小鳥たち | やるせない読書日記

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書評を中心に映画・音楽評・散歩などの身辺雑記
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詳しいことは後日、書きますがアナイス・ニンはある一つのことの体験者として有名である。


父親との近親相姦である。


そして付け加えるのならアナイス・ニンは美貌の人であった。新潮文庫の裏表紙にはヘンリー・ミラーとの


奔放な愛に生きた美貌の女性作家ニンが、一人の老人コレクターの楽しみのために匿名で書いた、繊細


脆く、強烈で妖しいエロチカ。とある。近親相姦もやっちゃってヘンリー・ミラーの恋人ならバタイユの「眼球譚」


やアポリネールのエロ小説のようにはちゃめちゃなポルノかと期待したが。


おしゃれな短編集だった。大体、ドストエフスキーなんて単語があるエロ本なんてありませんぜ。旦那。


こんな程度で匿名で書くこともなく依頼した老人コレクターもこれで満足したのだろうか。


ここに集めたエロティカは『詩を切り落とせ』という注文主の至上命令に応えて書かれたというのには裏腹に随分と


美しい文章であると思う。もっとも訳者が矢川澄子なので矢川の上品な文体が猥雑さを遠ざけているのかもしれない。


レズビアンが一回出てくるだけで、サディズム、マゾヒズム、スカトロも出てこないきわめてノーマルな性行為だけしか


描かれておらず、陋劣で下品な感情を味わうことができず非常につまらない小説であった。


  彼女は感じ取る寸前みたいだった。花のようにひらいたその肉といい、両脚をひろげたさまといい、そんな


  ふうだった。口は濡れてキスを待ちかまえていたし、セクスの唇だっておなじだったにちがいない。彼女は


  脚をひらいて、わたしに見せてくれた。わたしはそっとそこに触れ、唇をひろげて潤っているか検べた。


  クリトリスに触れた時は感じたみたいだけれど、こちらとしてはもっと大きなオーガズムを与えてやりたか


  った。


  入浴のためまだしめっている彼女のクリトリスにわたしはキスした。恥毛もまだ海草みたいにしめっていた。


  メアリのセクスは海の貝みたいな味がした。すばらしい、新鮮なしょっぱい貝殻だ。ああ、メアリ!わたしは


  ますます忙しく指をうごかした。メアリはベッドにのぞけったので、セクス全体が目のまえにさらけだされた。


  しっとりと、開いて、椿か、薔薇の花びらみたいで、びろうどかサテンのようだ。ばらいろで新鮮で、まだ誰


  にも触れられたことがないみたいだった。さながら幼い少女のそれだ。


「マンドラ」というレズビアン小説の一節である。特に展開もなく女性同士のセックスが描写されている。


薔薇、椿、びろうど、さてん、セクスという言葉が猥褻なイメージを浄化させている。


大体、女の人が書くポルノを男が読んでも仕方がないような気もする。多分どうしてもポルノには嗜虐の楽しみが


無くてはならず、受身である女性にはそれは分らないのではないだろうか。


全編とも性描写が主眼でストーリーは二義的だが、公開の絞首刑を見物の群衆の中で女が見知らぬ男に後ろから


犯されてしまう「砂丘」という作品はおちが効いていた。絞首刑が執行された瞬間、男は射精する。


定石どおりといえばいえるが。


矢川のアナイス・ニンへの評価には矢川独特のものがある。アナイス・ニンは矢川がそう規定したいものとは異なり


奔放な女性であった気もするが。この短編集はアンアンのセックス特集で取り上げられるのにちょうどいいと思う。


矢川によって翻訳された文章は中年男には気恥ずかしい。