週末シアターゴアーの傾く日常 -9ページ目

青年団リンク 東京デスロック 「東京デスロックのアトリエ公演 unlock#1」

2007年3月2日(金)~3月11日(日) アトリエ春風舎
作/演出:多田淳之介
inspired by 「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス
出演:松田弘子、熊谷祐子、村井まどか、佐藤誠、佐山和泉


「東京デスロック」とは、そもそも、「死(デス)」をテーマに絞って(ロックして)
劇作を行う劇団なのですが、今回から始まった「unlockシリーズ」は「死(デス)」
へのロックをはずして、他のテーマに向かうという、自己否定シリーズとも言うべき
公演なのです。


今回はテーマが「知」という事なのですが
多くの手法を駆使して様々なレベル、切り口での「知」が表現されていたのみならず

前回 もあった「役者の疲れる体」も表現されていたのです。


しかし、何か「新しくない」感じが漂っていたのは
音楽にYMOが使われていた事だけが理由では無いと思われるのです。



庭劇団ペニノ 「笑顔の砦」

2007年2月22日(木)~3月4(日) 駅前劇場
作/演出:タニノクロウ
出演:久保井研(劇団唐組)、マメ山田、瀬口タエコ、飯田一期
山田一彰、山田伊久磨(EHHE )、五十嵐操


物語は、表面的には比較的ノーマルなものに感じられるのですが
やはり、ペニノらしさの感じられる、多層的であり非常に緻密
な劇作だと思われるのです。


劇の手法として「リアル」の手触りは感じられるのですが
明らかに異なる部分があるのです。


・部屋の外の描写がある(雨が降る)
・二つの部屋を区切っている壁が無い。
・暗転(時間の経過)がある。


これは、演出は「リアル」で戯曲は「リアルで無い」事
を示しているのです。

また、「壁が無い」事実は、二つの部屋での出来事を
緻密にリンクさせる必要がある事も同時に示しているのです。


昨年の「ダークマスター 」でもあったのですが、劇中で料理を材料から
実際に作るのです。
これは最近のタニノクロウの劇作の特徴の一つとも言えるのですが
その理由は、やはり音に対する拘りにあると思われるのです。


本公演では他にマメ山田による足踏みの音や、伊勢エビの音、劇中に演者による
ギター演奏が挿入されていたりするのですが、前回の「アンダーグラウンド
には非常に顕著にその傾向が表れていたのです。


また、今回は西部劇調(マカロニウェスタン)音楽が使用されていたのですが
これに関しては、音への拘りだけでは無く、「マカロニウェスタン」自体の
成り立ちや背景が物語とリンクされている印象なのです。


若干、腰が抜け気味なのです。


ク・ナウカ 「奥州安達原」

2007年2月19日(月)~2月27日(火) 文化学園体育館 特設舞台
作:近松半二、竹田和泉、北窓後一、竹本三郎兵衛
台本/演出:宮城聰
出演:美加理、吉植荘一郎、大高浩一、野原有未、萩原ほたか、寺内亜矢子
本多麻紀、大内米治、片岡佐知子、鈴木陽代、桜内結う、星村美絵子、加藤幸夫
牧野隆二、赤松直美、奥島敦子、大道無門優也、山本智美、池田真紀子、石川正義
本城典子、塩谷典義、高澤理恵


