週末シアターゴアーの傾く日常 -7ページ目

M&Oplays+PPPPプロデュース 「ワンマン・ショー」

2007年6月7日(木)~6月17日(日) シアタートラム
作/演出:倉持裕
出演:小島聖、水野美紀、長谷川朝晴、小林高鹿、ぼくもとさきこ
玉置孝匡、内田慈、近藤智行、吉川純広


M&Oplays(森崎事務所)とPPPP(ペンギンプルペイルパイルズ)との
共同プロデュース作品。再演。


物語は、妄想的でシュールであり、時系列が前後したり
飛躍したりと、抽象度が非常に高い印象なのです。


それは、この物語がほぼ全編、一人の男の妄想である(ワンマン・ショー)
ためなのですが、そもそも、これまでの倉持作品に共通する印象でもあるのです。


それは、非常に精緻な脚本もさることながら、時代や場所などを限定しない設定や

演劇的省略を駆使した劇作が挙げられると思われるのです。


そのため、倉持独特の、より演劇的なフィクショナルな浮遊感を
獲得しているのです。


非常に面白いのです。


ハイバイ 「おねがい放課後」

2007年5月24日(木)~6月3日(日) こまばアゴラ劇場
作/演出:岩井秀人
出演:志賀廣太郎(青年団 )、猪股俊明、古舘寛治(青年団)、金子岳憲
石橋亜希子(青年団)、島林愛(蜻蛉玉 )、星野秀介(田上パル )、永井若葉


3月に行われたプレビュー公演に続く、本公演。


表面的には現代口語劇的な物語として語られるのですが
その表現のレベルではまだら状となっており、作者の
表現したい部分だけを紡いで、物語が構成されているように
思われるのです。


過剰に詳細な会話で心を振幅を描いたり、逆に必要だと思われる
シーンが全く無かったり、プレビュー公演とは異なり、キャスティングが
全員ほぼ同世代となっている巧みさや、メタ的だったり、リアルだったり
ファンタジーだったりと、非常に様々な層において多くの要素を組み入れ
抜かりが無いのです。


通して過剰さが特徴と言える劇作だと思われるのです。
その中心にあるのは、やはり志賀さん(ちゃん)なのですが
それさえも一つの要素と捉え、それだけに終わっていないところは
見事なのです。


この劇の面白さは、過剰さであり、過剰であるがゆえの多層的な部分に
あると思われるのです。


非常に面白いのです


ナイロン100℃ 「「犬は鎖につなぐべからず ~岸田國士一幕劇コレクション~」

2007年5月10日(木)~6月3日(日) 青山円形劇場
作:岸田國士
潤色/構成/演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付:井手茂太
出演:松永玲子、みのすけ、村岡希美、長田奈麻、新谷真弓、安澤千草、廣川三憲
藤田秀世、植木夏十、大山鎬則、吉増裕士、杉山薫、眼鏡太郎、廻飛雄、柚木幹斗
緒川たまき、大河内浩、植本潤、松野有里巳、萩原聖人


劇は岸田國士の7編の短編から組成されており
その巧みさにはケラらしい手つきが感じられるのです。


物語は、大正または昭和初期が舞台となっているのですが
その物語は、何故か「平田オリザ」な手触りが感じられるのです。


それでは「リアル」なのかというと、もちろん、あのケラが
「リアル」であるはずも無いのです。


それでは「平田オリザ」な手触りが感じられる理由は何かと言うと
それは、劇の手法ではなく、物語の語られ方なのです。


平田オリザの物語の多くは、ある一定の空間の中で、同一方向に

向かわない微細な物語群が多層的に連なった構成となっていると

考えられるのです。


そして、本公演では、比較的細かい物語群で構成されている7編の別の物語から
成っているのですが、さらにそれぞれの物語を幾つかにパートに分けて

それらを再構成したものとなっているため、結果的に似た手触りを生んでいると
思われるのです。


岸田國士恐るべしなのです。


非常に面白いのです。


シベリア少女鉄道 「永遠かもしれない」

2007年5月26日(土)~6月3日(日) 池袋 シアターグリーン BIG TREE THEATER
作/演出:土屋亮一
出演:前畑陽平、篠塚茜、加藤雅人(ラブリーヨーヨー )、吉原朱美(ベターポーヅ
浜口綾子、石松太一、森口美香(劇団ORIGINAL COLOR


