アジアのお坊さん 番外編 -10ページ目

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

ビル・S・バリンジャーの「歯と爪」を子供の頃から何度も何度も読み返しているのは、この小説の主人公が奇術師だからだ。奇術師作家であるクレイトン・ロースンや泡坂妻夫以外の作家が書いた一番魅力的な奇術ミステリが「歯と爪」だと、当時から思っていたので、2010年に創元推理文庫から新装版が出て以降もずっとこの本を読み続けている。

 

先日もまた読み返したのだけれど、そのついでにインターネットで検索してみたら、「歯と爪」以外のバリンジャー作品は、これも子供の頃にハヤカワ文庫の「消された時間」(現在は絶版)を読んだだけで、それ以外の著作は絶版か未訳だと思い込んでいたら、何年も前に「煙で描いた肖像画」が創元推理文庫から出ていて、しかも普通にまだ書店で手に入ることが分かった。

 

ついでに言うと、その事も、そして他の出版社から2冊ほどバリンジャーの別の作品が訳されていることも、何もインターネットで調べなくても、「歯と爪」新装版の解説にちゃんと書かれていたのに、何度も読んだその解説の文章は、なぜか私の頭をすり抜けていたようだ。

 

この度ようやく私の中で機が熟したのだろう、「煙で描いた肖像画」を購入して読み始めたところ、これが実に面白い。途中からは余りの面白さに、解説も、扉に書かれたあらすじも、登場人物表すらも見返すことをやめた。もちろん読み終わるまでインターネットのレビューなどは決して検索せずに、意外性を損なうような行為はすべて慎んだ。子供の頃に余計な情報を目にして、意外性を味わう楽しみを失ったことが何度もあるから。

 

ちなみに「歯と爪」も「煙で描いた肖像画」も、スト-リーテリングを楽しむ小説であり、意外なトリックやどんでん返しを期待すべき小説ではないということが、この年になって読むとよく分かった。そして私は子供の時のように寝食を忘れて「煙で描いた肖像画」を読み耽り、その物語の展開と結末に、深く深く満足した。

                  おしまい。

 

※以前に書かせて頂いた奇術師の出て来るミステリ一覧を再録させて頂きます。

 

・クレイトン・ロースン 「帽子から飛び出した死」 1938

奇術師でもありミステリ作家でもあり、奇術師探偵グレイト・マーリニを主人公にした小説を何作も何作も著しているロースンの、これは処女作。

 

・泡坂妻夫 「11枚のとらんぷ」 1976

同じく奇術家でありミステリ作家でもあり、或いはロースンの諸作を凌ぐ作品を数々残した日本の作家。長編としての処女作が奇術をテーマにした「11枚のとらんぷ」だ。

氏には他にも「喜劇悲奇劇」や奇術師探偵曽我佳城シリーズを始め、奇術師の出て来る作品が多数ある。

 

・B・S・バリンジャー 「歯と爪」 創元推理文庫 1955

 

・ウイリアム・ゴールドマン「マジック」早川書房 1978

同名傑作映画の原作。

 

・「魔術ミステリ傑作選」 創元推理文庫 1979

 

・クリストファー・プリースト 「奇術師」 ハヤカワ文庫 1995 

映画「プレステージ」の原作

 

・松岡圭祐 「マジシャン」 2002

 

・キャロル・オコンネル 「魔術師の夜」 創元推理文庫 2005 

 

・リチャ-ド・マシスン 「奇術師の密室」 扶桑社文庫 2006 

 

・ジェフリー・ディーバー 「魔術師(イリュージョニスト)」文春文庫 2008

 

・ピーター・G・エンゲルマン 「マジシャン殺人事件」 扶桑社文庫 2009 

 

・相沢沙呼 「午前零時のサンドリヨン」 創元推理文庫 2012

 

・ジョン・ガスパード 「マジシャンは騙りを破る」「秘密だらけの危険なトリック」 創元推理文庫 2015、2017

 

・トム・ミード「死と奇術師」 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2023

 

※ 「ホームページ アジアのお坊さん 本編」を更新いたしました。

 

アジアと日本のお寺のトイレを紹介する

「ホームページ アジアのお坊さん アジアの東司」のページに

新しいお寺の写真を複数追加いたしました。

 

ぜひご覧ください。

先日、日本人バックパッカーや海外邦人関係の事件一覧を更新させて頂いた後、以下の記事に気が付いたので補足の上、再更新させて頂きます。

 

●2025年3月 中国の万里の長城で日本人男女2人が尻を出した動画を撮影・配信し、拘束された上、国外に強制退去。

 

   ※ ※ ※

      

 

