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〈 生殖関連の裁判例 〉
妊娠を機に悪化する喘息。
妊娠31週に、
切迫早産で入院、
母子死亡。
前橋地方裁判所平成10年6月26日判決
判例時報1693号110頁
前回の記事
前回までのまとめ
【 昭和58年(19歳) 】
大学看護学科入学
喘息の診断
【 昭和62年4月〜平成2年2月 】
月2.3回の喘息発作
うち、昭和62年11月〜平成2年
T病院で喘息治療。
【 平成2年2月〜4月 】
1日おきの喘息発作
薬の服用なくおさまる程度
⬜︎ 妊娠後、喘息悪化していく。
【 平成2年6月〜8月 】
K病院の内科で喘息の投薬治療
【 平成2年7月〜11月 】
国立T病院の婦人科・内科を通院
喘息は投薬治療
【 平成2年11月末〜12月 】
国立G大学病院の内科で投薬治療
妊婦健診・分娩も同院で希望
【 平成3年1月9日 】
G大で31週の定期妊婦健診。
下腹部の張りを訴え、
NSTを40分装着、
6回の子宮収縮があり、
「切迫早産」診断となり、入院。
*NST:子宮収縮と胎児心拍を、
同時に見る装置
【入院後】
⬜︎ 入院17日目
母体心肺停止・子宮内胎児死亡
⬜︎ 入院25日目
死亡した胎児が自然分娩で娩出
⬜︎ 入院30日目
脳死の判定
⬜︎ 入院32日目
死亡
夫・母に承諾を得て、
積極的延命治療を中止。
58.アスピリン喘息の対処
【裁判所採用の医学的見識】
鎮痛解熱剤で、
アスピリン喘息発作が起こった時の処置
⬜︎ 意識障害を伴う重症発作の場合、
まずβ刺激剤「エピネフィリン」を使う。
※ボスミンと1000倍液の0.2〜0.6mlを皮下注射。
エピネフィリン注射が有効な場合、
発作がある程度改善するまで、
15〜20分間隔で反復して使用。
⬜︎ 今回の女性Aのように、
解熱鎮痛剤の坐薬の場合には、
浣腸して薬剤を排泄させる。
⬜︎ また、直ちに血管を確保し、
アミノフィリンの点滴静注を行う。
⬜︎ 次いで、
副腎皮質ステロイド剤を点滴静注。
⬜︎ そして、
吸入薬が使えそう
(末梢気道まで到達しそう)
であれば、
β刺激剤を吸入。
⬜︎ さらに重篤な発作の場合、
気管内挿管・人工呼吸管理が必要だが、
重症呼吸不全時の、
挿管・人工呼吸装置の装着には、
ときに危険を伴う。
⬜︎ その為、
緊急でやむを得ない場合を除いて、
複数経験した事のある、
専門医の処置が望ましい。
59.インドメタシンが死亡原因か
⬜︎ 裁判所は、
インドメタシン坐薬の投与と、
女性Aの死亡に、
因果関係があるか検討した。
60.裁判所の認定【入院後】
⬜︎ G大産婦人科に入院後、
女性Aの喘息症状は、
1月23日夜〜24日12時は、
それまでよりも落ち着いた状況だった。
⬜︎ なお、1月23日に往診した、
内科のK医師の証言では、
女性Aの喘息症状は、
この日が最も良好であったとの事。
⬜︎ また、1月24日に、
お見舞いに行った母親は、
喘息症状は見られなかったとの事。
61.裁判所の認定【発作時】
⬜︎ インドメタシンが投与後、
55分経過後の22時20分に、
「息苦しい」と起座呼吸となった。
*起座呼吸:上体を起こすと、
息苦しさが少し改善する。
⬜︎ さらに、その後は、
これまでに経験のない、
急激で激烈な発作が現れた。
⬜︎ 22時30分には、
呼吸困難著明となり、
全身チアノーゼ、
全身硬直、
呼吸停止、
意識消失、
心停止となり、
アスピリン喘息発作の臨床像に、
極めて類似している。
62.解剖について
⬜︎ 気管支喘息発作が起こり、
呼吸不全で死亡した原因について、
死後、病理解剖した。
⬜︎ 解剖の結果、
死因は、
インドメタシンでのアスピリン喘息発作と、
矛盾する点はない。
63.血中濃度のピークと発症時刻
⬜︎ 投与されたインテバン坐薬は、
常用量の50mg。
⬜︎ 常用量投与した時の血中濃度は、
約1時間後に最高濃度となり、
喘息発作の発症時刻にも、
矛盾がない。
64.女性の今までの状況を検討
⬜︎ 女性Aは、
かつて別の病院で、
酸性非ステロイド性消炎鎮痛剤の、
「ノブゲン(イブプロフェン)」を、
処方されたことがあった。
⬜︎ 同剤を服用して、
アスピリン喘息発作を発症せず、
『インドメタシンで初めて発症した』
としても、
医学的知見との矛盾はない。
⬜︎ 女性Aには、
通年性の喘息発作があり、
小児喘息の既往症はなく、
死亡時27歳で、
発症のピークである30歳台に近く、
女性であり、
家塵に対するIgEが陰性で、
以前から鼻水が多いなどの、
鼻炎の症状もあり、
アスピリン喘息患者の臨床的特徴と、
整合性がとれる。
65.裁判所判断:因果関係あり
これらの検討から、
裁判所は、
『インドメタシンの投与が原因で、
アスピリン喘息発作を発症、
呼吸困難となって、
死亡したと認める事が相当』
と判断した。
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