表面張力は多くの日常現象に関係している。例えば雑巾で埃を拭き取る時に水の表面張力が中心的役割を果たしている。また、水分を含んだ砂場を歩くとき、くっきりと足跡ができるのも表面張力があるからである。ここでは、表面張力のメカニズムについての分子原子のレベルからの解説、およびそれら日常現象での表面張力の働きまでを解説をする。(注釈1)
 
目次
1)表面張力とは何か
2)固体や液体での原子・分子の凝集エネルギーと表面張力との関係について
3)固体表面を濡らす水について:
4)アポロ宇宙船が月面着陸をした際の靴跡について
5)拭き掃除のメカニズム
 
ここで、原理的な部分に関心のない方は、3)から読まれても良いと思う。
 
1)表面張力とは何か:
表面張力というのは、文字通り表面の張力である。シャボン玉が出来るのは、表面張力の働きによるという話を聞く。しかし、その種の説明では今ひとつ表面張力の意味がわからないだろう。そこで、長さL1(m)で面積がL1L2(m)の表面を作る思考実験を紹介して、表面張力という物理量は何を意味するかについて説明する。
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図(1)において、シャボン液でも良いから、それを用いて長さLの面を力Fで幅ゼロからゆっくり引っ張って、幅L(面積L1L2)にまで広げる。(注釈2)力F(ニュートン)でL2(メートル)引っ張ったとすると、最終的に要したエネルギー(仕事)はFLジュールである。
 
つまり、表面は必ず縮もうとするのであり、ここではその力を1メートルあたりFニュートンとした。従って、その表面の張力はTF/L1である。つまり表面張力Tの単位は、N(ニュートン)/m(メートル)である。その面を作るのに要したエネルギーはFL2ジュールだから、表面張力とその表面積の積(=表面エネルギー)となる。
 
つまり、表面張力とは単位面積(1平方メートル)あたりの表園を作るエネルギーのことである。通常の水でもシャボン玉でも表面張力は方向によらないので、上のケースでもあらゆる方向にF/L1という張力が働いている。ここで、上記思考実験で、裏も同様の表面であると考えれば、片面の表面張力は上記計算の半分となる。
 
2)固体や液体における原子分子の凝集力と表面張力との関係について
 
物質は、液体でも固体でも、分子原子で構成されている。一種類或いは複数の種類の原子が積み重なった形でできる場合や、数原子或いはもっと多くの原子が先ず分子をつくり、それが更に集合してできる場合がある。
 
つまり、金やアルミなど、原子が集合した形の金属、石英のように珪素原子と酸素原子が結合して積み重なる場合、更に希ガス(他の原子と結合しない原子)であるキセノンのように弱い引力で積み重なる場合などがある。
 
金属や金属酸化物などは物質全体に化学結合を形成しているが、希ガス原子や水分子などは、電気分極などによる比較的弱い電気的な力で凝集している。(注釈3)分子が球状であり、力に方向性がなければ、分子は球を積み上げた構造(最密構造)をとって固化(結晶化)する。一方、水分子のように球状でなく、方向性の強い力でつながっている場合、幾分嵩高い形で固化する。(図(2)参照)
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水分子は、図(2)左下のように酸素(赤球)と水素(白球)から構成される非直線分子である。酸素は少しマイナスに、水素は少しプラスになるため、その結晶構造は右下のような幾分嵩高い構造(正4面体構造)をとる。これら分子が凝集して液体や固体で存在するのは、原子や分子がその静電力により互いに引き合っているからである。つまり、集まればエネルギーが下がるのである。
 
上の図でも分かる様に、表面にある分子は一般に内部にある分子よりも少ない分子としか相互作用できないので、エネルギーの高い状態にある。これが表面エネルギー(=表面張力と表面積の積)の発生機構である。従って、例えば水を例にとると、一滴の水全体では、表面積が大きいほどエネルギー的に損である。その結果、無重力空間で一滴の水を外に出せば、すぐに最小表面積の球状に変形する。
 
どの程度表面分子のエネルギーが高いのか、その目安を得るために、原子・分子の配列から考えてみる。
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 図(3)の最も簡単な最蜜構造を例にとり、一つの原子或いは分子(以下、分子)が、何個の分子と相互作用するかを数える。物質内部では一個の分子は12個の分子と最近接であり、強く相互作用できる。しかし、表面では9個の分子としか最近接になり得ない。従って、荒い近似だが表面分子の分子間相互作用は25%減少する。表面分子のエネルギーが相当高いことがわかると思う。
 
重ねて言うが、表面張力とは、この表面でのエネルギー増加分を単位面積あたりで表現した物理量である。この表面張力の発生原因は、固体でも同様であるから、表面張力の存在は固体液体を問わないということが分かる。氷を無重力空間に出しても球状に変形しないのは、それは分子間の結合の組み換えが液体におけるようには出来ないからである。
 