ク・ナウカ活動休止となる区切りの公演。


ク・ナウカは普段からいわゆる劇場では公演を行う事はほとんど無いの
ですが、今回は新宿にある文化学園の体育館での特設舞台となっているのです。


舞台は紐による壁で幾重にも囲まれていながらも、バスケットゴールが

見えていたりと、とても印象的なのです。


前回 と同様に衣装には様々な要素の意匠が見られ、演奏に使用される

楽器に関しても様々なリズム系楽器を中心とした構成となっており

クロスカルチャー的な傾向が感じられるのです。


「奥州安達原」はそもそも人形浄瑠璃の作品なので、やはりク・ナウカ様式
とは親和性が高いと思われるのです。


物語は、平たく言うと「鬼婆奇譚」として有名なお話なのですが
今回、導入部分に影絵や語りを使用して、物語に入り込みやすくする
工夫がなされているのです。


それは、今回、物語を通して現在性を描いているからなのです。
その理解を補完するための導入部だと思われるのです。


それが端的に表れているのはラスト「宝剣=地球の風船」として描かれる

場面なのですが、明確に「チャップリンの独裁者」の引用であり

現在性が表現されているのです。


驚くべき完成度なのです。


PARCO 「フールフォアラブ」

2007年2月7日(水)~2月25日(日) PARCO劇場
作:サム・シェパード
演出:行定勲
訳:伊藤美代子
出演:香川照之、寺島しのぶ、甲本雅裕、大谷亮介


サム・シェパードの作品を映画監督の行定勲が演出。


ともすれば、重々しい会話劇となってしまう可能性をはらんだ脚本と
言えるのですが、そうなっていないのは、行定の演出に依るところが大きい
のではないかと思えるのです。


コミカルとも言える役者の動きの多さや動き自体の大きさ
ドアの開閉に伴う異常にデカいSE、舞台外での表現など
ディテールでメリハリを付けているあたりなど
劇作として脚本を重視しながらも重々しさや変化の乏しさ
を回避する方向性が垣間見えるのです。


そして、その方向性は成功していると感じられるのです。


その演出は、ドタバタ劇的となってしまう紙一重のところに
あると感じられるのですが、それが、そうならなかったのは
この演出を受け止める事のできる、役者陣がいたからこそなのです。


劇団桟敷童子 「キリンの夢/コタツのある風景」

2007年2月15日(木)~2月18日(日) 西新宿成子坂劇場
作:サジキドウジ
演出:東憲司
出演(キリンの夢):新井結香、中井理恵
出演(コタツのある風景):山本あさみ、松本しゃこ、もりちえ、桑原勝行
川原洋子、鈴木めぐみ


4回目となる番外公演。やはり現代劇。


「キリンの夢…罪と罰…」

約30分の短編なのですが、やや勢いで突っ走る傾向が
見受けられるのです。


また、東憲司の短編では時折感じられる
「その瞬間は、やりすぎに感じられるが、後から振り返るとアリ」
があったのです。


何故このように感じられるかと言うと
「物語の背景が明らかになっていない冒頭に独白がある」からなのですが
それは結果、違和感として感じられるのです。


しかしその違和感は、いわゆる「つかみ」として機能しているのです。
それは東憲司のドラマツルギーの一部なのかもしれないのです。


「コタツのある風景…変わらない日々…」


全体としてとてもコミカルな印象なのですが
主役の山本が軸となって、とてもバランスの良い小気味良い
劇作となっているのです。


もりちえの卑怯とも言えるキャラクターが秀逸なのです。



やはり、それぞれラストに仕掛けが用意されていたのです。


面白いのです。


tpt 「薔薇の花束の秘密」

2007年2月17日(土)~3月2日(金) ベニサン・ピット
作:マヌエル・プイグ
訳/演出:木内宏昌
出演:安奈淳、毬谷友子


安奈淳、毬谷友子、宝塚出身の二人による二人芝居。


少人数による出演者で長時間におよぶ劇の場合、どうしても
ダレたり、澱んでしまう時間帯があったりするものなのですが
本公演に限っては、そういう事は全く感じられなかったのです。


脚本の完成度は、木内による訳を含め、いまさら言うまでも

無いのですが、通してとてもタイトに感じられる演出など

非常に高いクオリティが感じられるのです。


また、役者二人の存在感、説得力は、圧倒的でさえあり
特に毬谷は、タダ事で無く、魅力的なのです。


bp3

非常に面白いのです。


黒色綺譚カナリア派 「繭文~放蕩ノ吊ラレ作家~」

2007年2月8日(木)~2月13日(火) ザムザ阿佐ヶ谷
作/演出/出演:赤澤ムック
出演:山下恵、吉川博史、斎藤けあき、芝原弘、眞藤ヒロシ、牛水里美
佐々木幸子(野鳩 )、町田彦衛、池田遼、升望、間野健介(InnocentSphere


劇の構造としてはオーソドックスな印象なのですが
奥行きの感じられる物語や、ある意味でカタルシス
の得られる現在性のあるラストなど、とても緻密で
作者の女性性が強く感じられる戯曲なのです。


