ミュシャ展 (国立新美術館) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業
ミュシャ展
会期: 2017.3.8(水)~2017.6.5(火)
会場: 国立新美術館 企画展示室2F
開場時間: 10:00~18:00
        毎週金曜日、4月29日(土)-5月7日(日)は午後8時まで
休館日: 毎週火曜日(ただし、5月2日(火)は開館)
公式サイト: http://www.mucha2017.jp/


大盛況のミュシャ展、行ってまいりました。企画展示室1Fでは草間彌生さんの企画展も開催中なので、チケット売り場は長蛇の列。これから鑑賞予定の方はくれぐれも、事前のチケット入手を。草間彌生さんの方は入場にも行列ができていました。ミュシャ展は土曜日の午後、入場の列はありませんでしたが会場内は想像通りの混雑。そしてこれまでみたどの美術展よりも、ミュージアムショップが大混雑。どんな商品があるのかを見るのも困難だし、噂通りレジ待ちの列は会場外にまで繋がっていました。絵葉書くらいは記念に買いたかったのですが、その為に何十分も並ぶのはあまりにコスパ悪すぎるのであきらめました(T_T)。図録は、Amazonなどネット通販でも購入可能だそうです。

庭園美術館での並河靖之七宝展で無料貸出しされていた単眼鏡が良かったため、先にミュシャ展を観覧された皆様のレビューも参照させていただいていたため、この機会に単眼鏡を購入して持参致しました^^。そして、初の音声ガイドもトライ。案内人が大好きな檀れいさんだったので思わず(笑)、ですがこれが大正解でした。会場にいながら美術番組を観ているようで楽しめたし、人が多すぎて作品に添えられたタイトルや説明書きを読むのは困難だったので、音声ガイドで把握できて助かりました。まずは、全体の展覧会状況のご報告でした。

ミュシャといえば、アール・ヌーヴォー。パリ。女優サラ・ベルナールの舞台ポスターを始めとした、美女と花をあしらった美麗な絵画の数々。綺麗だなぁ、お洒落だなぁ、とウットリしますが、それ以外の情報も感心も恥ずかしながらこれまで持ち合わせていませんでした。


《四つの花》 「カーネーション」、「ユリ」、「バラ」、「アイリス」

オーストリア領モラヴィアという現代のチェコにあたる地方の出身でチェコ語での正しい発音では「ミュシャ」ではなく「ムハ」となること、希望の美術アカデミーへの入学が叶わなかったり、27歳でパリに出た後も中々チャンスに恵まれず長い間芽が出なかったことなども、この企画展をきっかけに初めて知りました。

遅咲きながらも華やかな成功を納めたミュシャが、50歳で故郷チェコに帰国後、自身のルーツであるスラブ民族のアイデンティティをテーマに16年間かけて描き上げた大型の連作《スラブ叙事詩》20点が、世界発一挙公開の企画展ということで、俄然興味を持ちました。私たちがよく知っているミュシャ的な作品とはひと味違ったムハとしての作品って、どんな感じなんだろう。


《ルヤーナ島でのスヴァントヴィート祭》

スラブ民族と聞いても、ボンヤリとしたイメージしか浮かばない私・・・。農耕や牧畜で生計を立てていた温厚な民族でしたが、ヨーロパのほぼ中心という立地もあり、常にドイツやロシアをはじめとした周辺強国やローマカトリック教会からの侵攻や支配に常に晒されてきた、苦難の歴史をもつ民族。自分たちの文化や宗教、伝統を守るために長い間戦い続けてチェコスロヴァキア共和国としてようやく民族独立と自由を勝ち取るまでを、伝説や史実などを取り混ぜて描き出した、スラブ民族が団結しアイデンティティを無くさないためのメッセージ性の強い作品群。

アール・ヌーヴォーのポスター画等と違って写実的なタッチで、悲惨な戦争や人々の苦悩を暗いトーンで描いている部分もありながらも、やはり他の画家とは一線を画す独特の美しさが漂っていました。何よりもその大きさ、作品の奥行き、緻密な書き込みに圧倒されます。こんなに大きい作品、1枚仕上げるのにいったいどれほどの時間がかかったんだろうとか、はるばる日本まで運ぶのはさぞかし大変だったろうとか、馬鹿みたいな感想しか浮かばないほど、あとはもう、ひたすら壮大な絵画の世界観に呑み込まれて呆然と立ち尽くしました。


《フス派の王、ポジェブラディとクンシュタートのイジー》

暗色ですら、濁りのない美しい発色とグラデーションに、輝くような光の陰影。大勢描かれている人物の表情もひとつひとつ違っていて、ひとりひとりの物語が感じられます。描き込まれた書物や書類の類に至っても1点づつ、手垢が沁みこんだ古文書の風合いや、そこに書かれている文字や挿絵、表紙の装飾まで本当に丁寧に書き込んであって感動しました。近くに寄っても見切れないほどの細かいところまで。単眼鏡大活躍( *´艸`)。

世界史は不得意分野なので、ミュシャ展に関しても美術雑誌の特集などで予習はしていましたが、音声ガイドで1点づつ丁寧に解説を聞けたので、自分では気が付かない点まで鑑賞できてよかったです。ガイドを聞きながら、少し距離をとって全体を鑑賞し、少し近寄って気になる部分を子細に確認し、また少し離れて全体の世界観を俯瞰して、他の作品を観た後まだ1周、2周して観なおして、気になった作品はもう一度音声ガイドで確認して・・・。

1点づつ大きい作品なので、混雑していても、ゆっくりした人の流れをうまくかいくぐってポジションを変えながら十分気のすむまで鑑賞できました。大きく3つのエリアに分かれていながらも全体につながったワンフロアの展示なので、一通り順番に観た後は自由に周回して観なおすのも便利でした。

ただし、《スラブ叙事詩》の作品群だけでなく、所謂ミュシャな作品たちも沢山展示されていたのですが、こちらは普通サイズのため・・・人垣に遮られて、鑑賞するのは困難でした。壁際にみっしり、ほとんど動きのない行列・・・仕方がないので、部分的にしか見えないのは諦めて、展示室の中央で音声ガイドを聞きながら俯瞰して、どうしてもよく見てみたい作品だけ、辛抱強く人垣の合間から単眼鏡を利用して鑑賞しました。残念でしたが、本命は《スラブ叙事詩》。その20点だけ見られればまずは満足だったし、そちらは時間かけて何周もして満喫したので、不満はないです。久しぶりに美しいもので目の保養ができた週末でした^^。