絵巻マニア列伝 (サントリー美術館) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

六本木開館10周年記念展

絵巻マニア列伝

会期: 2017.3.29(水)~2017.5.14(日)

会場: サントリー美術館

開場時間: 10:00~18:00 (金・土及び5/2~5/4は20時まで)

休館日: 火曜日 (5/2は20時まで開場)

公式サイト: http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/index.html

 

 

国立新美術館でムハの《スラブ叙事詩》を鑑賞したついでにサントリー美術館もハシゴしました。せっかくメンバーシップに入っているのだから足繁く通わなければ勿体ない。絵巻マニア列伝はファースト鑑賞。

 

日本独特の芸術文化、「絵巻」。同世代の皆さまなら共感頂けるのではないかと信じるところですが(笑)、私が「絵巻」文化を初めて身近に(?)認識した最初のきっかけは、大和和紀先生が『源氏物語』を漫画で描いた『あさきゆめみし』でした。貝合わせや毬遊び、絵巻、、、古の高貴な人々が好んだ雅な遊興の数々は、もちろん歴史の授業などでも学びましたが、『あさきゆめみし』では彼らの生活、風俗を美しい漫画で視覚的に教えてくれました。美麗な絵巻を両手に広げて繰りながら、読み上げられる詞書に耳を傾けて想像の翼をはためかせたり、仲間同士で評論や議論をしあったり・・・という場面を想像力で疑似体験したものです^^。

 

最近のところでは春日大社展のような日本美術を取り上げた企画展やトーハク常設展でも絵巻の展示はよく見かけますが、その絵巻に特化した、絵巻だらけどっさりこの企画展。これは、見応えあります。印刷技術のない時代ですから、絵巻は1点1点、世界でたった一つの貴重で高価な芸術品、オートクチュールを超えたオートクチュール的豪華一点もの。当然、手に入れられる人はごく限られているし、権力と財力にあかせてコレクターも現れます。そんな歴代絵巻マニアとして有名なのが後白河院に始まって花園院、後崇光院、三条西実隆、そして武士の台頭の時代になって足利歴代将軍、江戸時代には松平定信まで。

 

彼ら歴代絵巻マニアたちがコレクションした貴重な絵巻がどどどーんと集められている上に、彼らが日記で絵巻について記述した部分や貴重な資料も沢山展示されていて、いかに彼らが絵巻に夢中でになったか、どれだけ大切にしていたかという”絵巻熱”の熱さまで伝わってくるようでした。”〇〇様からとても貴重な絵巻を頂きました、表紙もとっても綺麗に仕上げて頂いてとっても嬉しいです”みたいな感謝の手紙などもあって、思わず口をついて出そうになった”いいな~”(笑)。

 

元々中国で流行った絵巻は、上段に絵、下段に文章の合体タイプだったそうです。それが日本に伝わって、絵巻と詞書とに分化して発達し、さらに手に取って観やすいよう、大きさなども日本人独特の工夫が施されていったそうです。こういう、新しいもの未知なものへの好奇心旺盛かつ許容力が大きく、かつ元の形をよりきめ細かく多様性をもったものに工夫しちゃう日本人って本当にすごいし、自分のアイデンティティを誇りに感じます(*'ω'*)。中国から伝わった麺食、しな蕎麦も数えきれないほどのバリエーションをもつ”ラーメン”として発展し今や日本人のソウルフード。日本人ワンダホー。、、、と話がそれましたが、若宮さまのために特別にしつらえた絵巻は、子供サイズの小ぶりに仕立ててあったり。なんて贅沢なお子様でしょう。いいなぁ(笑)。

 

《重要文化財 病草紙断簡 不眠の女》

 

しかしながら・・・貴重な直筆日記や詞書の数々・・・達筆で美しい筆跡の和文を読みこなすスキルが・・・ない・・・(/ω\)。ニッポンの義務教育のお陰で活字になっていればある程度はわかるんだけれども・・・あ~あ、もっと書道をしっかりやっておけばよかった。美しいもの、素敵なものに触れる度にもっと勉強しておけば、もっとやっておけば・・・と後悔していつかちゃんと学びたい・・・と思うばかりで中々実行が伴いませんが・・・(>_<)。いやいや、こういう一つ一つだって、アダム・クーパーが言っているいつか「大きな円」に繋がる1ピース。少しづつ、ちょっとづつ、です。うむ。

 

写実的な絵やユーモラスな絵など、作者によって特徴も様々ですがどれも本当に丁寧に描かれていて美しいです。巻物って、内側に巻かれた状態で保管されていたし、当時でも貴重品だから湿気とか温度とか保管環境も気を使われて大事にされてきたから、風雨にさらされることなく700年前のものでも色彩が残っているんですね。素晴らしいー。細部の小道具まで書き込んであったり、人物の着物の柄も全部違っていたり、本当にすごい。ミュシャ展のために持っていた単眼鏡が、絵巻の細部の鑑賞にも役立ってラッキーでした。

 

物語や伝説を題材にした絵巻も楽しいけれど、現代人の眼からは、当時の風習が偲ばれる年中行事を描いたものなんかもワクワクします。

春日大社展でも展示されていた《春日権現験記絵》にも再会しました。春日大社のシーンには、やっぱり鹿さんが欠かせないのね^^。そして、浮世絵や日本画、春画の類にとどまらず、絵巻にまで《放屁合戦絵巻 》なるものが!日本人、どんだけ放屁好きなの・・・・(笑)。まぁ、日本人に限らないか。幼稚園児が「ウ〇コ」の一言で大喜びする姿は、数世紀前から変わらぬ人類のDNAなんですね(笑)。

 

《重要文化財 石山寺縁起絵巻》

 

そして今回の展示で一番感動したのは、松平定信が製作した故実の図譜《古画類聚》です。

 

《古画類聚_図版篇》 国立博物館「研究情報アーカイブズ」より拝借

 

およそ150点にも及ぶ絵巻から、そこに描かれている図案を個別に書き写して、人物、道具など種類別に分類・整理した古文化財の調査・研究のための資料でもあります。印刷技術もなければコピー機もないし写真もない時代の手作りの資料アーカイブ。圧巻です。松平定信といえば、寛政の改革など歴史の教科書的にも有名ですが、『鬼平犯科帳』や『大江戸捜査網』などの人気時代劇でも馴染深い人物ですが、この展示をきっかけに、さらに親近感と尊敬ポイント&好感ポイントがあがりました( *´艸`)。

 

眺めるのは楽しいけれど、ちゃんとした知識の薄かった絵巻。今回の絵巻どっぷり体験が楽しかったので、ミュージアムショップで初心者にも楽しめそうな美術鑑賞ガイド本『かわいい絵巻』を購入してみました。

 

 

「かわいい〇〇」シリーズ、色々あって琳派のも気になりましたが、そちらはビニールにしっかり封入されていてチラ見できなかったのでまた別の機会に。取り急ぎ図書館からの拝借本を先に読んで返却しないといけないのでちょっと後回しの予定ですが、読むのが楽しみです。