りゅーとぴあプロデュース「エレクトラ」 (世田谷パブリックシアター) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

大好きな高畑充希ちゃん♪「わたしは真悟」の時より小さめの劇場、ということはより身近に観られるチャンス(*'ω'*)。しかも、演目がギリシャ神話のエレクトラで、白石加代子さんと因縁の母娘対決って、観ずにはいられない引力グイグイ。子供の頃は割と近所に住んでいましたが大人になってからはまったく縁がなく街も結構な様変わりした三軒茶屋散策も新鮮。観劇前のラムとパクチーの専門店でのランチも大当たりで楽しい癒しの休日となりました^^。

 

ギリシャ神話に出てくる有名な悲劇、呪われたアトレウス一族の物語。取りあえずザックリ説明すると、まずは父親が戦いの勝利の為に自分の娘を生贄に捧げ、それを恨んだ妻が愛人と図って夫(娘を生贄にした父親)を暗殺。今度は大好きな父親を殺した母親を恨んだ娘が弟と一緒に母親を殺して父親の復讐を果たす。弟は親殺しの罪悪感で気が狂い、姉は親殺しの罪で追放されるという、夫婦親子が互いに憎み合い殺し合う、呪われた運命の家族。娘が父親に強い愛情と執着を抱き母親に対して対抗意識を燃やす「エレクトラコンプレックス」の語源にもなったエレクトラです。

 

恨みつらみの堂々巡りの身内殺しの略図【長女←父親/夫←妻/母親←次女&長男】を頭に入れた状態で、もう少し詳しく説明しますと、、、。

 

ギリシャの都市ミュケナイの王アガメムノン(麿赤兒)と元スパルタの王女クリュタイメストラ妃(白石加代子)の間に三女一男。上からイピゲネイラ(中嶋朋子)、エレクトラ(高畑充希)、クリュソテミス(仁村 紗和)、オレステス(村上虹郎)。月と狩猟の女神アルテミスの怒りをかったアガメムノンはトロイア戦争で窮地に陥り、神託によって長女イピゲネイラを生贄に差し出すことを求められます。アガメムノンは苦悩した末に、国の為に自分の娘を犠牲にする決意をします。

 

ここで余談を差し挟みますと、アルテミスは元々はギリシャ以前の土着の女神だったらしいです。そしてローマ神話ではディアナと同一。女性美、母性、慈愛、の恵みを与える処女神である一方で、荒々しく、疫病と死をもたらし生贄を要求する恐ろしい女神としての一面も持ちます。古から美しい女性は尊くも恐ろしい存在でもあったのですね。シャセリオー展でもクラーナハ展でも、ディアナ(アルテミス)の入浴を偶然見ちゃっただけの気の毒な青年アクタイオンが自分の猟犬に喰い殺されてしまう神話を描いた作品が展示されていましたっけねぇ。

 

再び本題に戻ると、愛しい娘を生贄にした夫アガメムノンのことを許せないクリュタイメストラは、自分の愛人アイギストス(横田栄司)と共謀してアガメムノンを暗殺してしまいます。アイギストスはまんまとアガメムノンの後釜に居座りミュケナイ王としてやりたい放題、父親っ子の義娘エレクトラを下女扱いして辛くあたるのをクリュタイメストラも見て見ぬふり。

 

母親を激しく憎悪するエレクトラ。母クリュタイメストラとアイギストスから守るため幼い頃に信頼する父王の家臣の手に託して逃がした弟オレステスがいつか立派な青年となって戻り、一緒に父王の復讐を果たすことだけが彼女の生きる希望。そして、いよいよ愛する弟との再会、そして復習を果たす時がやってきます。

 

歌手のUAさんと俳優の村上淳さんを両親にもつ村上虹郎くん。両親をちょうどほどよく足して2で割ったような中々のイケメン君でした。UAさんも実際にお会いすると華奢で小柄で独特のオーラのある美人さんだというし、両親の良いところを受け継いで羨ましいです^^。

幼い頃に離れ離れになった姉エレクトラをこい慕い、父の復讐を果たすことが自分の使命だと太陽神アポロンにも告げられてその為に生きてきましたが、実際に実の母を手にかけるという行為は彼の純粋な精神を破綻させる結果となります。そして、追放され放浪の身に。

 

エレクトラのようにアイギストスに反抗する勇気がなく、自己嫌悪に悩みながらも安泰に暮らしている妹クリュソテミスを演じた仁村紗和さんも素敵な可愛い子ちゃんでした(*'ω'*)。美形一家のアトレウス家。豊かな国を治める、誰もが羨む華麗なる一族だったのに。

 

休憩はさんだ第二幕でようやく中島朋子さんも登場。生贄にされたはずのイピゲネイラですが、実は死の直前にアルテミスの温情で救われ、辺境の地タウリケのアルテミスを祀った神殿の巫女として、ギリシャ人の生贄に清めの儀式を行う役割を与えられて生き延びていました。そこに母殺しの罪を背負った実弟オレステスが現れ、2人はアポロン神と女神アテネの赦しと導きによってアルテミスの女神像を持って故郷ミュケナイの地へ戻ることができます。

