同僚ハーマンの怒り | ピロの屋本館@ロサンゼルス

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天使の女王の町Los Angelesでの生活記録

私の職業はエンバーマー。
亡くなったなったご遺体の
防腐処置をするのがお仕事。
 
 
しかし、やる事は
エンバーミングだけでなく、
その後のご遺体に、
洋服を着せてヘアメイクをしたり、
女性であればマニキュアなどもするし、
時には毛染めなんかもあるし、
そして最後の納官までが、
我々ケアセンターの担当となる。
 
 
そういったご遺体の
洋服やら装飾品やらは、
アレンジャーと呼ばれる、
ご遺族と葬儀全般の
打ち合わせをする人達が担う。
 
 
なので職場の奥の奥にある
ケアセンターで働く
我々エンバーマー達が、
葬儀などの打ち合わせに関して
直接ご遺族とやり取りすることは、
基本的にはない。
 
 
そういったことで、アレンジャー達と
エンバーマー達には、
しっかりとした
コミュニケーション
が必要となってくるんだけど、
それがそこまで上手くいかないのが
現実であるもやもや
 
 
というのが前置きで、
ここからが本題。
 
 
我々ケアセンターのドアの横に、
固定式の洋服ラックがある。
それからその付近にも、
移動式の洋服ラックがある。
 
 
どちらも長さ1.5mほどで、
ご遺体の洋服をかけるもの。
 
 
アレンジャーがご遺族から
受け取った洋服などの一式は、
職場規定のドレスカバーに入れ、
カバーのポケットに書類を入れ、
彼らアレンジャーたちが
ケアセンターまで運んできて
そのラックにかける。
 
 
それを見つけた我々エンバーマー達は、
コンピューターにアクセスし、
そのご遺体の”洋服”の欄に
チェックマークを入れる。
 
 
これでどのご遺体の洋服が
有るのか無いのかが
一目瞭然となる。
 
 
だけれども、
以前はその2つあるラックのうち、
アレンジャーたちは
どちらにでも洋服をかけていた。
 
 
それをされてしまうと
チェックした物もしてない物も
ごちゃ混ぜ状態なので、
毎回全部チェックするはめになり
非常に効率が悪いもやもや
というシステムで今までやってきた。
 
 
ところが。。。
 
 
最近、
1人のエンバーマー、アリーが、
移動式ラックの方に、
こんな張り紙をした。
 
 
『このラックには
洋服をかけないでください』
 
 
これは我々ケアセンター側で、
そういった効率悪さ解消の為、
アレンジャーたちには
新しく持ってきた洋服を
設置してあるラックへかけてもらい、
チェックが終わった洋服は
我々が移動式ラックへ移す
という感じに決めた方が
分かり易いから。

 

 

私はこの張り紙の件を
特に聞いてはいなかったけど、
まぁ状況からして理解はできた。
 
 
他にも聞いてない人がいたけど、
やはり状況から
すぐに理解したと言っていた。
 
 
だから恐らくこれを貼ったアリーも
そこまで深くは考えず、
”大体わかるだろ”
といった感じで簡単に張ったのだろう
と、思われた。
 
 
しかし、
その張り紙から数日後の
ある昼下がりに事件は起きた。
 
 
みんなランチに出ていたので、
私は1人でヘアメイクをしていたら
ドアベルが鳴った。
 
 
と思ったら、
ドアベル鳴らしたくせして、
パスコード押して
ドア開けて入って来た。
 
 
”なんだ!なんだ!”と
心の中で思ったけど、
知らん顔して仕事を続けていたら、
ドアを開けた主が言った。
 
 
『ヘイ、ピロ!!
あの張り紙の意味が
さっぱり分からないんだけど、
いつ誰があんなのを
貼ったんだよピリピリ
 
 
そっちこそー、
平和なランチ後の
まったり1人仕事の時間を
邪魔してくれるのは
一体誰だ!?ピリピリ
 
 
もう声で分ってたけど、
私は振り返りながら言った。
 
 
『落ち着いて~、
ミスター・ハーマン、ジェントルマン!
なによ、張り紙って~。
なんの話してんのよ~もやもや
 
 
彼のお笑いストーリーは
以前も記事にしたので、
興味ある方は参考までにどうぞ。
下矢印
 
 
するとハーマンが怒りながら、
でもやっぱり
どこかジェントルマン風に
結界壊れたダムのように
ノンストップでしゃべり始めた。
 
 
”あ、こりゃダメだ”
思った私は、
右手に化粧ブラシ、
左手にファンディーションパレットを
持ったまま、
とりあえずそこにポケっと突っ立って、
ハーマンの言い分を聞き続けた。

