【作品#0137】サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~(2019) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~(原題:Sound of Metal)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

2019年のアメリカ映画

上映時間は120分

Amazon Prime配信

 

【あらすじ】

 

ドラマーのルーベンは、恋人のルーとバンド活動をしているが、耳が聞こえづらくなっていることに気が付いた。専門医に相談すると、左右の耳の聴力が7割ほど失われていることが判明する。

 

【スタッフ】

 

監督はダリウス・マーダー

 

【キャスト】

 

リズ・アーメッド(ルーベン)

オリヴィア・クック(ルー)

ポール・レイシー(ジョー)

マチュー・アマルリック(ルーの父)

 

【感想】

 

2019年9月にトロント国際映画祭でプレミア上映され、アマゾン・スタジオが配給権を獲得したが、コロナウイルスの影響で2020年11月にずれ込んだ。日本ではAmazonプライムビデオで見られる状況下、2021年10月に一部劇場で上映された。また、アカデミー賞では6部門でノミネートされ、音響賞と編集賞の2部門を受賞するなどの評価を得た。

 

本作は主人公ルーベンの耳が聞こえなくなっていく様子や以降の彼の孤独に陥る感覚、そしてインプラント手術後の聞こえ方などを追体験できるような作品になっている。できる限り映画館で鑑賞するのと同じような環境で見てほしい。

 

主人公の病を観客も体験できるような作風は、本作で主演したリズ・アーメッドとアカデミー賞主演男優賞の座を競ったアンソニー・ホプキンスが主演した「ファーザー(2019)」も想起させる。

 

主人公は耳が聞こえなくなるだけでなく、それに伴い考え方や視野も狭くなっていくので(そもそも柔軟な考えができる方ではなかったが)、主人公をカメラがとらえる時は寄りのショットが多く、主人公の気持ちを体験しやすくなっている。また一方で、第3者の視点になると、少し遠めのショットが取り入れられており、映像面での工夫も素晴らしい。それに、主人公が手話を理解していないのと同じように観客向けに手話の訳はあえて表示されず、主人公の居心地の悪さも表現されていた。

 

いくらスマホや車のキーを取り上げられたと言っても施設内には誘惑がないわけではない。かつては「音」楽で仕事をしていたのだから、「音」は忘れられないし執着もある。こっそりネットで見たルーの音楽に講じる様子を見て、自分も音楽をまたやりたいと考え、自分はこのままこの施設に居て良いのだろうかと思っても仕方がない。

 

ルーベンは薬物依存に陥っていた4年前にルーに命を助けられている。その後のトレーラーハウス生活でルーは自傷行為をやめられずにいた。そんなルーを助けなければならない立場のルーベンが聴力を失い不甲斐なさを感じていたはずだ。ルーの突き放したような反応は以前の薬物依存の時の経験が生きているのだろう。お互いがお互いを助け合った。でも、愛する人と一緒にいること自体がその愛を崩壊させてしまうという悲しさ。ルーが父親とデュエットで歌う言葉がそれを物語っており、ルーベンはたとえ何を言っているか分からなくても伝わっただろう。

 

また、こっそりパソコンで見たルーの音楽に興じる映像を見て、ルーベンは音を取り戻したいという気持ちが強くなった。インプラント手術を受ける決意をデフコミュニティのジョーに話すと、「すぐに出ていってくれ」と言われてしまう。おそらくこのような音への依存を感じる者は過去にもたくさんいただろうから、ジョーも突き放すような態度を取ったことも想像できる。本作はこのような余白を読み解いて感じていくのが気持ちいい。

 

ルーベンは明らかに耳にとって良くない環境で音楽を続けていた。そんな彼が聴力を失い、インプラント手術で聴力を取り戻そうとするが、明らかに依然聞こえていたような聞こえ方ではないし、雑音や必要としていない音の情報までもが耳にこれでもかと詰め込まれてくる感覚である。この必要以上の情報が耳に入って来るのはルーベンがずっと続けてきたメタル音楽の大音量も同じと言える。

 

満を持してルーベンはルーに会いに行くと、出迎えてくれたルーの父親はフランス人である。ただでさえ、聞こえが悪くなっているのに、分からない言語とはなかなか意地悪な設定ではある。インプラント手術によって必要以上の音まで入って来ると、人と一緒に居たくなくなるかもしれない。

 

ルーベンはジョーが言っていたような「静寂」を手に入れることはできたかもしれないが、聴力も恋人のルーもお金も失ってしまった。失って初めてその大切さに気付くことは人生でもたくさんある。それを時に残酷なまでに観客に追体験させる本作は一見の価値があり、できれば劇場やそれに近い環境で観ることをお勧めしたい。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/アメリカ手話/フランス語/ペルシャ語)