クラーナハ展-500年後の誘惑 (国立西洋美術館) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

クラーナハ展-500年後の誘惑

会期: 2016.10.15(土)~2017.1.15(日)

会場: 国立西洋美術館

開場時間: 9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで)

       ※入館は閉館の30分前まで

休館日: 月曜日(但し1/2及び1/9は開催)、12/28(水)~1/1(土)

公式サイト: http://www.tbs.co.jp/vienna2016/

 

 

デトロイト美術館展に続いて国立西洋美術館へ移動。会期

終了前に間に合いました、クラーナハ展。

 

今回が日本初のクラーナハ展。私も初めてちゃんと知りました。

ドイツ・ルネサンスを代表する芸術家のルカス・クラーナハ。

宮廷画家という固いポジションも確保しつつ、ビジネスセンスにも

長けていて、マルティン・ルターの宗教改革の波にも上手く乗って

名前を売りまくり、大型の工房経営で絵の大量注文を捌くなど

商業的にも大きな成功を納めたそうです。さらに、蛇を象った

自分の紋章を署名に取り入れ、それを商標登録的に扱って

自身と自身の作品のブランディング化、セルフプロデュース力

にも優れていたというので、所謂”苦悩する芸術家”なタイプとは

ちょっと違っていて、非常に興味深いです。ちなみに企画展タイトル

にある「500年」は、宗教改革から500年という意味。

 

ところで近年どの企画展でも音声ガイドに力を入れていますが

例えば先のデトロイト美術館展では鈴木京香さんでした。

そしてクラーナハ展は、なんと阿川佐和子さん・・・こ、これは

気になる、ソソられる・・・う、うぅーん・・・としばし悩んだ末に

購入(レンタル)しなかったのですが、やっぱりトライしてみても

よかったかなぁ、と今更ジロー。

 

さて、生涯にわたって多作だったクラーナハ。本展覧会でも、

沢山の版画、肖像画、宗教画、そしてクラーナハの代名詞とも

言える裸婦像がたっぷり堪能できます。人物を描く時の独特の

技法、中世ヨーロッパのクラシックで妖艶な雰囲気、質感、、、

暫く頭の中がクラーナハでいっぱいになります。

クラーナハと言えば、ニンフやヴィーナスなど、女神を題材に

した裸婦像が有名で、クラーナハの名前を聞いたことがなくても

絵画は観たことがある人も多いのでは。(ハイ、私もその一人

でした^^;)

 

この時代の西洋美術に描かれる裸婦像としては、腰や首など

がほっそりとしていて、胸と腹部が控えめにふっくらとした独特

のプロポーションは、どちらかというと東洋人が好みそう。

肌の色も、白く透明感があってキメが細かく柔らかそう。陶器の

ような白い肌、といえばレオナール・フジタの「乳白色の肌」を

思い出しますが彼の描く女性の肌は、まさに陶器のように、

温度が感じられず割れてしまいそうな儚さと硬さも感じるのですが、

クラーナハの描く女性の肌は、陶器のように白く透き通っている

けれど、いかにも暖かく柔らかそう。なのに目線はどこか醒めて

いるようで、蠱惑的。顔だちも、丸顔が多く、どちらかというと切れ

長な感じの目に薄い唇。東洋的なエキゾチックな美を好んで

いたのかなぁ、とか、どこか幼児性愛に通じるものもあるのか

しらとか(変態的な意味ではなく)、勝手にちりぢり想像しながら

鑑賞しました。

 

今回の企画展で日本に輸送するために3年がかりで修復・補強

された、広告ビジュアルになっている目玉の代表作、《ホロフェル

ネスの首を持つユディト》と、似通った題材・構図の《洗礼者ヨハネ

の首を持つサロメ》、それにディアナとニンフたちの水浴を目撃

してしまったがために馬に変えられて自分の猟犬に噛み殺されて

しまうアクタイオンの物語を題材にした《ディアナとアクタイオン》

(これは、息子の方のクラーナハの作品らしいです)など、

誘惑する女性、油断して身を亡ぼす男性、征服感に冷ややかに

酔う女性、というモチーフをとにかく好んで描いたクラーナハ工房。

ホロフェルネスやヨハネの首の断面のグロテスクさと、妖艶な

美しい微笑みとがゾクっとする迫力で、目が離せなくなります。

 

ところで、私は版画も好きなんですが、今回クラーナハの版画も

沢山展示されていて見応えがありました。

 

 

版画の代表作、《聖アントニウスの誘惑》。悪魔から様々な誘惑

を受けて信仰心を試される聖アントニウスは、様々な芸術家が

題材として描いています。ちなみに、以前、国立西洋美術館の

常設展で見た、ダフィット・テニールスによる同タイトルの作品

↓に目が釘付けになりました。

 

 

それを、クラーナハ流解釈を版画で表現されたのが上の作品。

浅教養でもなんとなく美術展の数をこなして、その都度気になった

ことを記録しておくと、100のうち2か3くらいは記憶に残って

「あっ、これはあの時の・・・?」とか「あの作品との関連が・・・」など

と気が付くこともあって、楽しいなぁと実感しました。

本当はもっとちゃんと勉強して教養を身に着けたいのですが(>_<)。

 

クラーナハの版画に戻って、どれも、とっても緻密でギュっと

要素がたくさん詰まっていて、どこかしらユーモラスでもあり。

手に取ってジィーっと、隅々まで、いつまでも眺めていたくなり

ます。クラーナハの版画集があったら欲しくなるかも。

 

クラーナハのブランドロゴともいうべき、指輪を加えて翼を

持った(または王冠)蛇の紋章の署名も、各作品ともどこに

あしらわれているか、と探すのも楽しかったです。

ある絵では、画面の中の商店の垂れ幕の中にあったり。

もうあと数日で終了、しかも最後の週末は相当の混雑が予想

されますが、ご興味あればぜひー。私も、もう一度みたいくらい

です(今度は阿川さんの音声ガイド付きで^^)。