カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)/新潮社

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カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)/新潮社

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カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)/新潮社

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 皆さんこんばんは。
当ブログはザ☆活字離れ世代で完全な読書難民の私が面白おかしく本を読んでいけたらいいなぁと完全に誰特でお送りしているのですが、今日はね、記念すべき日になるかもしれませんよ。

なぜなら本日の本は『カラマーゾフの兄弟』だから!!!

 おいおい待てよと。おめーいつからそんなまともな本を読むようになったんだと。
確かに私にはちょっとまだ早い気がする……というかこんな本を読むほど高尚な考えを持つ日は一生来ない気がする……。でもほら、一応ほら、死ぬまでには読んでおきたいじゃないっすか!!!というわけで2015年の目標にしたんです。『カラマーゾフの兄弟』を読む!と。


■読み始める前に

 もちろんこんな長い本。しかもあんまり知らない国ロシアの、しかも150年も前のお話に丸裸で挑んだら三行で撃沈してしまうでしょう。そう、私は読書離れ世代。自分にとても甘いのです。そこで以下の対策を立ててみました。

①人物相関図を手に入れる

http://www013.upp.so-net.ne.jp/hongirai-san/kids/k-soukanzu.html

こちらのサイト様にものすごい分かり易い相関図が載っています。この小説の一番のネックは登場人物が多いことと、一人の人物に対して呼び方がたくさんあること。(例:アリョーシャとアレクセイ、ドミートリィとミーチャ等)しかしこの相関図はそれらをすべて網羅してくれています。ありがてえ!!!

②読む内容を絞る

 『カラマーゾフの兄弟』が名作だといわれる理由のひとつに、様々な小説の要素が味わえるというものがあります。推理小説、家族小説、群像劇、歴史小説、宗教小説、教育文学……でもこれらを一遍に味わおうとすると食あたりを起こしてしまいます。なので、「今回は○○に着目して読む!」と決めるといいと思います。先ほどのサイトには読書感想文なんかに生かせそうな面白着目ポイントが書いてあります。重ね重ねありがてぇありがてぇ……。

③イケメンを想像する(腐女子限定か……?)

 本作の重要人物は何と言っても三兄弟とそのパパ。この人たちの人物をリアルに思い描けるか描けないかで面白さはきっと変わってくるはず。そこで、この人たちを自分の好みの顔で思い浮かべましょう。実在の俳優さんを想像してみるのもいいでしょう。幸いこの小説は映像化されています。宝塚バージョンでもよし、映画バージョンでもよし。私は想像しやすいので日本でドラマ化されたキャストで想像していました。

ドミートリィ→斉藤工さん
イワン→市原隼人さん
アリョーシャ→林遣都さん
フョードル→吉田鋼太郎さん

これでぐぐっと読みやすくなるはず。なんてったって皆さんイケメンですものペロペロペロペロ^p^

④キリスト教の基本について知る

 このお話はキリスト教の考え方がキモになってきます。そのため、ある程度のキリスト教的な知識があったほうがより楽しめると思います。ロシアのキリスト教はロシア正教といってヨーロッパ的なカトリック信仰とはまた別なもの、とかね。私はキリスト教系の学校に行っていたので大丈夫だったのですが、「イエス・キリストって何した人?」という方はさらーっと勉強しておくといいと思いますよ!

さぁ、後は読むだけです!きっとすばらしい読書体験が皆さんを待っているでしょう!

以下ネタバレ感想

■人物描写と三兄弟について

 大体一般的な小説に出てくる人物って、一言で言い表せる性格の人が多いと思うんです。「情に厚いが無鉄砲」だとか「ニヒルだが優しい心を持っている」だとか「家族想い」とかね。なんというか、作品に生かせそうな人間の一面だけを抽出し書いている感じ。
 でもこの小説は人間の複雑なところ、両極端な部分を持ち合わせているところまでものすごく丁寧に書いているんです(だから長いんでしょうけど……)。読み始めはミーチャ→刹那的に生きる堕落したダメ人間、イワン→冷徹で理性的な頭脳派、アリョーシャ→信仰に厚い天使という分かり易い人たちだと思っていたのですが全然違いました。
 特にミーチャは話が進むにつれてどんどん印象が変わってきます。三兄弟の仲で一人だけ母親が違い、父親からぞんざいに扱われて金を無心して酒におぼれることしか知らずに生きてきたミーチャは純粋な部分を発掘されることなく暴力的な部分ばかりが成長していってしまったんですね。
 一人冷静にカラマーゾフ家から距離を置いていると思われたイワンは、実は誰よりもフョードルに似ていることを自覚し、父親に殺意を抱いていると同時に愛していることを知るという難しい性格。

