専門家と素人の区別とは何だろうか?普通、自分のアイデンティティの中心にその分野があると意識するとき、その分野の専門家を名乗る。人間の能力にはそれほどの差がないのが普通であるから、一般に専門家のその分野での情報の量と基礎知識は、素人のそれらよりはかなり上である。

 

素人が時として勝るとすれば、それは発想の豊かさと、それと重なる部分もあるが、専門に囚われないことである。専門に囚われないとは、悪く言えば、つまりそこで少し過ちを犯しても、大したことではないと考えられる気楽さである。その一方で、専門家なら、ここぞと言うときには実力を見せる義務がある。人間が、それぞれ専門を持ち、協力して社会を作り生きていくのだから、当然である。

 

例えば、筆者の場合、物理化学の研究者であった。従って、ブログを書いている立場上、その近接分野で疑問が出されたのなら、なにか書く責任を感じる。その様な訳で、月面着陸の捏造説が話題に出

たとき、自分の考えを複数の記事として書いた。そのひとつが、「日常生活と表面張力について:掃除や砂場遊びなど」という題のもの。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12466516473.html

 

もし、そこで書いた論理に間違いがあると誰かが科学的に正しく指摘したなら、私はブログを止める。専門とは、たとえ退職したあとでも、そのように考えるべき立場である。一方、「素人ですが、自分の考えを書きます」という但し書きは、間違っていてもそのような責任を負う立場ではないという意味である。

 

2)岸田首相の非核三原則堅持の発言

 

今日のテレビ番組「THE PRIME」を途中から観た。その番組のレギュラーコメンテーターである橋下元大阪市長が、「もし19458月の段階で日本が核兵器を持っていたなら、広島と長崎に原爆を落とされずに済んだだろう」という言葉と共に、岸田首相に投げかけた質問が、「日本政府は、核戦略の変更について議論しないのですか」というものだった。

 

岸田首相の言葉は、「外交には色んな手段があり、核廃絶の理想を重視して、非核三原則を堅持する」、したがって、「今の処、議論する予定はありません」という主旨の答えだった。

 

北朝鮮が実戦小型核を持ち、先日「超音速ミサイルの実験に成功した」と発表した。また、中国は何千発という核ミサイルの照準が日本に合わされていると言われている。上記橋下徹氏の質問は、それら日本を取り巻く軍事情勢と台湾有事を危惧する政治情勢を背景にして首相に投げられた。

 

下線部は、「核兵器を保持することが、戦争を防ぐためにもっとも有効な戦略である」という考えを想起させるための発言である。橋下氏の質問は、その考えを首相に想起させた上で、「今が核戦略の変更を話し合うべき時期ではないでしょうか」というものである。そして「この”直球的”質問から逃げないでください」という言外の意味も含ませている。

 

日本の首相は、「逃げてはプロ政治家の名折れですぞ」と宣言されたのちの“直球的”質問にも「審判が“ボール”という筈だから、バットは振りません」と宣言するのである。つまり、議論する必要も予定もないと言うのである。

 

日本の首相は、言うまでもなく、国政の専門家である。この国際政治のプロ日本筆頭が、この直球ど真ん中を見逃すのは、許せない。日本人がそれを許すのなら、3度目の核爆発による被害者もおそらく日本人だろう。上記譬え話において、審判とは何を意味するか、金を払って観戦のために球場に入った客とは誰なのかは、言うまでもないだろう。

 

(10日16時、言語の修正あり)

 

日本は今、激しい「食料戦争」の渦中にあるという。NEWSポストセブンというメディアが、著作家の日野百草氏の或る商社マンから聞いた話を掲載している。その商社マンは、「国の通貨が安いまま戦うのは厳しい。牛肉など多くの食糧で買い負けている」と言ったという。

https://www.news-postseven.com/archives/20220101_1717680.html?DETAIL

 

政治経済に関心が薄かった頃、円高は避けるべき悪い状況であるとの感覚で、円高不況という言葉で使われていたという記憶がある。その感覚では、1223日の経団連の会合に於る日銀総裁の言葉、「為替が円安に動くと、経済と物価をともに押し上げる基本的な構図に変化はないとして、プラスの効果のほうが大きい」は、素直に納得できる。

 