●97年7月 ネパールの仏跡ルンビニの日本山妙法寺の僧侶が射殺される。

●98年6月 チベットで日本人男子大学生が行方不明。
●98年12月 インドのデリーで日本人男子大学生が殺される。
●99年3月 トルコで日本人女子学生が不明。

●99年4月 ネパール・カトマンズのホテルで24歳の日本人男性が墜落死。
●2001年2月 バリ島で日本人女性が殺される。

●01年4月 トルコで卒業旅行の日本人女子学生4人が交通事故に遭い、死傷。

●01年11月 タイのチェンマイのダムで65歳の在留邦人男性の死体が発見。
●02年4月 銃撃戦の直後にエルサレムの聖誕教会を訪れた日本人男女2人が厳重注意を受ける。
●02年5月 ニューカレドニアのイルデパン島で日本人女性が殺害。07年と09年に容疑者2人に、それぞれ無罪判決。

●02年6月 バンコクの運河で二人の邦人男性が溺死。のちにタイ人とミャンマー人の二人が逮捕。

●02年7月 日本人女性ジャーナリストのY氏が、アフガンで兵士に鞭で殴打される。

●02年11月 アユタヤからバンコクに向かうバスが事故。日本人11人が重傷を含む被害。
●02年12月 フィリピン・セブ島を旅行中の日本人女性2人が強盗を撃退。
●03年1月 イースター島のモアイ像に落書きを彫った日本人男性が逮捕。
●03年1月 バンコクのチャオプラヤー河ラーマ8世橋下の運河で24歳の日本人男性の遺体が発見。
●03年6月 パキスタンのラホールの空港近くに日本人男性の遺体。

●03年6月 インドネシア・ジャカルタ近郊で48歳の日本人男性が22歳のインドネシア人女性を殺害。

●03年7月 タイ・パタヤのマンションで日系企業に勤める37歳の邦人男性が変死。

●03年11月 JALに務める日本人客室乗務員女性がバンコクのタクシーの運転手に腹部を撃たれる。
●04年3月 イラクのサマワで日本人男子学生2人、タクシーとのトラブルで逮捕される。
●04年4月 イラクでボランティアの日本人3人が拘束され、後に日本国内でバッシングされる。
●04年10月 香田証生さん、イラクで殺害される。
⇒参考文献:「香田証生さんはなぜ殺されたのか」下川裕治(新潮社)は、香田さん事件 をバックパッカーの観点から考察した著作。
●04年12月、シドニーのバックパッカー向けゲストハウスで、日本人旅行者の男性が、同宿のオーストラリア人旅行者の男性を刺殺。
●05年8月 パキスタンで自分のカメラを現地人の短銃と交換した日本人男性旅行者が逮捕。

●05年9月 ケニアのマサイマラ国立保護区で外国人観光客が斧を持った男に襲われ、日本人男性一人が負傷。
●05年9月 教員の日本人男女2人がアフガニスタンで殺害。
●05年11月 インドのジャム・カシミール州で日本人ジャーナリスト男性のS氏が武装グループに襲われて負傷。

●05年12月 22歳の日本人男子大学生がトルコで行方不明。
●06年4月 タイのパトゥムタニで50代の日本人男性2人が殺害される。

●07年2月 ギニアで民俗太鼓「ジャンベ」を習う日本人旅行者たち数名が、日本大使館の退避勧告に従わず、大使館で保護。

●07年9月 ミャンマーのヤンゴンで、デモ取材中の日本人ジャーナリストが狙撃され死亡。
●07年10月 イランで日本人男子学生が誘拐される(08年6月に解放)。
●07年11月 タイのスコタイで、ブログなどで旅の足取りを発信していた日本人女性の遺体が発見。

●07年12月 タイのチョンブリで67歳の在住日本人が惨殺。
●08年5月8日 イエメンで日本人女性2人が誘拐。
●08年8月4日 パレスチナ自治区で日本人フリーライターが拘束。
●08年8月12日 バンコクで長期滞在者の日本人男性が行方不明。その後、日本で貯金が引き出され、死体で発見。犯人は日本人男性2人。
●08年8月28日 アフガンでタリバンに拉致されていたNGO職員の男性、遺体で発見。
●08年9月 エチオピアで活動中の「世界の医療団」の日本人女性医師が誘拐。10月にソマリアで解放。
●09年8月 モンゴルのウランバトルで日本人女性教師がモンゴル人男性によって殺害。
●09年9月 バリ島で日本人観光客の女性が殺害。
●09年11月 イエメンでJICA関係の邦人が誘拐。
●09年11月 タイのプーケットで75歳の在留邦人の男性が殺害。
●09年12月 バリ島で在留邦人の女性が殺害。
●10年4月 アフガニスタンで日本人ジャーナリスト・T氏が誘拐。ちなみにこの方は、それまでに海外で何度もトラブルに巻き込まれていたお方。
●10年4月 チリのパタゴニア近郊のパイネ国立公園で、アフリカ、欧米を1年近く旅行中だった20代の日本人男性バックパッカーが遺体で発見。遭難の可能性も。
●10年4月 日本人カメラマン、バンコクのデモに際し、死亡。
●10年12月 インド・ヴァラナシのガートでテロ、邦人一人を含む多数が死傷。
●11年2月 ベトナム・ハロン湾の観光船事故で日本人男子大学生を含む乗客が、複数死亡。