■大審問官と神の不在について

 ここが一番やっぱり面白かったです。
神様がいるのにこの世に悪がはびこっているのは、神様が人間たちに自由意志を与えたからだというのが現在では定説です。イエスは十字架にかけられて死ぬ直前、ピラトに「神の子なら自分で十字架からおりれるはずだ」と言われるのですが、それをしなかったのですね。それは、そこでもし自分を助けてしまったら、その奇跡に民衆が傅くことになるから。でもそれは本来の信仰ではなくて、抑圧されたものだとしてそれをしなかったんです。
 でも大審問官は言うわけです。神様は人間を信じているからそんなことをなさったに違いないが、人間は神のありがたい言葉よりも目の前のパン一切れをありがたがる。貴方が期待してくださっているほどすばらしいものではない、と。
 神様を信じたいがゆえにこう言ってしまうイワンの気持ちはものすごく良く分かります。その後悪魔が彼の元に現れてイワンに揺さぶりをかけるシーンも心に残ってます。曰く、人間の信仰に躓き(サタンに邪魔されて信仰を捨てようと思ってしまうこと)が無ければ、真の信仰は得られないと。苦難あって恋燃え上がるじゃないですけれど、障害を乗り越えてこそ真の信仰が得られるんですね。うーん、なるほど。

■アリョーシャとコーリャ

 コーリャという中学生がこれらまたマセガキなんですけども、アリョーシャの前で自分を大きく見せようと必死なんですね。実際に賢い子なんですけども。いろんな本を読んで得た知識だとか偏った思考だとかに傾倒して、それをあたかも自分の意見であるかのように錯覚して吹聴してしまうんです。でもアリョーシャが「それは君の言葉じゃないね」と見抜くんですよね。
 先日読んだ『教育の根底にあるもの』の中で林先生が「子供が自分の言葉で言っているかいないか、自分で考えているかいないかを見抜かなければならない」見たいな意味のことをおっしゃっていたことを思い出しました。

■ミーチャの裁判と許しについて

 さて、最後の感動的なミーチャの裁判。もうね、逆転裁判ばりにアツい!!意義あり!あと検察と弁護士の人台詞長い。
 ここで管理人の心を打ったのがフェチュコーウィチがアリョーシャを許そうと民衆に呼びかけるシーン。大審問官のところでも問題になった「人間は神様に信頼されているから自由意志を持っている」というところとも関係するのだと思うのですが、彼はいろんな罪を犯してきたミーチャを神からもらったその信頼に報いるために許そうというのですね。そしてその許すという行為がロシア全体を良くしていうのだ、というのです。ここはね、もう泣けるね……。

 管理人が心に残ったのはこの部分でしたが、皆さんはいかがだったでしょうか。恋模様に注目して読んだ人はグルーシェニカとカテリーナという二人の女性についてもっと思うところがあったかもしれませんね。

 ずっとアリョーシャ天使ペロペロと不純な動機で読み進めていましたが、こんな私でもとても面白かったので、きっと皆さんはもっと多くのことを感じていらっしゃるでしょう!カラマーゾフ万歳!
20世紀の幽霊たち (小学館文庫)/小学館

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 みなさんこんばんは。
唐突ですが管理人は今年、英検準2級と2級を取得することを目標にしてみました。「準2級てwwwwww中学生レベルですよwww」って笑っているそこの貴方!!……お願いですどうか私に英語を教えてください。

 さて、本日の本はジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』です。

 最初この本を知ったとき「ジョー・ヒル?知らないなぁ。有名な人?」くらいの関心だったのですが、読んでびっくり!さすがブラム・ストーカー賞等々三冠に輝いている作品です。作品の幅が広くて、ありがちなホラー短編の退屈さを感じさせません。そもそも仕事の幅がとても広い作家さんのようで、ノスタルジックなホラーから、アメコミ関連のお仕事から、はたまた純文学までなんでもこなしていらっしゃるそうです。
 さらにびっくりしたのが作者の出自。なんと、あのスティーブン・キングの息子さん!!!本人は正当に評価をされないことを嫌ってそれを隠していたっていうのもうなずけます。キングは奥さんも作家ですからね。七光りどころじゃないですよ。どんだけ光ってんだよって話ですよ。まぶしいまぶしい。名実ともにホラー小説界のサラブレッドといったところ。

 以下ネタバレ一言感想

①シェヘラザードのタイプライター

 亡き父が生前手慰みに小説を書き綴っていたタイプライターは、彼の死後も一日3ページのペースで小説を書き続けていた。その作品を集めた短編集は幻の短編集なのだ……。
 謝辞に短編を織り込むというトンデモな試み。気を抜いて「あーはいはい謝辞ね」と思って気を抜いて読んでいると足もとを救われますぞ!