しかし、現在の日本においては、円安誘導で経済を維持する手法は発展途上国の経済モデルであると思う。そして、高度成長期の日本に固執する知恵のない人たちに迎合する金融政策だと思う。このままでは日本には、若い新鮮な頭脳による新規技術や新規産業の波は起こらず、円安で食糧戦争に敗戦することになる。円安に動くと、輸入品の価格上昇で、日本人は食糧やエネルギーの値上がりで生活が大変になるのである。

 

今の日本社会の、文化、慣習、制度のままで、現在の経済レベルをできるだけ維持するには円安誘導は理解できる。その延長上にあるのが、三橋貴明氏や元内閣官房参与の藤井聡氏らのMMT容認論である。(補足1)それは日本の経済や財政を破壊すると思う。

 

1)輸出依存の日本

 

資源も土地もない日本が、現在の人口を養うのは、外国との貿易無くしては不可能である。その日本国の基本問題の抜本解決を目指したのが、明治の改革と大陸進出である。しかし、世界経済の拡大と同期した国際政治の大きな渦を読み違え、最終的に米国に叩かれた。(補足2)その事実と歴史を先ず思い出すべきである。

 

現在、日本人がこの狭い日本で豊かな食住生活が可能なのは何故か? それは日本の工業製品の国際競争力が比較的高く、その輸出で得た外貨で食糧が輸入出来るからである。つまり、日本の経済は基本的に輸出に依存しており、その競争力を維持する視点から、日銀総裁が円安を歓迎するのである。

 

蛇足かもしれないが、その点をもう少し説明したい。日本が得意の何かを製造し、それを外国に輸出して外貨つまり米ドルで代価を受け取る。(補足3)その米ドルを、商社などが日本円で買取る。 その米ドルで食糧、原料、エネルギー源などを買い付けるのである。日本の経済はこの①、②、③の順番で回るプロセスをエンジンにして、回っているのである。このプロセスの始まりは、①の輸出である。つまり、日本経済は輸出あるいは貿易に死活的に依存している

 

人気テレビ番組「そこまで言って委員会」などで元皇族の人が、日本の経済は貿易依存ではなく内需依存であると頻繁に発言してきた。それは、上記理由から間違いであると言って良い。単にGDPの構成の中の(輸出–輸入)の金額が1%前後であることを、誤解しての発言だろう。

 

本当の内需依存形の国は、上記順番に無関係に国の経済を維持できる国である。米国では現状で、生活用品の全てを国内で確保できる。一方、オーストラリアやカナダのような国は、現状は貿易に依存しているが、20年程度あれば、全てを国内で調達可能になるだろう。(補足4)

 

しかし、日本の貿易依存は、食糧とエネルギーの入手にかかわるもので、それらを諦めることは死を意味する。同じ貿易依存でも、その違いを知るべきである。日本では同じ状況を、「食の安全保障」と政治の一項目のように言っているが、最初に書いた日本の歴史を考えれば、最大且つ中心的な政治の課題である。

 

2)日本国民は、自国経済が円安に進み、貧しい途上国へ向かうことを自覚すべき

 

国の貿易依存性を記述するパラメータには、貿易依存度と輸出依存度がある。前者は輸出と輸入の合計額の対GDP比であり、後者は輸出額のみのGDPに対する割合である。既に述べたように、輸出−輸入がGDPの構成要素として入る。(補足5)

 

輸出は、輸入で得た外貨で行うので、通常両者の金額は近い。従って、GDPの計算の際に、それらの金額は互いに消し合い、一見その寄与は小さいように見える。しかし、貿易額全体(輸出+輸入)の対GDP比の推移は、その国の経済の性格を見る上で一つの重要因子である。米国は上に述べたように、何でも国内で調達できる国であり、18%と先進国中最低である。

 

その他の先進国では、ドイツ66%、イタリア45%、フランス41%、英国34%と日本の25%よりかなり大きい。エネルギーはほぼ完全に、そして食糧は60%を海外に頼る日本が、先進国では、何でも国内で調達できる米国の次に小さい世界184位の貿易依存度である。(貿易依存度ランキング)

 

発展途上国で資源などの少ない国では、貿易依存度は高くなり得ない。それは輸出しなければ輸入ができないからであり、資源の少ない途上国には輸出するものが少ないからである。そこの国民は、常にある程度飢えており、人口は長い歴史の中で飽和状態になっているのが普通である。

 

これらから、食糧戦争での円安による敗戦は、途上国型の国に日本は近づきつつあることを示しているのではないだろうか。つまり、かなり屁理屈的で円安誘導に対する批判を回避して、やっと輸出ができる国になりつつあるのではと、日本の将来を憂う次第である。