これまでの「フリとオチ」という構図から外れ
重層的な構成と非常に緻密な脚本による劇作という印象なのです。


物語は、漫才をしているコンビがあるきっかけにより
全く別の物語へ飛躍する構図を中心に語られているのです。


それらは、既存の物語であったり、ステロタイプな物語で
あったりするのですが、その構図は階層的に機能するのです。
つまり漫才から物語へ、物語から別の物語へ、さらに別の物語へ
といった様に、物語の階層を縦横無尽に、スピード感を伴いながら
行き交うのです。


また、物語ごとにネタが満載となっているだけでなく
メタ的な要素や、タイトルの「永遠かもしれない」を多義的に
表現されている事などが、笑いと密度感を生み出していると
思われるのです。


物語への飛躍は、異常に長い、それこそ永遠かもしれない
「ノリ突っ込み」なのです。


唸るしかないのです。



ジェットラグプロデュース 「バラ咲く我が家にようこそ。」

2007年5月24日(木)~5月27日(日) シアターサンモール
作:牧田明宏(明日図鑑
演出:多田淳之介(東京デスロック
出演:大口兼悟、町田マリー(毛皮族 )、寺内亜矢子(ク・ナウカ )、吹上タツヒロ(トラッシュ・マスターズ)

夏目慎也(東京デスロック)、山本雅幸(青年団 )、本多裕香、甲衣都美、坂口芳貞(文学座


牧田、多田は共にリアルな劇作を行う、もしくはリアルの次
を模索する作家、演出家であると思われるのですが
今回はプロデュース公演であるため、リアルをベースと
しながらも、ややエンタテイメントに振った劇作だと感じられるのです。


牧田らしい日常の中の人間の悪意や負の要素を緻密に織り込んだ
脚本に、比較的ノーマルながらも、要所に既存の音楽を使用する
多田らしさの感じられる演出なのですが、ラストの、劇中に表現される
人間の負を並列的に提示するシーンや、その手法は
ポツドール/激情 」に似た手触りが感じられるのです。


面白いのです。


日中共同プロジェクト公演 「下周村」

2007年5月15日(火)~5月20日(日) 新国立劇場 小劇場
作/平田オリザ、李六乙
演出/李六乙、平田オリザ
出演:篠塚祥司、佐藤誓、内田淳子、粟田麗、能島瑞穂、果静林、陳煒、韓青

