お母さんはぼろぼろになった靴を見て悲鳴をあげました。
「なんてことだろう。高い品物だったのに。やっぱり闇取引はだめね」
「お前がヤミ商人なんかを信用するからだよ」
めずらしく工場が休みで家にいたお父さんがいいました。ヤミ商人というのは配給では手に入らない品物をないしょで高く売りつける悪い人のことでした。
「よく見ろ。革靴だなんて大嘘でボール紙を蝋でかためてあるだけじゃないか」
お母さんはぞうりをかしてくれた大山くんに何度もお礼を言って
「これはお父さんの使った靴下だけど、うちは男の子がいないからあなたにあげるわ。洗いざらしだけど穴は開いてないのよ。三足あるわ。今はだぶだぶだけどすぐはけるようになるわよ」
と新聞紙につつんで渡しました。
大山くんはぱっと目を輝かせると
「おばさん、ありがとう」
と靴下の入った包みをだきしめました。月子さんが心配して
「おじいさんにしかられるんじゃないの」
といいましたが、大山くんはにこにことしているだけでした。
かえりぎわ門のところまで送って出た月子さんは、もう一度いいました。
「よそのひとから何かもらったりしたらいけないっていわれてるんでしょう?」
大山くんはいいました。
「いいんだ、もう。この間おじいさん、死んじゃったんだから」
終業式前の大山くんの欠席はおじいさんのお葬式のためでした。
月子さんの思い出の世界に現れる大山くんの姿はこれが最後でした。月子さんは、あの時手まり泥棒にならずに済んだのは大山くんのおかげと今でも思っています。
(おわり)