021) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

コーダ あいのうた(原題:CODA)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

2021年のアメリカ/フランス/カナダ合作映画

上映時間は111分

 

【あらすじ】

 

家族4人暮らしをしているロッシ一家は、娘のルビーを除き両親も兄も聾者であり、ルビーが手話で家族の通訳を担い、家業の漁業も手伝っている。新学期となったある日、歌うことが好きなルビーは合唱クラブへ入部することにする。

 

【スタッフ】

 

監督/脚本はシアン・ヘダー

音楽はマリウス・デ・ヴリーズ

撮影はジェロード・ブリッソン

 

【キャスト】

 

エミリア・ジョーンズ(ルビー)

トロイ・コッツァー(フランク)

ダニエル・デュラント(レオ)

マーリー・マトリン(ジャッキー)

エウヘニオ・デルベス(ベルナド)

フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(マイルズ)

 

【感想】

 

フランスでもヒットした「エール!(2014)」のハリウッドリメイク。サンダンス映画祭では映画祭史上最多となる4部門を受賞した。原題の「CODA」とは「Children of Deaf Adults」の頭文字を取った略語で「耳の不自由な親に育てられた子供」といった意味があり、主人公のルビーがそれに当たるわけである。主人公の両親と兄は実際に耳の不自由な俳優が演じており、母親のジャッキーを演じたマーリー・マトリンは「愛は静けさの中に(1986)」で耳の不自由な女生徒役を演じて、史上最年少の21才でアカデミー賞主演女優賞を受賞した経験のある女優である。

 

まず、池のある石切り場のある青春映画と言えば「ヤング・ゼネレーション(1979)」を思い出すし、音楽の才能のある若者が家の事情を優先しようとして夢を諦めそうになると言えば「旅立ちのとき(1986)」を思い出す。かつての青春映画へのオマージュ/愛なんかも感じられる。

 

話の大筋はオリジナルの「エール!(2014)」とほとんど同じだが、オリジナル版が可哀そうに思えるほどこのリメイクは出来が抜群に良い。演技、演出、選曲のセンスもさることながら、設定の変更による効果も大きい。

 

例えば、オリジナルでの酪農家から漁業一家に変更されることで、家族で唯一の健聴者である主人公が夢の実現と家族の事情の狭間で揺れ動くところに納得させられるものがあった。また、オリジナルでは主人公に弟がいたがリメイクでは兄がいる設定に変更されている。兄であるが故に妹の苦労を理解し、その苦労をこれからも背負い続けてほしくないと願う兄にも演技としても大きな見せ場が用意されていたのはオリジナルとは大きく異なるポイントだ。また、音楽の先生も印象は大きく異なる。オリジナルではかなり淡泊な先生であったが、リメイクでは情熱的な先生になっており、こちらの方が感情移入しやすい。その情熱的な先生が、実力を発揮できていないルビーを見てわざと伴奏を間違えて、アイコンタクトだけで鼓舞する場面に演出としての濃淡があって良い。

 

それから、同じ聴覚障碍を取り扱った「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~(2021)」と同じく、観客にも聴覚障碍者と同じ感覚を味わうことのできる場面が用意されており、それが合唱コンクールの場面である。聴覚障碍のある両親と兄は当然ながらルビーの音楽の才能を知りえない。ルビーがデュエット曲を披露する場面になると、映画はしばらく無音状態となり、聴覚障碍者と同じ感覚になる。ここで両親は、ルビーの歌声に聞き入ってたり、涙を流したりする周囲の保護者達を見ることでルビーの才能を実感することになる。そしてさらに、帰宅後にルビーは父親から「自分のためにもう一度歌ってほしい」とせがまれ、その場でもう一度歌うことになる。冒頭近くに「ベース音の響きを体感できるからラップ音楽が好きだ」と言っていた父親が、ルビーの喉元に手をやりルビーの歌、思いをまさに体感する場面は伏線回収としても、感情表現としても見事であった。

 

また、映像表現として、父と兄が漁船で取り締まられる場面と、ルビーとマイルズが仲直りする場面をクロスカッティングで見せる場面はリメイクならではの表現となっていた。ルビーが不在で耳の不自由な父と兄が、監視員という手話も分からない初対面の人を漁船に乗せることで不安になり、その不安を表現するかの如く沿岸警備隊の船が漁船にぶつかって乗り込んでくる場面は文字通り衝撃的である。そして一方、ルビーとマイルズは仲直りをして、石切り場の池の中に浮かぶ丸太越しにキスをしたり、丸太に乗って遊んだりしている。丸太で隔てられた距離をルビー側が積極的に乗り越え、まだまだ精神的にも不安定な時期を不安定な丸太の上に乗ることで表現しているのだ。その両者の「揺れ」や「不安定さ」をクロスカッティングで描いたセンスも称賛に値するものだった。

 

そして、選曲センスも抜群で、特に試験時に歌う「青春の光と影(原題は「Both Sides, Now」)」の歌詞がまさに主人公やその家族に重なるところだ。歌詞の中に「両側から見てきた」という言葉が何度も登場する。ルビーは「耳の不自由な人ばかりの家族という世界」と、「健聴者の人がほとんどの外の世界」の両側を見てきたし、経験してきた。それでもその世界を理解するのは難しいが、でも両側を見てきたからこそルビーにしか分からないこともある。そして、両親や兄も家の中にいるルビーしか知らなかったが、発表会という外の世界に出向いて音楽の才能があるという新たな一面を知ることができた。そして、これからルビーと家族は離れ離れになるが、そのことでまた新しい世界を見ることができるだろう。それから、本作を見た観客も、彼らの生活を追体験して新たな映画体験をすることができた。その意味が何重にも捉えられる名曲だと実感する。

 

本作は下世話な話や下ネタも頻出するし、物語としてのサプライズもない作品ではあるが、物語の芯、核となる部分がしっかりしており、ぜひ多くの人に鑑賞してもらいたい作品であると感じる傑作。

 

【関連作品】

 

「エール!(2014)」…オリジナル

「コーダ あいのうた(2021)」…上記作品のリメイク

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/アメリカ手話)

 

 

<Amazon Prime Video>

言語
├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

<BD>

言語
├オリジナル(英語/アメリカ手話)

├日本語吹き替え

映像特典

 
 

├インタビュー集
├リリックビデオ「You’re All I Need To Get By」
├オリジナル予告編
├キャスト&スタッフ プロフィール(静止画)
├プロダクションノート(静止画)

 

【音楽関連】

 

<CD(サウンドトラック)>

 

収録内容

├18曲/45分

 

【グッズ関連】

<ポスター>

サイズ
├68.5㎝×101.5cm