 

3)輸出と輸入の70年間の変化:

 

下に日本の輸出入額の推移を示す。このグラフから、日本経済の変化を読み取ることができると思う。

1980年ころまでは、輸入額が輸出額を上回ることもあるが、ほぼ同じ額である。急増する輸出入は、荒廃の中から欧米先進国のレベルに急速に近づく日本の姿が想像される。輸出で得られた外貨は、全て輸入に使われた時代である。それらは、食糧やエネルギーの他、インフラや工場設備などの物品輸入だった可能性が高い。(上図の下のグラフ)

 

1985年ころから輸出が輸入をかなり上回っており、円高にするように外国からの圧力が強い時代である。1980年代、日米の自動車貿易戦争が熾烈になり、日本車がハンマーで叩きわる場面がテレビで報道されたこともあった。https://www.webcartop.jp/2018/12/307898/(図上のグラフ)

 

リーマンショック(2008年秋)の翌年、輸出入が大きく落ち込み、元のレベルへの回復には数年を要した。2013年から2020年まで、輸出入の額はほぼ一定であり、輸入が輸出を上回ることも多くなった。(図上のグラフの右端部分)日本製品の国際競争力が低下したことを如実に示している。

 

日本経済の国際競争力の全容は、資本収支や金融収支なども見る必要があるだろうが、傾向の理解には上の図の理解で可能だろう。つまり、日本の工業は国際競争力を失う途上にあり、今後更なる円安に進む危険性が高い。そして、最初にある商社マンの言葉として引用したように、食糧やエネルギーの確保が、円安で困難になることが想像される。

 

日本が中国などの発展してくる途上国と競争して、これ迄同様の生活水準を維持するには、国民すべてが、戦後60年までの慣性に頼っては生活ができないことを自覚し、非効率な社会慣習、例えば社会での低い労働流動性や会社や役所に於ける情実人事など、の解消を実現する必要がある。デジタル化も必要だが、先ずはそれが遅れる原因、その原因を放置する慢心でカバーした怠惰を追放すべきである。

 

4)財政支出拡大は日本経済を救うのか?

 

最近のテレビでは、財政拡大が日本経済を成長に導くという議論を多く聞く。その主導役には元内閣官房参与の藤井聡京大教授や経済学者の三橋貴明氏を中心にしたグループが居るだろう。(補足6)

 

日本は円建て国債が発行可能なので、国はそれで財政を拡大し需要不足を解消するべきであると主張する。それによって経済の循環が正常になり、デフレが解消され、他の西欧諸国なみに成長するという考えである。私は、その危険な方法でも、日本経済は嘗ての活力をとりもどさないと思う。

 

日本の低迷は、技術力の低迷や、新規投資をする知恵と勇気の欠如であり、国民一人一人の実力の無さに起因する。日本の会社でも、有能な経営者が新鮮且つ精緻な思考で会社を引っ張れば、高い生産性と収益性を実現し、結果として高い給与を出している。補足に例を上げる。(補足7)

 

例えば、自動車会社日産の経営が傾いたのは、経営者が採算の取れない部門を整理する能力が無かったからだと言われ、実際フランスルノーから送られたカルロス・ゴーンは、定石通りに行って黒字化を果たした。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12556307937.html

 

つまり、日本の低迷は横並びと長幼の序などを重視する日本文化にある。そこに手を入れる工夫をしないで日本経済の復興はない。有能な政治家の出現が必要だ。それには、現内閣に60%ほどの支持を与える日本国民の政治に於ける関心と参加が、現在以上格段に向上しなければ無理な様に思う。

 

最後に参考にした文献を追加しておく。

世界の貿易依存度:https://www.globalnote.jp/post-1614.html

日本の低過ぎる輸出依存度:https://www.jftc.or.jp/shoshaeye/angle/angle2007078.pdf

 

補足:

 

1)米国民主党左派のバーニーサンダースの経済ブレインであるケルトン教授は、MMT (modern monetary theory) 理論を提唱している。それは、自国通貨で借金(国債)ができる国は、財政赤字や政府債務の大きさを気にせず、継続的に財政出動できるという理論である。多くの学者はその考えに賛同していないのは、物価の上昇がすぐ起こると予想するからだろう。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12500444209.html 

 

