20世紀の幽霊たち (小学館文庫)/小学館

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 みなさんこんばんは。
唐突ですが管理人は今年、英検準2級と2級を取得することを目標にしてみました。「準2級てwwwwww中学生レベルですよwww」って笑っているそこの貴方!!……お願いですどうか私に英語を教えてください。

 さて、本日の本はジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』です。

 最初この本を知ったとき「ジョー・ヒル?知らないなぁ。有名な人?」くらいの関心だったのですが、読んでびっくり!さすがブラム・ストーカー賞等々三冠に輝いている作品です。作品の幅が広くて、ありがちなホラー短編の退屈さを感じさせません。そもそも仕事の幅がとても広い作家さんのようで、ノスタルジックなホラーから、アメコミ関連のお仕事から、はたまた純文学までなんでもこなしていらっしゃるそうです。
 さらにびっくりしたのが作者の出自。なんと、あのスティーブン・キングの息子さん!!!本人は正当に評価をされないことを嫌ってそれを隠していたっていうのもうなずけます。キングは奥さんも作家ですからね。七光りどころじゃないですよ。どんだけ光ってんだよって話ですよ。まぶしいまぶしい。名実ともにホラー小説界のサラブレッドといったところ。

 以下ネタバレ一言感想

①シェヘラザードのタイプライター

 亡き父が生前手慰みに小説を書き綴っていたタイプライターは、彼の死後も一日3ページのペースで小説を書き続けていた。その作品を集めた短編集は幻の短編集なのだ……。
 謝辞に短編を織り込むというトンデモな試み。気を抜いて「あーはいはい謝辞ね」と思って気を抜いて読んでいると足もとを救われますぞ!

②年間ホラー傑作選

 ホラー小説を世界で一番読んでいるのはきっとホラー雑誌を編纂している編集長さんでしょう。主人公のキャロルは小説の中で殺され、追い詰められ、ひどい扱いを受けた主人公を何度見たことでしょう。そんな彼が受け取った一作の原稿、しかし作者に会いに行った彼を待っていたのはホラー小説そっくりの行かれちまった兄弟の家で……。
 あらゆるホラー小説のパターンに精通している編集長ならなんか逃げられそうな気もします。「あ、ここで急ぎすぎると崖から転落パターンだなwww」みたいに。

③二十世紀の幽霊

 時々映画館に現れる女性の幽霊イモジェーン。アレックは幼少時代に彼女に会ってから、この映画館で働くことになった。その映画館改装オープンの日、観客席に座って映画を見ていたアレックの隣に座ったのは……。
 映画館って手軽に非現実を楽しめる場所ですよね。しかも幼いころの記憶と結びついていることがなぜか多い。その思い出の中に、一人の女性がいるっていうのはなんともロマンチックなお話ですね。

④ポップ・アート

 友達が風船!!なにそれ!?また心の中のお友達パターンかよと思ったら実在してる!!両親がちゃんといる!!想像が難しいお話でした。私の頭の中には「私はベイマックス」って言ってるアートが常に浮かんでいましたよ。子供のころの孤独と、傷と、悲しい二人の別れがとても綺麗な作品になっていました。ジョー・ヒルの代表作という人も多いみたい1

⑤蝗の歌をきくがよい

 ジョー・ヒルがカフカの『変身』に着想を得て書いた作品だそうな。脱皮後の皮の描写がリアルだ……。最初こそ自分自身を恐れ、人間に理解されない恐怖を感じていたフランシスでしたが、父親を殺して食ってところから人間としての思考を失い始めてしまったように思います。でも決して狂ってしまったようには見えなくて、なんだろう虫としての普通?としての日常が始まっているのがぞっとします。

⑥アブラハムの息子達

 ドラキュラ伯爵と死闘を繰り広げたヴァン・ヘルシングがアメリカに移り住んでいて、しかも息子がいるという設定。私は残念ながら『吸血鬼ドラキュラ』は子供向けに書き下ろされたやつをチラッと読んだだけだからヘルシング卿がどんな人物か知らないんですよ!もったいない。
 マックスとルーディは厳しいヘルシング卿の下で育てられたが、ある日吸血鬼のことを知ってしまって……というお話。マックス適性ありすぎだろwww結局吸血鬼はいるのかいないのか。父親が断末魔をあげたように見えたのは、彼が吸血鬼だったから?それともマックスが狂っちゃってて何でもかんでも吸血鬼に仕立て上げたいシリアルキラーになっちゃってますよーってこと?

⑦うちよりここのほうが

 すこし知的な障害のある息子と、あまり成績を残せていない野球選手のパパとのお話。これよくわからんかった……おばちゃんが見つけた死体はいったいなんだったの……?

