地獄の5丁目11番地:初めての1人検死解剖エンバーミング | ピロの屋本館@ロサンゼルス

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天使の女王の町Los Angelesでの生活記録

 

Spring 2022

 

私がApprentice Embalmer

(エンバーマー見習い)

になってから約3ヵ月後、

職場に検死解剖をした

ご遺体が届いた。

 

 

本当は、

スーパーバイザーエンバーマーの

ピナと一緒に

エンバーミングするはずだったけど、

まぁ彼女は、人と一緒に

仕事をするのが

好きではないので、

『〇〇時になったらやるから』とか

『あとから行くから先にはじめてて』とか

なんとか言い訳しながら

大抵来ないしやらない。

 

 

で、結局

私1人でやることになった。

 

 

検死解剖をしたご遺体の

エンバーミングは、

通常のご遺体より時間がかかる。

 

 

学校でやり方などは習ったけど、

実践で、しかも1人でやるのは

初めてだった。

 

 

まだ通常のエンバーミングさえ

まともにできないのに、

1人で検死解剖のケースとは、

これまた私にとっては

チャレンジだった。

 

 

でもやるしかない!

 

 

私は必至になって

出来る限りの知識を使い、

なんとか1人でやり終えた。

 

 

はっきり覚えていないけど、

5時間半くらいかかったと思う。

 

 

通常使用する

エンバーミング薬品の他、

検死解剖などには

また別の様々なものも使用する。

 

 

教科書では習ったものの、

実際の使用経験は0だったので、

一体その薬品を使うと

どんな効果・作用があるのかは、

あの頃の私にはさっぱりだった。

 

 

そんな中、ピナは

手伝うどころか、

見に来ることすらなかった。

 

 

けれど、

最後に終わってから

オフィスへ行った時に、

『ごめんね~!私、言うのを

忘れてしまったんだけど、

頭部の修復に〇〇使った?』

なんて聞いて来た。

 

 

そんなこと、

終わってしまった今言われてももやもや

 

 

ピナは続けていった。

 

 

『〇〇はちゃんと使わないと

ダメだから、

もし使い忘れたなら

もう一度頭部を開けて

やり直さないといけないから』

など、いや~な事まで言って来た。

 

 

頭部を開けてやり直すとか

簡単に言ってるけど、

実際には簡単ではない。

 

 

その薬品は、頭蓋骨の内部に

塗るものなんだけど、

それを塗る為にやり直すとなると、

まずは頭部の縫合を全て取る。

 

 

それから両側頭部にある筋肉の

縫合ってわけではないんだけど、

押さえる為に縫った糸も全て取る。

 

 

それから、クランプという

頭蓋骨を留めているネジ

のようなものを3つ外し、

ここでやっと

頭蓋骨を開ける作業。

 

 

それから中の詰め物を取り出し、

これでやっと、

その薬品を塗れる場所まで

辿り着く。

 

 

そこからまた今度は、

今述べた事を逆にやっていく。

 

 

それから、普通の皮膚でも

そうなんだけど、

一度縫合した場所には

それなりの針の穴ってのが

残るものなので、

それを取ってまた縫うって作業は、

そこから薬品やら体液やらが

漏れ出す危険性を増す。

 

 

特にそれが頭皮となると、

普通の皮膚よりも再縫合は難しく、

それをやり直せというピナに、

”あぁ、嫌がらせで言ってるよな”

と何となく感じた。

 

 

それに、その薬品を無理に

使用しなくとも、

その他の処置がしっかりしていれば、

わざわざそういったリスクを

背負いながらも

やり直すなんて必要もないのだと、

今となっては分かる。

 

 

でも当時の私には

まだそこまで知識と経験が

なかったけれど、

単にその再縫合のリスクを考え、

咄嗟に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、〇〇使いましたよ』

 

 

嘘は好きじゃないけど、

そういった様々な事を

考慮した上で、

私の中でその方が

賢明な判断だと思ったから。

 

 

そもそも、

スーパーバイザーなのに

手伝うどころか、

見にすら来ないピナにも

責任があるって話しだ。

 

 

実際に、その薬品を使わなくても、

その後のご遺体は

なんら問題なく葬儀を終えた。

 

 

そんなこんなで、

初めての1人検死解剖

エンバーミングは

イマイチという結果に終わった。

 

 

2022年4月29日のことだった。

 

 

ではでは

またねパー