 

 
なんでも、
彼のデスクがあるオフィスには
張り紙がしてあって、
そこには仕事で必要な
3つの言葉があり、
1つ目が〇〇(覚えてない笑)で、
2つ目が〇〇(これも覚えてない笑)。
 
 
そして3つ目を言う時にハーマン、
右手の人差し指を立てて
私の目の前に突き出し、
力強く、そしてゆっくり言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『コミュニケーション!!!』
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ
 
 
鼻から空気を抜くように、
『はぁ~』『へぇ~』
言いながら相変わらず
ポケ~っと聞いている私を、
ハーマンは更に
ケアセンターの外に連れ出し、
私にその張り紙を音読するよう言った。
 
 
なので私は、
化粧用のブラシとパレットを
両手に持ったまま、
ハーマンの要望に応え音読。
 
 
『ぷりーず、どぅー のっと はんぐ
くろーでぃんぐ ひあ
せんきゅー』
 
 
するとハーマン、今度は
ブロードウェイのミュージカルのように
可憐にターンをしながら
ラックに向かって手をかざしこういった。
 
 
『で、これ見てよ!
”ここに服を掛けるな”
って書いてあるのに、
なぜこんなに服が掛かってるわけ?!
そして、張り紙がしてないラックに
服が1つもないじゃないか!
矛盾しているじゃないか!
こんなんで誰が理解できるんだ!』
 
 
ここで私は
やっと彼の混乱を理解した。
 
 
彼の中には、
我々ケアセンターの人々が
服をチェックして移動している、
という観念が無いため、
単に2つあるラックのうち、
”掛けるな”の方に
服が掛かっているじゃないか!
という事だけにフォーカスして、
勘違いして、
そして騒いでいたと。
 
 
そこで、
その変わったルールに関する説明が、
服の運び屋である
彼らアレンジャーたちに
なぜ説明がないのかといった
コミュニケーション不足を、
彼は再び私に力説し、
そしていつも通り華麗に去って行った。
 
 
ニヤリ・・・汗
 

 

そんな出来事があったもんで、

私はその後すぐに

ランチから戻って来た、

元・私のスーパーバイザーエンバーマーの

ゴリラにそれを伝えた。

 

 

するとゴリラは一言、

『俺も知らねーよ、そんなこと。

そしてどーでもいいよ、

ハーマンなんて』

で終わった。

 

 

仕方ない、

関係無いのに火の粉をくらった私は、

ハーマンの怒りを鎮火すべく、

その晩自宅で

彼にお手紙を書いた。

 

 

ダイソーで買った、
きっと何にも使えないだろう
と思いつつも買った
メッセージ用紙。
 
 
それがこんな形で
日の目を浴びることになるとは笑
 
 
ドラ猫ちゃん、
どうかハーマンの怒りを
治めることに貢献してねグリーンハート
 
 
翌日、朝のアセスメントを持って
オフィスに行ったついてでに
ハーマンのデスクを見たけど
彼は居なかった。
 
 
オフィスを出たところで
仲良くしてる
ディレクティングをやってるマークに、
『今日ハーマン見た?』
と聞いてみたら、
今ちょうど聖フランシスルームで
ディレクターとセットアップしてた
と聞いたので、
その部屋へと行ってみた。
 
 
するとそこには、
棺桶やらお花のセットアップを
手伝っているハーマンがいた。
 
 
私が入って行くと、
彼が気づいて挨拶をしてきた。
 
 
私はハーマンに、
『今日はプレゼント持ってきたよ。
これが欲しかったんでしょ』
と言って、
白衣のポケットから
例の猫メモを取り出して渡した。
 
 
彼は『え、なになに?』
と言いながら開けて見て、
数秒してから笑った。

 

 

 
ハーマンは、
Communicationの下の絵が
なんだか分からなかったらしく
聞いて来たので、
『紙コップの電話だよ』
と言ったら、
『その時代ね!』言いながら
爆笑してたけどね笑
 
 
というわけで、
彼の怒りが
治まったかどうかは知らないけど、
あれ以来、また我々は
益々仲良くなった笑
 
 
 
ベル 余談 ベル
 
 
例の問題になった張り紙事件を
作成者のアリーに告げたら、
『ハーマンなんて
なんにでもいちゃもんつけるから
ほっとけばいいんだ』
と言っていた。
 
 
やれやれ。。。。
頑固な中年おじさんと、
自己中20代女子とのギャップか~。
 
 
それを聞いた私は、
次にまた板挟み化する自分
想像せずにはいれなかった。
 
 
ではではみなさま、
良い週末を花束
 
 
また来週月曜日パー