例によって花見の期間に休館する高田図書館のかわりに、直江津図書館に『氷点』を返しに行った。
返却が済んだ後も、息を吹き返そうとしている陽子の、これから歩んでいく未来に思いを馳せながら館内を歩いた。
高田図書館には無いDVDライブラリーの前を通りかかった。
ライブラリーと言ってもささやかなもので、小さな書架にまばらにディスクが収まっている小さなコーナーだ。
内容も行き当たりばったっりな感は否めず、ちょうどレンタルショップの中古ディスク販売コーナーの体といえばわかりやすい。
「クレージーキャッツはないかしら?」
「キートンの掘り出し物でもあれば借りるんだけど」
などと眺めていた。
すると、あったのだ。
脳内にまだ鮮明に残る活字が、目の前に像を結んだ。
『氷点』
タイトルは知っていても長年手をつけずにいた、と言うより自分が読むことは無さそうな気がしていた『氷点』である。
映画化やドラマ化されていて当然のベストセラーだが、何故かそれらの存在も知らなかった。
過去に通った多くのレンタルショップでも、このタイトルを目にした記憶は無い。
それが小説を読み終わった途端に、映画も目の前に現れるのである。
ここで逢うたが盲亀に浮木!
仇に巡り会った浪人みたいな台詞も頭に湧いて、早速宿場はずれで仇討ち、ではなく借りて帰って鑑賞した。
いやはやなんとも濃密な毎日であることよ。
小説読みたての僕にとっては映画との出会いは余録のようなものだったが、とにかく『氷点』づくし、謂わば氷点下に置かれた日々であった。
それにこのあと『続・氷点』も読むのだが、「村井」が登場する度に、成田三樹夫の顔が浮かんでしまい、そこだけは諦めてこの映画の配役の妙を内心称賛していた。