3)砂粒子表面を濡らす水により、砂まんじゅうができることについて:
砂はシリコン、アルミ、マグネシウムなど半導体や金属元素と酸素の化合物である。その原子構造において、酸素原子は幾分電気的にマイナスになり、金属原子などは幾分プラスになる。既に説明したように、水は水素と酸素の化合物であり、水素は若干プラスに酸素はその2倍の電荷だけマイナスになる。
 
少量のプラスとマイナスの電荷が分子内に生じているので、ある分子のプラス(マイナス)部分は他の分子のマイナス(プラス)部分に近づくことで、全体のエネルギーが下がる。多くの分子が、全体の静電エネルギーを最小にするように自動的に配置をとって凝集し、液体や固体となる。上の図の氷の立体分子構造もその電気的相互作用を最大に(エネルギーを最大限マイナスに)するように並ぶのが原因である。
 
固体表面に水を落とすと、水は固体表面のプラスやマイナスの電荷を水分子のプラスやマイナスで中和するように配置して、固体表面のエネルギーを下げる。それが、砂浜の砂が水に濡れる現象の分子レベルからの説明である
 
図(4)の上は、砂粒子が水に濡れるプロセスを表す。砂表面に露出した酸化ケイ素や酸化アルミなどは、水分子と相互作用することでエネルギーが下がり安定化する。しかし、右の図のように水の表面は露出したままなので、水の表面張力によるエネルギー分だけ、まだエネルギー的に高い。
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ここで、図(4)下のように、水に濡れた砂粒子どうしをくっ付ければ、表面の水どうしがくっつくことで、全体として水の表面積が減少する。従って、水に濡れた砂粒子は互いにくっついた方が安定(エネルギーが低下)だということになる。
 
この時、図(4)下のプロセスが生じるには、水で濡れた砂粒子どうしを機械的にくっ付ける必要がある。砂粒子が非常に近い場合は自動的に水の表面張力でくっつくが、それでも大きな砂の塊にまではならない。しかし、手で砂まんじゅうをつくったり、靴で水分を含んだ砂を踏みつけたりした場合、砂粒子がくっついてその形にくっきりと固まる。水がなければそのようなことは起こらない。
 
この現象はしっとりと濡らす程度の水の量で起こりやすい。例えば、砂全体が水で覆われてしまうような場合は、このような現象は起きない。水表面は砂全体の外にでてしまうからである。
 
4)アポロ宇宙船が月面着陸をした際残した靴跡について:
 
アポロ計画で、宇宙飛行士が月面にくっきりと靴跡を作ったことになっているが、あのような靴跡は月面では決して出来ないだろう。それは月表面には水あるいはそれに代わる液体がなく、砂は完全に乾いた状態であると思われるからである。その件については、以前ブログ記事として詳細に議論した。
 
これは、水分がなければ砂はサラサラであり土饅頭ができないという事実は、非常に寒冷な地域で降った雪を固めて雪合戦ができないことと同じく、表面張力の問題である。尚、アポロ計画の嘘については、その月面での歩行についても解析している。地上での一歩は、約0.6秒(身長180cm位の人)ですが、月面では2.45倍の1.5秒くらいになります。アポロ乗組員の月面歩行は、地表と同じリズムのように見えます。これも捏造の証拠です。詳しくは:<a href="https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2019/07/blog-post_20.html">https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2019/07/blog-post_20.html</a>;
  (イタリック部分は、2019/8/26追加)
 
5)拭き掃除のメカニズム
 
拭き掃除をそのプロセスを考えて表現すれば、雑巾を水を濡らして、埃粒子を雑巾にくっ付けることである。このプロセスも、砂まんじゅうができるプロセスと同じように、説明することができる。
 
雑巾を作っている木綿はグルコースが積み重なった構造のセルロースという高分子からなっている。その構造をあるサイトから引用させてもらって以下に掲載する。
 
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セルロースはOH基を高い濃度で持つ点で水(HOH と共通しており、水がくっ付き易い。木綿の表面が水で濡れることで、エネルギー的に安定になるのである。それが、木綿タオルが吸水性に優れている理由である。その事情は砂粒子と水の関係と同じである。
 
埃が、綿ぼこりなど、元々木や草であった微粒子の場合、雑巾の表面に存在する水を共有することで、その表面エネルギーが減少する。つまり、砂まんじゅうができるプロセスと同様であり、雑巾が片方の砂粒子であり、埃がもう一方の砂粒子と考えれば良い。
 
(以上で説明を終わる。11日の早朝少し修正したが、尚文化系の方にはわかりにくいかもしれない。言葉を用いても尚、情報の正確な伝達は容易ではないことを改めて痛感した次第です。)
 
注釈:
1)筆者は、荒く言えばナノ領域の分子化学が専門でした。表面張力などマクロ領域の物理化学は専門近傍の領域です。
2)「ゆっくり」とは専門用語を用いれば“準静的”にと言うことです。つまり、釣り合った力で引っ張って面を広げるという意味。
3)重い希ガス原子のキセノンは面心立方の結晶となる。引力はいわゆるファンデアワールス力という瞬間的に生じる電荷の偏りによる引力で説明されている。