②年間ホラー傑作選

 ホラー小説を世界で一番読んでいるのはきっとホラー雑誌を編纂している編集長さんでしょう。主人公のキャロルは小説の中で殺され、追い詰められ、ひどい扱いを受けた主人公を何度見たことでしょう。そんな彼が受け取った一作の原稿、しかし作者に会いに行った彼を待っていたのはホラー小説そっくりの行かれちまった兄弟の家で……。
 あらゆるホラー小説のパターンに精通している編集長ならなんか逃げられそうな気もします。「あ、ここで急ぎすぎると崖から転落パターンだなwww」みたいに。

③二十世紀の幽霊

 時々映画館に現れる女性の幽霊イモジェーン。アレックは幼少時代に彼女に会ってから、この映画館で働くことになった。その映画館改装オープンの日、観客席に座って映画を見ていたアレックの隣に座ったのは……。
 映画館って手軽に非現実を楽しめる場所ですよね。しかも幼いころの記憶と結びついていることがなぜか多い。その思い出の中に、一人の女性がいるっていうのはなんともロマンチックなお話ですね。

④ポップ・アート

 友達が風船!!なにそれ!?また心の中のお友達パターンかよと思ったら実在してる!!両親がちゃんといる!!想像が難しいお話でした。私の頭の中には「私はベイマックス」って言ってるアートが常に浮かんでいましたよ。子供のころの孤独と、傷と、悲しい二人の別れがとても綺麗な作品になっていました。ジョー・ヒルの代表作という人も多いみたい1

⑤蝗の歌をきくがよい

 ジョー・ヒルがカフカの『変身』に着想を得て書いた作品だそうな。脱皮後の皮の描写がリアルだ……。最初こそ自分自身を恐れ、人間に理解されない恐怖を感じていたフランシスでしたが、父親を殺して食ってところから人間としての思考を失い始めてしまったように思います。でも決して狂ってしまったようには見えなくて、なんだろう虫としての普通?としての日常が始まっているのがぞっとします。

⑥アブラハムの息子達

 ドラキュラ伯爵と死闘を繰り広げたヴァン・ヘルシングがアメリカに移り住んでいて、しかも息子がいるという設定。私は残念ながら『吸血鬼ドラキュラ』は子供向けに書き下ろされたやつをチラッと読んだだけだからヘルシング卿がどんな人物か知らないんですよ!もったいない。
 マックスとルーディは厳しいヘルシング卿の下で育てられたが、ある日吸血鬼のことを知ってしまって……というお話。マックス適性ありすぎだろwww結局吸血鬼はいるのかいないのか。父親が断末魔をあげたように見えたのは、彼が吸血鬼だったから?それともマックスが狂っちゃってて何でもかんでも吸血鬼に仕立て上げたいシリアルキラーになっちゃってますよーってこと?

⑦うちよりここのほうが

 すこし知的な障害のある息子と、あまり成績を残せていない野球選手のパパとのお話。これよくわからんかった……おばちゃんが見つけた死体はいったいなんだったの……?

⑧黒電話

 主人公の名前はジョン・フィニィ。『ゲイルズバーグの春を愛す』などで有名なジャック・フィニにインスパイアされて書かれたお話なんだとか。誘拐されたジョン・フィニィは監禁された部屋の中でなんとか助かる方法を探します。そこで鳴り出したのはひとつの黒電話。受話器をとると相手はなんと少し前に誘拐されていたと思われるかつての野球チームメイト。彼の不思議な力添えで、ジョンは決死の反撃にでるが……。
 巻末にこのお話の後日談が補足で付いています。私は無いほうが好きかな。作家さんって自分の作品をものすごく練り上げて作っているんだなぁというのがよく分かります。