2)日本の右派は、「ロシアが朝鮮半島を占領して、次のターゲットとして日本を狙う。そこで対露防衛のために、無防備で防衛意識の無かった李氏朝鮮を足場にすべく半島へ進出した。その結果、中国清と衝突したが、それに勝利することが出来た。米国の黙認を得て朝鮮を併合した後、満州を独立させた」のように主張するかもしれない。しかし、本当の意図は、日本人が満足に食っていくための領土拡大だったと思う。そして、ロシアの極東進出も満足に食っていくためだった。これらの戦争の本質は、生物界の生存競争である。

 

3)現在の貿易における決済通貨は、米ドルである。それは米国の国力と、米国金融を支配するユダヤ資本の成果である。それを脅かすことは、個人では死を、国家では米国による成敗を意味する。イラク戦争とイラクが石油決済をユーロにしたことの関係は、米国による月旅行の捏造等とともに、日陰の世界での常識である。そして、日陰の世界の方が日の当たる世界よりも大きい。

 

4)オーストラリアやカナダも現状では、パソコンや自動車などの工業製品は輸入に頼っている。資源や農産物を輸出して得た外貨(米ドル)がなければ、それらは現状入手できない。その意味では、貿易に依存している。しかし、それはその方が便利だからであり、死活的な国家の問題ではない。

 

5)ここで、資本や金融の収支が十分なプラスなら良いなどと、無責任な茶化しを入れないでほしい。日本の一流会社は既に4割ほど、外国の所有である。尚GDPは、民間消費(C) + 民間投資(I)+政府支出(G)+輸出(X)-輸入(M)で表される。貿易額は、輸出−輸入の形でしかGDPに算入されないが、GDPを一定額以上に保つエンジンの役割を持つ。

 

6)彼らは、一昨年に米国左翼の学者ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授を日本に招き、財政赤字はそれほど気にする必要がないという彼らの考えの裏書をさせている。しかし、ケルトン教授のMMT理論は、米国でも正統な経済学からは遠いし、長期には成立しないだろう。

https://www.nicovideo.jp/watch/so35413400

 

7)東証一部上場のキーエンスという会社がある。株価総額が17兆円をこえる会社に成長した、FA(FA=工場自動化)センサーなど検出・計測制御機器大手である。株価総額では、日立製作所の3倍に近い会社である。平均年収(給与)が1750 万円ほどで、30才の時の年収が1500 万円をこえる。

 

 

ユヴァル・ノア・ハラリ は、イスラエルの歴史学者。ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授 。著書の「サピエンス全史」は世界的ベストセラーである。彼の2020ダボス会議での「How to Survive the 21st Century」という講演がyoutube上で公開されている。ここで、その感想(批判)を書く。

 

ハラリは、AIの高度利用による文化的政治的な弊害を説明し、それを避けるには地球規模の国家間の協力拡大が大切だと主張している。地球規模の国家間の協力拡大を主張する際に、その反対としてトランプのナショナリズムに言及しているので、それはダボス会議を主催する「世界経済フォーラム(WEF)が主張するグローバリゼーション」の実9践・実行を意味するだろう。

 

このグローバリゼーションという言葉には注意が必要である。それは”グレートリセット”を含む政治的グローバリゼーションと同じ趣旨のものであり、WTOIMFを中心にこれまで進められた経済分野に重心を置いたグローバリゼーションに留まるものではない。

 

なお、トランプのナショナリズムは、米国を支配する金融資本やその影響下にあるネオコンが主導するグローバリゼーション勢力から、米国の政治的実権を取り戻す運動である。それに対する米国“ネオコン”側は、両勢力間の戦いに何が何でも勝利し、トランプ側(つまり米国を建国したWASP側と現在の共和党主力側)から米国を完全に奪いとり、米国をグローバル世界の中心にしたいのである。

 

彼らの背後にある世界金融を支配する勢力は、20世紀前半の世界共産主義革命を第一次グローバリゼーションとすれば、第二次グローバリゼーションを目指している。現在、それを主唱して国際的に活動している人たちの欧州での中心に、世界経済フォーラム(WEF)が存在し、WEFが毎年主催している会議がダボス会議である。

 

そこに招待されたユヴァル・ノア・ハラリが、WEFの応援として行ったのが、今回の講演である。そのような背景を知らないと、結論部分が十分理解できないだけでなく、トランプはトンデモない政治家だということになってしまう。講演前半部分での、世界がデジタル独裁国とデジタル植民地国に二分される可能性、伝統的な人類文化の基礎にある哲学の破壊などは新しい話題だが、誰もが感じていることだろう。