⑧黒電話

 主人公の名前はジョン・フィニィ。『ゲイルズバーグの春を愛す』などで有名なジャック・フィニにインスパイアされて書かれたお話なんだとか。誘拐されたジョン・フィニィは監禁された部屋の中でなんとか助かる方法を探します。そこで鳴り出したのはひとつの黒電話。受話器をとると相手はなんと少し前に誘拐されていたと思われるかつての野球チームメイト。彼の不思議な力添えで、ジョンは決死の反撃にでるが……。
 巻末にこのお話の後日談が補足で付いています。私は無いほうが好きかな。作家さんって自分の作品をものすごく練り上げて作っているんだなぁというのがよく分かります。

⑨挟殺

 ダメなバイト店員ワイヤットが遭遇したのは、車の中で子供をナイフで刺した母親と虫の息の子供。何の役にも立たない人生だったけれど、このときだけは神に祈って必死に走る主人公が少しだけかっこよく見えます。

⑩マント

 幼いころから手放したことのなかった青いケープは、本物の空飛ぶマントだった。しかもなぜか効能はエリックだけにしかなかった。大人になって「つまらない」お堅い仕事についた兄とは対照的に、実家で無為な時間を過ごすだけのエリックは、再びマントの力を手にします。
 すっごい力を持っていても、使うやつがクズだったら何の意味もないんだよってことなのかな……。

⑪末期の吐息 イチオシ!!!

 これすごい好き!!!ヴンダーカンマーを思わせる死者の残した「末期の吐息」だけを蒐集する博物館。イイ……もう設定がとても美味しい。有名人の吐息から、さまざまな職業の吐息までその音色は様々。それは聞くものの心をかき乱してやまないのでしょう。こんな博物館があったら(しかも無料で!!)ぜひ行きたいなぁ。
 息子がインスパイアされすぎでワロタwww君が二代目の館長だよwww

⑫死樹

 木の幽霊だってあるんだぜ!!というお話。木の幽霊が君の思い出とともに残ってくれていたらいいのに……という願望なのかな。

⑬寡婦の朝食

 放浪者のキリアンが不幸にして貧しくも地に足をつけてしっかりと暮らしている女のところでお世話になる話。ちょっとロードムービーっぽい?

⑭ボビー・コンロイ、死者の国より帰る

 ホラー映画好きな人はにやりとしてしまうんじゃないかしら。ボビーがかつて思いを寄せていた女性ハリエットに出会ったのは、なんとジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』のエキストラ撮影の現場でした。夢を抱いていた学生時代は過ぎ去り、つまらない男と結婚したハリエットとコメディアンとしての才能に限界を感じていたボビーは灰色の生活を送っていました。
 この二人の生活の再出発と、ゾンビが何度でも生き返るという特性が上手く掛け合わされていて読後の爽快感がすばらしいです。ラストのボビーの一言には希望がつまっています。

⑮おとうさんの仮面

 これなんかこわい!!!トランプの兵隊ごっこという子供じみた遊びの中に、大人の汚い思惑が入り込んでいると思いきや、これは現実なのか……という奇妙な錯覚もあって……。現実と幻想と、大人と子供とが絶妙な塩梅で絡まりあった不思議な作品でした。

⑯自発的入院 イチオシ!

 おそらく自閉症?のモリスという弟のいる主人公が語る過去の告白。彼は悪い友人であるエディとともに、いたずらの延長で多大なる交通事故を引き起こしてしまうという過ちを犯しました。そのことでエディと居心地の悪い友情ごっこを続けさせられている兄を救いたいと思ったモリスは、得意のダンボールハウスにエディを誘い込んで……。
 誰でも昔はダンボールハウスを作ったんじゃないでしょうか。薄暗いダンボールの中をくぐっていると自分がいったいどこにいるのか?どちらを向いているのか?分からなくなってしまいますよね。そのときの不安を呼び起こされました。モリスが消えたダンボールハウスが今でもあったら……という考えが面白いです。彼は当時の姿のまま、いまでもダンボールハウスの中をさまよっているんでしょうか……。

⑰救われしもの

 ちょっとキリスト教的素養が足りなくてよくわからんかった……。ずっとほったらかしにしていた妻子に会いにトラックを走らせるジューバルが道で乗せたヒッチハイカーは血まみれで、しきりに「彼」だの「天国」だの言ってきて明らかにやばいやつ。しかも最後には「許す!」とかいってくるし……。
 最後に見た雪の中の娘さんの夢もいったいなんだったんだろう……。