于洋、林熙越、薛山、劉丹、王瑾


日本の平田オリザと中国の李六乙の共同プロジェクト。


劇の手法として、平田オリザの手つきが、前半のみに散見されるのですが

それらはあえて徹底されておらず、あくまでも共同プロジェクトであることを感じさせるのです。


・通常、開場時には既に舞台上に役者がいる場合が多いのですが

 本公演では開演10分程前に役者が出てくる。


・台詞の重なり。本公演では、当然、中国語と日本語が重なるのです。


・舞台美術。基本的に平田の手法を用いた場合、舞台は屋内が適しているのですが

野外が舞台となっており、 テーブルや椅子、小道具などは漏れなく配されているのですが

背景が、水墨画の描かれた布で覆われている。


後半は、ほぼ李六乙の世界となっていると思われ、抽象的なテキストから

イメージの世界が展開されているのです。


雨の表現や、背景の水墨画の布が取り払われると出演者と思われる人物が

空を舞っている絵が描かれていたりと、イメージの喚起を様々な要素から

紡ごうという意志が感じられるのです。


それらは、あくまで、平田による前半を受けての李による後半という印象なのです。


前半、後半とそれぞれ明確に異なっており、手法としての乖離は著しいのですが

劇としては、一定の融合は果たされていると感じられるのです。


ただ、特に李六乙の後半部分は、字幕では伝わりにくい部分があったのも確かなのです。


面白いのです。


こゆび侍 「ことばのない」

2007年5月13日(日) スタジオ・アルスノーヴァ
作/演出:成島秀和
出演:廣瀬友美、佐藤みゆき、川連太陽、加藤律


「スタジオ・アルスノーヴァ」が閉館となる事から
行われた特別公演。


メタ的な要素を含むポエティックな印象の妄想物語と
物語上の現実の話を行ったり来たりする構成と
なっており、結果、多層的な構造を持つのです。


妄想的な物語だからといって、破綻してしまう事は無く
一定の硬度を保ったまま、何かペーソスの漂う物語と
なっている印象なのです


それは、全体を通して、作者の「スタジオ・アルスノーヴァ」
への慈しみが端々に感じられる作品となっているためだと
思われるのです。


非常に面白いのです。


クロムモリブデン 「マトリョーシカ地獄」

2007年4月19日(木)~5月1日(火) サンモールスタジオ
脚本/演出:青木秀樹
出演:森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、重実百合、奥田ワレタ、木村美月
久保貫太郎、渡邉とかげ、板橋薔薇之介


本公演では9名の役者が出演しているのに対して
物語に出てくる人物は3名のみなのです。


それは、人間の多面性を分解し、それぞれに
役を配しているためなのですが、結果
「劇団ジャブジャブサーキット/歪みたがる隊列
と似た形式を持つのです。


表面的には過度にコミカルでポップなのですが
根底を強固に流れるアイロニー、シニシズムは
青木の脚本の特長とも思えるのです。


役者の充実ぶりには目を見張るものが
あるのです。


非常に面白いのです。


演劇キック 「天国と地獄」

2007年4月12日(木)~4月16日(月) シアターアプル
脚本/演出/出演:江本純子
出演:町田マリー、田口トモロヲ、小林顕作(宇宙レコード )、澤田育子(拙者ムニエル
金子清文、柿丸美智恵、羽鳥名美子、和倉義樹、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美
平野由紀、高田郁恵、水町香菜恵、赤坂恵梨(劇団DMα)、石田沙央合、菊池明香、久保田綾子
黒木絵美花、kekko、サチコ、城間真(チーターダッシュボンバーショット )、鈴木陽子

田島SAYAKA(東京タンバリン )、たにぐちいくこ、中林舞(小指値 )、梨木智香、福田卓志
細井里香、細江正和(シンクロ少女)


物語はそのままに、いつもの様に、客いじりや露出
「不可能と思われる事を不可能なまま」の提示や
ぶっちゃけ感、何も無い幕間の繋ぎの小芝居など
江本らしい「過剰なぐだぐだ感」に包まれながら
ラストのフレンチカンカンへと愚鈍に集束してゆくのですが


何かこのカンカンに非常な説得力を感じるのです。


もちろん、「結局、コレがやりたかった舞台」な事や

出演者総出演によるところのスケール感

演者によるところも大きいのですが、その理由は

「天国と地獄」という曲にあるのではないかと

思われるのです。


この曲はテンポの良さもさることながら、運動会や
文明堂のCM 」などで、子供の頃から刷り込まれてきた曲
だと言えるのです。


この刷り込みには手向かえないのです。


「過剰なぐだぐだ感」があるにしろ、「カンカンがあったから良いか」

と思わせるのです。


tpt 「エンジェルス・イン・アメリカ」

2007年3月20日(火)~4月8日(日) ベニサン・ピット
作:トニー・クシュナー
訳:薛珠麗・TPTworkshop
演出:ロバート・アラン・アッカーマン
出演:山本亨、斉藤直樹、パク・ソヒ、池下重大(劇団桟敷童子
チョウソンハ(ひょっとこ乱舞 )、宮光真理子、松浦佐知子、植野葉子
矢内文章、深貝大輔、小谷真一、アンソン・ラム


2004年以来の再演。


比較的短めのシーンが連なった構成となっており
めまぐるしく転換が行われるのです。


通常、演劇にとって転換とは、負の要素となる場合がほとんどなのですが
そのめまぐるしく、かつスピード感のある転換を積み重ねる事により
劇に疾走感を与えている印象なのです。


また、あえてスタッフが露出しながら転換を繰り返す事で
メタ的な効果を持たせているとも感じられるのです。


物語は、20年以上前のアメリカが舞台となっているのですが
疫病、性、宗教、人種、ポリティクス、イデオロギーなどの
様々な要素が組み入れられる事で、2007年の日本だからこそ

感じられる「時間差の現在性」を生んでいる印象なのです。


その事が、劇としての非常な強度を与えているのです。


「天使の睫毛」も含めて圧巻なのです。