⑨挟殺

 ダメなバイト店員ワイヤットが遭遇したのは、車の中で子供をナイフで刺した母親と虫の息の子供。何の役にも立たない人生だったけれど、このときだけは神に祈って必死に走る主人公が少しだけかっこよく見えます。

⑩マント

 幼いころから手放したことのなかった青いケープは、本物の空飛ぶマントだった。しかもなぜか効能はエリックだけにしかなかった。大人になって「つまらない」お堅い仕事についた兄とは対照的に、実家で無為な時間を過ごすだけのエリックは、再びマントの力を手にします。
 すっごい力を持っていても、使うやつがクズだったら何の意味もないんだよってことなのかな……。

⑪末期の吐息 イチオシ!!!

 これすごい好き!!!ヴンダーカンマーを思わせる死者の残した「末期の吐息」だけを蒐集する博物館。イイ……もう設定がとても美味しい。有名人の吐息から、さまざまな職業の吐息までその音色は様々。それは聞くものの心をかき乱してやまないのでしょう。こんな博物館があったら(しかも無料で!!)ぜひ行きたいなぁ。
 息子がインスパイアされすぎでワロタwww君が二代目の館長だよwww

⑫死樹

 木の幽霊だってあるんだぜ!!というお話。木の幽霊が君の思い出とともに残ってくれていたらいいのに……という願望なのかな。

⑬寡婦の朝食

 放浪者のキリアンが不幸にして貧しくも地に足をつけてしっかりと暮らしている女のところでお世話になる話。ちょっとロードムービーっぽい?

⑭ボビー・コンロイ、死者の国より帰る

 ホラー映画好きな人はにやりとしてしまうんじゃないかしら。ボビーがかつて思いを寄せていた女性ハリエットに出会ったのは、なんとジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』のエキストラ撮影の現場でした。夢を抱いていた学生時代は過ぎ去り、つまらない男と結婚したハリエットとコメディアンとしての才能に限界を感じていたボビーは灰色の生活を送っていました。
 この二人の生活の再出発と、ゾンビが何度でも生き返るという特性が上手く掛け合わされていて読後の爽快感がすばらしいです。ラストのボビーの一言には希望がつまっています。

⑮おとうさんの仮面

 これなんかこわい!!!トランプの兵隊ごっこという子供じみた遊びの中に、大人の汚い思惑が入り込んでいると思いきや、これは現実なのか……という奇妙な錯覚もあって……。現実と幻想と、大人と子供とが絶妙な塩梅で絡まりあった不思議な作品でした。

⑯自発的入院 イチオシ!

 おそらく自閉症?のモリスという弟のいる主人公が語る過去の告白。彼は悪い友人であるエディとともに、いたずらの延長で多大なる交通事故を引き起こしてしまうという過ちを犯しました。そのことでエディと居心地の悪い友情ごっこを続けさせられている兄を救いたいと思ったモリスは、得意のダンボールハウスにエディを誘い込んで……。
 誰でも昔はダンボールハウスを作ったんじゃないでしょうか。薄暗いダンボールの中をくぐっていると自分がいったいどこにいるのか?どちらを向いているのか?分からなくなってしまいますよね。そのときの不安を呼び起こされました。モリスが消えたダンボールハウスが今でもあったら……という考えが面白いです。彼は当時の姿のまま、いまでもダンボールハウスの中をさまよっているんでしょうか……。

⑰救われしもの

 ちょっとキリスト教的素養が足りなくてよくわからんかった……。ずっとほったらかしにしていた妻子に会いにトラックを走らせるジューバルが道で乗せたヒッチハイカーは血まみれで、しきりに「彼」だの「天国」だの言ってきて明らかにやばいやつ。しかも最後には「許す!」とかいってくるし……。
 最後に見た雪の中の娘さんの夢もいったいなんだったんだろう……。
くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)/早川書房

¥2,160
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 みなさんこんばんは。

 最近寒いから外に出ずに本ばかり読んでいます。こんなことせずにお外に出ていろんな人と会ったほうが絶対人生有意義だと思うんですが、なかなか人と会うのは億劫なコミュ障、管理人です。