 

アガメムノンの他、何役もこなしていた麿赤兒さんですが、アポロン神として登場した時の衣装・・・というか、太陽を象った頭飾りのあまりのベタさには、わからなくもないけれどもついツッコミたくなってしまいました^^:。だって、だって・・・幼稚園のときのお遊戯劇をどうしても思い出してしまって・・・ちなみに私は、ウサギさんのお面ならぬ頭飾りを母と一緒に作りました(;´∀`)。

 

麿赤児さんといえば・・・彼がまだ現役舞踏家バリバリだった頃、多分20年以上前?!に、何故か母と暗黒舞踏の舞台を観に行ったことがあって、全身白塗りで踊る麿赤児さんを間近で観たことがあるのを思い出しました。あの頃と比べたらもちろん、シワとか皮膚の老化は明らかですが、印象はほとんど変わらないし、何役もこなしして台詞を発生する声もしっかりしているし、すごいなぁと感心。白石加代子さんもですが。

 

結局は神々の思惑に振り回されただけのような弱き存在の人間達。神々に与えられる運命の輪から人は逃れようがないのでしょうか。それに、アガメムノンを家長としたファミリーの悲劇ではありますが実際にはこれだけではありません。そもそもが、美しいスパルタの王女クリュタイメストラを我が物にしたいがために、彼女の最初の夫と子供を殺して略奪したアガメムノン。ちなみにクリュタイメストラのお母さんは、ティツィアーノ展での目玉展示のひとつだった《レダと白鳥》のレダ王妃です。白鳥に化けたゼウスに夜這いされる美貌の王妃さま。美女の家系なんですね^^;。

 

そしてクリュタイメストラ以上の美女だったとされる妹ヘレネが、白鳥ゼウスがレダと交わって生まれた子供とされています。美女と全能の神の子供ですから、そりゃあ神々しい美人だったんでしょう。そのヘレネと結婚してスパルタ王になったのが、アガメムノンの弟メネラオス。ヘレネがトロイア王子パリスに誘拐されて怒ったメネラオスがお兄ちゃんのアガメムノンと一緒に起こしたのがトロイア戦争。妻を誘拐した、けしからん男を成敗する正義の戦いのようですが、実際にはブ男のメネラオスにウンザリしていたヘレネが美男子パリスに熱を上げて自ら進んで家出した、とエレクトラにネタバレされていました(;´∀`)。飛んだ道化のメネラオスくん・・・。

 

さらに言えば、アイギストスがクリュタイメストラの愛人となってアガメムノン暗殺を企むのも、元はと言えば自分の実の父親テュエステスが、その兄でありアガメムノンの父親であるアトレウスに殺された恨みを晴らすためで・・・。もういったい、どこでどう断ち切ればいいのかわからないほどの複雑怪奇な負の連鎖に雁字搦めな人間たち。神々の思惑にもてあそばれる人間か、それとも一切合切を神々と「運命」の一言でまとめて擦り付けて素知らぬ顔でか弱き者を演じる人間の業の深さか・・・。

 

それにしても、迫真の演技で圧倒される舞台。ただ座って観ているだけでも消耗するギリシャ悲劇を、毎日演じる役者さん達って本当にすごい・・・としみじみ。そして、ドロドロした母娘を演じたすぐ後なのに、カーテンコールでは笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねて相変わらずめいっぱいキュートな高畑充希ちゃん。一番最後まで、つまりついさっきまで舞台でエレクトラを魂ごと演じていたのにもうスイッチ切り替わってる、すごい!プロだぁ。

 

ギリシャ神話ものって、昔ブームだったのか小中学生の頃色々読んだり見たりしたけれど細かいところあまり覚えていなくて。美術展でも映画でも小説でもよく出てくるからどこかの時点でもう一度しっかり勉強し直したいなぁと常に思うのですが・・・名前の憶えづらさとキャラクターが多すぎて、かつ関係性が複雑すぎてこんがらがる上にギリシャ神話とローマ神話でも混乱するものだから(基本的には同じですが、微妙にエピソードが違ったりそれぞれで違う名前があるのが混在してしまう)、毎回挫折してしまいます(>_<)。まんが日本の歴史のような、簡単で解かりやすくて的確な文献資料か何か、ないものでしょうか(苦笑)。

 

ちなみに、今回復習と関係者のチャート整理のために色々調べていて初めて知ったことですが、ギリシャ悲劇では舞台上で直接的な殺害シーンは見せない、また舞台上で台詞をしゃべるのは1度に3人までという暗黙のルールがあるそうです。言われてみれば、確かにオレステスもクリュタイメストラを殺す時、わざわざ室内(舞台の外)に連れて行っていたし、台詞をしゃべるのは常に最大3人までだった!これからまたギリシャ悲劇を観る機会があったら、その辺も気にしてみようと思います^^。