猿若祭二月大歌舞伎昼の部を観てきました。
2月は、歌舞伎座横にある、お稲荷さんの初午祭りに合わせて、劇場内から楽屋に至るまで地口行灯が吊るされています。
⤵️歌舞伎稲荷大明神というのがあるのね。

地口というのは、駄洒落のことで、右上が「鬼に片棒」左下が「えんま舌の力持ち」右下が「日記かんじょう」です。
去年も同じものを見たような気がしたけど、今年も「なるほど、ウフッ」程度に和みました。
猿若祭は、初代中村勘三郎が、江戸で初めて芝居小屋の櫓(やぐら)をあげたことを記念して、毎年2月に行われています。
「櫓」は、江戸幕府が公認している証として、芝居小屋の正面に置かれる立方体の飾り看板のようなものです。木材を立方体に組んで、一座の紋を染め抜いた布を張ってあるのね。
歌舞伎座のは、これ⤵️ 日本政府公認?

歌舞伎座の紋「鳳凰丸」が染め抜かれています。
…で、昼の部の演目ね。
『鞘當(さやあて)』、『醍醐の花見』

そして、新作歌舞伎の『きらら浮世伝』でした。
『鞘當』は、淀みない台詞のやり取りが面白い演目なのですが、私にとっては、字幕がないイタリアオペラみたいなものでして…、台詞はBGMのように聴きながら、ひたすら豪華な衣装を双眼鏡でガン見するのが楽しみなのですよ。
巳之助さんの不破伴左衛門が「雲に稲妻」、隼人さんの名古屋山三が「濡れ燕」です。それぞれ俳句にヒントを得たデザインなのね。「稲妻のはじまり見たり不破の関(荷翠)」と「傘(からかさ)にねぐらかそうよ濡れ燕(其角)」です。
衣装がキレイに見えるように、何度も見得をきめてくれますが、双眼鏡を離せないので、拍手できない三階席の哀しさよ…。
『醍醐の花見』には、押しの左近ちゃんが大野治房役で出ています。凛々しい若侍でしたよ。膝に置いた手が指先までシュッと伸びていて、白くて細くて(双眼鏡で確認)キュンキュンしました。
声変わりがまだ終わってなくて、ボーイソプラノとテノールがこぶしを回すみたいにコロコロ入れ替わるのも、今しか聞けない声だと思うと尊い!
そして『きらら浮世伝』です。
横内さんの戯曲は「善人会議」時代から観ていますが、夢や希望を真っ直ぐに描く、その乱暴とも思える前向きさに魅力を感じていました。
『きらら浮世伝』も、蔦谷重三郎(今年の大河ドラマの主人公ね)を中心に、まだ無名の歌麿、馬琴、北斎、十返舎一九たちが、やりたいことに真っ直ぐ進む青春群像劇です。
芝翫さんちの三兄弟や鶴松さんたち、そして黒衣役の大勢の若手役者さんたち、終始エネルギー全開でした。
でもね、昔(30代のころね)、横内作品を観たときに味わった、自分の内から沸き起こる感動が、70代の今はノスタルジーに変わってるのよね。
この勢いのなかに、もう私は入ってない…。