 

この2020年に行われた講演を知ったのは、最近HaranoTimesにより字幕をつけた動画がyoutubeで公開されたからである。https://www.youtube.com/watch?v=MKQb6prbdt8 英語に堪能な方は、WEFが公開しているものがオリジナルであり観るのに良いだろう。

 

WEFの公表している動画:

 

 

以下に少し感想を書く。筆者は、国際政治の素人であることをお断りしておきます。

 

デジタル独裁の可能性:

 

AIによる個人の監視と行動の制御は、大きな問題である。しかしこの最初の段階は、既に中国で現に行われている。社会信用スコアによって国民一人一人の行動の自由度を決定するシステムである。

 

社会に貢献する行為にはプラスの点、逆に社会を乱すような行為にはマイナスの点を付け、合計点が社会信用スコアで、それが個人の行動の自由度が決める。例えば、マイナスX点からは航空機チケットが買えないなどである。

 

このシステムでは、ネット接続した監視カメラやマイクを用いて、個人毎に行動と言動を集積している。これに、学歴、家系、宗教、趣味や嗜好などの個人データを加えてAIで解析すれば、個人評価だけでなく行動制御まで可能でなるだろう。更に、マスコミ等を利用した大衆扇動により、個人は自分の意志で政権側のこのシステムを支持するだろう。つまり、個人ハッキングの完成である。

 

政敵にも用いられるので、このシステムを一定期間支配下に置けば、容易に国内で独裁体制が完成するだろう。更に技術が進んで範囲が世界規模になった場合、他国の指導者からその国全体にまでこの支配が及び、デジタル独裁国が世界を支配する可能性がある。

 

無意味階層、デジタル植民地の発生

 

中程度の訓練を要する仕事の多くは、AIにより自動化される。この技術文明の発展に着いていけなくなった人たちは、「不要な人間」という階層をつくる。彼らと大きな力をもったエリート層の間に分断が発生する。ここで、不要層を大問題のようにハラリは言う。

 

「嘗て人間は搾取と戦わなければならなかったが、21世紀には不適合との戦いが問題となる。不適合者になることの方が被搾取者となるより、ずっと悪い」と。しかし、少なくとも先進国では、労働時間の短縮とベーシックインカム制などの所得の再分配制度で問題を目立たなくするだろうから、ハラリの上記言葉ほどの大問題ではないと思う。

 

技術文明についていけない国々は、現在の延長上では、破産するかデジタル独裁国の植民地となるだろう。世界を支配する少数のデジタル独裁国とデジタル植民地との間の世界の分断は、この近未来世界のモデルにおける最悪のケースである。

 

この事態を避けるには、グローバリゼーションが必要だとハラリは言う。このハラリの本講演での結論は我々民主主義を維持したい側として、正しいだろうか? 

 

ハラリは言う。「グローバリズムと言っても、世界政府を樹立したり、国の伝統を捨てたり、国境を開いて移民を無制限に受け入れる事ではありません。むしろ、グローバリズムとは、世界のルールを遵守する事を意味します。それぞれの国の独自性を否定するものではなく、国家間の関係を規制するだけのルールです。」

 

ここでのグローバリゼーションの説明は、民主主義国の主張する範囲を逸脱しない。しかし、同時にこのレベルのグローバリゼーションなら、米国トランプ(当時)大統領も支持するだろう。ハラリは、ダボス会議の主催者がトランプに向ける本物のマシンガン(主権国家体制を破壊するグローバリゼーション)を真似た模型のマシンガン(現状の経済のみでのグローバリゼーション)で、トランプを射抜く振りをしているのかもしれない。

 

そのような事情なので、ハラリの主張は矛盾に満ちている。その第一に、そのタイプのグローバリゼーションでは、この問題は解決しない。何故なら、世界には公然と世界のルールを無視する国々が多く存在するからである。それは中国であり、残念なことに時々米国もそのようになる。(ハラリが中国による国際ルール無視をoverlook (見過)しているという指摘は、HaranoTimesさんがその字幕付き動画で行っている。)

 

建国以来のメジャーな人たちが支配する伝統的な米国は、民主国家のリーダーと言えるかもしれないが、マイナーなその他の人たちを束ねて、米国を足場に世界の金融と経済を支配する人たちの下にある米国は、彼ら自身のルールで動いていると思う。

 