いわゆる「アングラ」は、ほぼ無い。
と言っても過言では無いと思われるのです。


ただ、佐々木幸子(野鳩)をキャスティングした

理由の一端にこそ、それがあると思われるのです。


非常に面白いのです。


青年団リンク サンプル 「シフト」

2007年1月26日(金)~2月4日(日) アトリエ春風舎
作/演出:松井周
出演:山村崇子、辻美奈子、古舘寛治、古屋隆太、小河原康二
石橋亜希子、荻野友里


物語は、結婚を機に、現代的でありながらも古い風習の残る村に
やってくる男を中心に描かれているのですが、その手触りは、どこかいびつで
過度にグロテスクなのです。


その村では、ある目的のために近親姦が繰り返し行われていたりするのですが
それは、あくまでも、妄信的にでは無く、打算的に行われていると

いった様に閉塞した負の存在として描かれているのです。
そして、村にやってきた男が融合(シフト)されてゆく様が描かれているのです。


今回、その手法に関しては、これまでと明確に異なり
「非リアル」なものとなっているのです。


一部、演出等に「リアル」な手触りが残っているものの
その戯曲や、舞台美術、表現方法などに「リアル」な表現からあえて
はみ出そうとする意志が感じられるのです。


それは、物語に関しても同様で、あまりリアリティが感じられず
どこか寓話的とも言える印象なのです。


松井周がこの後、どこへ向かうのかとても興味深いのです。


ITOプロジェクト 糸あやつり人形芝居「平太郎化物日記」

2007年2月3日(土)~2月4日(日) ザ・スズナリ
脚本/演出:天野天街
ナレーション:知久寿焼
出演:飯室康一(糸あやつり人形劇団みのむし )、五味美恵子
西宮小夜子(ねぎぼうずSAYO )、ふたむらととこ(パペッツンマイムシアターうさぎ小屋
山田俊彦(人形劇団ココン )、植田八月、竹之下和美、西塙美子


少年王者館の天野天街、脚本/演出による、糸あやつり人形劇。


物語の構造としては、1ヶ月の間、毎夜様々な化け物が主人公の所を
訪れるという、非常にシンプルな印象のものなのですが
映像や、多くの凝った仕掛け、メタ的な笑い、化け物の造形などは、
まったくもって、天野天街色の炸裂したものとなっているのです。


その天野天街色を支える、造形の豊かさや動きなどは
糸あやつり人形ならではの大きな可能性を感じさせ
唸るしかないのです。


非常に面白いのです。


ひょっとこ乱舞 「銀髪」

2007年1月24日(水)~1月28日(日) 吉祥寺シアター
作/演出/出演:広田淳一
出演:チョウソンハ、伊東沙保、橋本仁、中村早香、西光カイ、笠井里美、加茂みかん
金子優子、高橋恵、草野たかこ、松下仁、泉光典、根岸絵美、香西南里、長谷川せい
木引優子、遠藤友香理(劇団ひろぽん )、小杉美香(チャリT企画 )、橋爪玲奈、泉谷康介
小寺悠介、猪股直樹、森田義朗、菅原達也、山森信太郎、小野野球、コスゲヒロシ
大湯純一(東京タンバリン )、倉田大輔(国民デパリ )、横山大地(地下空港
板倉チヒロ(クロムモリブデン


総出演者数31名におよぶ大人数での公演。


これまでの公演と比較して、より物語の輪郭が明確に感じられるのは
再演だからなのかもしれないのです。


ひょっとこ乱舞を観る度に感じるのは
劇の面白さは多層的な理由によるものだという事なのです。
広田淳一がスゴいのです。



笠井里見。小演劇界では田中あつこ(バジリコ・F・バジオ)
と双璧を成すと思える、無自覚な子供っぷりは見事なのです。カオス。


倉田大輔。そのキャラクター、佇まいと共に非常な安定感が感じられる

のです。


板倉チヒロ。爆発アフロは元より、キャラクターの濃さ、その存在感はただ事でないのです。
ただ、過去に一度、観劇時に彼が観客として前の席になった時だけは
少しブルーになったのです。


本公演で、チョウソンハに対して感じていた微かな違和感の理由が氷塊したのです。
彼にとっては、吉祥寺シアターより狭いこれまでの劇場では狭すぎたのです。
「特権的肉体」等と言ってみたくなる圧倒的な魅力にあふれていたのです。


非常に面白いのです。