 本日の本はエリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』。ネビュラ賞受賞作です。

 主人公のルウ・アレンデイルは35歳の自閉症の会社員。自閉症は先天的な脳の違いによって、健常者と比べて「こだわりがつよい」「数字に固執する(数える、並べる等)」「人の表情が読めない」「冗談が理解できない」等々の特徴がある人たちのこと。その中でも特にある分野に優れた能力を持っている人はサヴァン症候群といって天才だといわれることがあります。
 ルウは特出したパターン認識能力を持っていて、それを生かしてフェンシングを瞬く間にマスターしたり、仕事ではほかの人にはできないパターン解析をしていました。ルウがいるセクションは自閉症の人たちを集めて彼らがより仕事をしやすいように設備が整えられていました。ルウは自分の症状に対して、悩んだことはありましたが、同僚にもフェンシング仲間にも恵まれていたので自分を変えたいと強くは思っていませんでした。

 しかし、クレンショウという上司が、会社の経費削減のために特別待遇をされている自閉症セクションの縮小を提案します。彼は実質「自閉症を治療するプログラムに参加しろ、じゃなきゃクビ」という条件をルウ達に提示します。

 フェンシング仲間のドンともめたことや、教会でイエスに助けを求めた男の説法などが頭をよぎり、ルウは悩み始めます。もし自分が健常者になることができれば、小さいころにあきらめた宇宙に関する仕事ができるかもしれない。そんな希望を持つようになります。しかし、治療を受けるということは、これまでの自分の35年間の過去をすべて捨てることになるのかもしれません。価値観がまったく変わってしまって、愛する人のことをもう愛さなくなってしまうかもしれません。

 彼はいったいどんな未来を選択するのでしょうか。

 以下ネタバレ感想

 自閉症の人を視点に書かれたお話で、読んでいるうちになんとなく彼らの思考パターンというものが分かってきます。自分がいかにそういった症状を持っている人たちに偏見を持っていたかを思い知らされました。私には当事者の人の気持ちはよくわからないんですが、彼らは「人から理解されない」ということと同じくらい「自分が理解できない」と言うことに苦しんでいるのかなと思いました。彼らは特別な環境が用意されなければまともに仕事ができません。ドンのようにその特別待遇に腹を立てられることも悲しいでしょうし、自分が誰かに頼らなければならない=自分の力で生きていけないと自覚するのもきっとものすごくストレスなんじゃないかと思います。

 ルウが教会でハッとするシーン。池の中に身を沈めたいと思っている男にイエスが「おめー本当に癒されたいの?」とたずねるシーンは、人々が本当に救われたいと思っているのか、それは周りの誰かからそう思わせれているだけではないのか?その望みは本当に自分自身の望んだことなのか?という考えをルウに思わせます。
 本来なら神様はどんな人間でも、もちろん自閉症でも愛しておられるという考えが普通です。でもルウはずっと周りの人たちに、「普通になれ」と言われてきたので、それが神様の望むことだったのではないか?と思ってしまうんですね。

 結局ルウは手術を受けて、念願の宇宙に飛び出すわけですけど結局健常者はそうでない人には何もできないのだなと大きな壁を感じてしまいました。我々がいいと思っていることが彼らに対していいとは限らないし、何が幸せかなんてそれこそ同じ健常者であっても違うものだし。彼は幸せになったんだから、それでいいんじゃない?という感じ。

 それより私はドンにものすごい感情移入してしまったので読後はもやもやしっぱなしでしたよ。自閉症の人たちは確かに特別な環境が必要だけど、それさえあれば人並み以上に仕事ができるんですよね。しかも理解ある人には、自分の特性を把握してもらえるから、自分がどの能力を伸ばせばいいかよくわかる。
 でもドンはほんと何もできないんすよ!!仕事もころころ変えちゃうし、嫉妬はするし、子供っぽいことはするし、最後は犯罪にも手を染めちゃうし。でも私は彼の気持ちちょっと分かっちゃうな……自分のできない理由をしっかりと医学的に証明されている自閉症の人たちみたいな措置もなく、ダメなドンは理由もなくただただダメな人なんですよ。それを責任転嫁するのは大人のすることではないけれど、でもわかるんだよ!だからなんかすごいもやる!!私は定職につけていないし、何か能力があるわけでもないし余計にそうなんだと思う。

 読み始めは自閉症の人の気持ちがなんとなく理解できたような気がしたけれど、読み終わった今は自分との違いの大きさを改めて感じました。この本は2004年の出版ですけど、それから10年たった今、発達障害の原因遺伝子が特定されたというニュースもちらほら出ています。いつか、こういう障害が一切無くなる日が本当に来るのだと思います。果たして健常者は、本当に「正常」だったんでしょうか。