そのような現状では、19世紀までに欧州で作り上げられた主権国家体制とハーグ陸戦条約や第一次大戦後のパリ不戦条約で出来上がった国際秩序を維持して、この近代西欧の国際政治文化(及び西欧の価値の文化)の範囲内で努力することが最善であると私は思う。

 

それは、全ての国にはその国の歴史が存在し、その発展段階はそれぞれ異なるからである。世界が主権国家体制を堅持すれば、おくれた国々もデジタル植民地とならないで、独自のタイムスケールで発展が可能である。

 

③文化あるいは哲学の崩壊と人間のあらぬ方向への進化

ハラリは、生物としての人間の未来についても以下の様な指摘をする。

全てをAIが決定する時代になると、人間の智力ではそれに追随できなくなる。そして文明の進展の方向を人類は自分たちの哲学で照らせなくなる。また、40億年この自然に順応することで進化してきた人類は、新しいAIが作り出す環境に適合するように進化し、バイオ技術もそれに参加して、思いやりや芸術的感性、精神的な深みに欠ける人間が生まれる可能性がある。(補足1)

しかし、この問題は別に機会があれば考察することにして、本ブログ記事の結論を急ぐ。


④ ハラリの誤魔化しは、WEFへの忖度なのか?

ハラリは、世界の国々が夫々異なった発展段階にあることを完全に無視し、”グローバルな協力”こそ世界を救うと言っている。そしてその対極に米国大統領(ここではトランプだろう)を置き、彼はその協力体制を破壊する側にあるとして、その言葉を引用して批判する。

「米国大統領などは、ナショナリズムとグローバリズムの間には避けられない矛盾があり、自分達はナショナリズムを選択すると言っている。しかしこれは危険な間違いです。21世紀には、自国民の安全と未来を守るために、外国人と協力しなければなりません。優れたナショナリストは、グローバリストでなければなりません」と。(Harano Timesの動画22分30秒から)

この部分は多くの意図的な歪曲を含む。トランプは決してグローバルな協力を否定していない。ただ、自国民の安全と未来を守るため必要なのは、外国との協力であっても、外国人との協力とは言わないだろう。トランプは、国境を股いで自由に行われる人と人のレベルの協力を含む形でのグローバリゼーションには反対している。上記「外国人」(foreigner)というハラリの言葉を、英語で確認してほしい。

一部繰り返しになるが、世界は200程度の独立国で構成され、各独立国は夫々の歴史と文化に基づき独自の法と独自の慣習に従って統治されている。各国は自国の事情の許す範囲で国を開き、他国と国際的なルールに従って協力し、国の繁栄と紛争防止に努める。節度のないグローバリゼーションは、世界を混沌に導くだけであり、決して安全な世界を形成に役立たない。

ハラリは、世界史をダボス会議のために歪めて記述している。それが「私たちは既に、人類が歴史上生きてきた暴力的なジャングルから脱出しました。何千年もの間、人類は常に戦争が絶えないジャングルの法則の下で生きてきました。ジャングルの法則とは、近くにある二つの国は、来年にはお互いに戦争を始める可能性があるというものです。」(Harano Timesの動画の25分あたりから)という言葉に表れている。

この誤った世界に関する理解が、ハラリのグローバルな協力が世界を救うという講演内容の前提である。これに賛成する国際政治の学者や評論家は皆無だろう。ハラリ自身が信じてはいないだろう。はっきり言って、大嘘である。

世界はいまだにジャングルの世界であり、その中の比較的安全な場所に、民主主義が城を築いている。(補足2)その証拠に、中国が別の独立国と言える台湾を今年攻撃するかどうかと言われている。更に、ロシアがウクライナのNATO加盟を妨害するため、ウクライナに侵攻する可能性が示唆されている。

ハラリは、一体どこの世界のことを言っているのだと、腹立たしい気持ちにさえなる。

(1/3/6:05、小編集;1/4/6:06、表題の変更;17:00 編集、最終稿)

 

補足:

 

1)このAIの背後には少数の人間がいる点が直接的には言及されないのが、この講演のインチキというか、プロパガンダ的な理由である。アルゴリズムを作り、パラメータを入力しなければ、AI搭載の何かは動作を始めない。

 

2)中国の朱成虎が、「将来日本やインドは核兵器で潰して、地球上の人口削減すべきかもしれない」と言ったという。(ウイキペディアの朱成虎参照)これが何でも有りで国際条約なんか紙切れだと一部の幹部が豪語する中国共産党政権の超限戦である。