●11年6月 ネパールで日本人女性が遭難。タケノコを食べて後に生還。
●11年9月 ミャンマーで一人旅の日本人女性が、バイクタクシーの運転手によって殺害。

●11年10月 インドネシア・ジャワ島でツアーバスが事故に遭い、日本人女性が被害に。

●12年5月 ドバイで日本人女性客室乗務員がチュニジア人の男に絞殺される。
●12年5月 ロシアのウラジオストクから東シベリアまでバイクで横断旅行中の日本人男性が刺殺される。

●12年8月 ルーマニアで日本人女子大生が、ブカレストの空港で声を掛けてきた男の車に乗せられ、近くの森で殺害される。

●12年8月 シリアで日本人女性ジャーナリストが銃撃に巻き込まれて死亡。

●12年11月 台湾のタロコ渓谷で62歳の日本人男性が転落死。

●13年3月 カンボジア・シアムリアプの遊園地でジェットコースターが脱線し、邦人女性が死亡。

●13年9月 トルコのカッパドキア付近で、日本人女子大生2人が襲われ、一人が殺害、一人が重体。

●13年9月 バングラデシュのコックスバザールからダッカに向かうバスがチッタゴンでデモに遭い、一人旅の日本人女性が重傷。

●13年10月 カンボジアのプノンペンで日本人女性が、9月の末に強盗に足を撃たれ負傷。10月に入って、カンボジア人の男二人が逮捕。 

●13年11月 コンゴの日本大使館で務めていた元3等書記官の20代の日本人男性が、大使館に放火。

●13年12月 エクアドルで新婚旅行中の日本人夫婦が殺害される。

●14年1月 ローマの地下鉄でスリを繰り返し、「地下鉄の忍者」と謳われた日本人男性が逮捕。

●14年8月 カナダでバス事故があり、日本人学生2人を含む観光客56人が重軽傷。

●14年10月 バンコク在住の日本語教師(79歳男性)が行方不明の後、殺害され、バンコク郊外の運河で発見。

●14年10月 日本人女性が iPhone(アイフォン)を密輸し、上海の税関に摘発される。

●14年10月 ネパールのヒマラヤ・アンナプルナで日本人男性が雪崩で死亡。

●14年10~11月 日本人ジャーナリスト2人がシリアで相次いで拘束され、翌年1月公開処刑される。

●15年1月 インドのブッダガヤ近郊の村で日本人女性旅行者が監禁暴行される。

●15年3月 イラク北部クルド人自治区にトルコから入国した日本人男性が不審者と疑われて拘束される。

●15年9月 ジャカルタのマンションで、日本人女性がマンション警備員に金品目的で殺害される。

●15年10月 バングラデシュで農業開発に携わっていた日本人男性が射殺される。

●15年11月 バングラデシュに10年滞在していた日本人女性がダッカの民家で死体で発見。

●16年2月 グアムで70歳の日本人男性がホテルに所持品を残したまま行方不明。

●16年3月 タイのリゾート地ホアヒンのビーチで、社員旅行の日本人男性約30人が泥酔の上、全裸に。タイ中で大問題に。

●16年9月 カナダに語学留学中の日本人女性がバンクーバーで殺害される。

●16年11月 インドのゴヴァラム・ビーチで日本人女性旅行者が暴行される。

●16年11月 バックパッカーとして世界各地を旅して、旅ブログの発信もしていた一橋大学の日本人学生がコロンビアで殺害される。

●16年12月 フランス留学中の日本人留学生女子がブザンソン市で行方不明に。

●17年4月 マルチ商法詐欺の日本人女性62歳が、38歳と年を偽り、タイ人男性と交際、タイ当局に逮捕される。

●17年9月 釜山の海雲台で40代日本人女性の旅券が入った持ち物が見つかり、女性は行方不明。

●17年9月 バリ島で70代の邦人夫婦が殺害される。

●17年11月 アユタヤで日本旅行のツアーに参加した日本人男女4人が移動中の自動車で事故に合う。

●18年2月 東シベリアのオイミャコン村を自転車旅行していた日本人大学生グループがキャンプ中に動けなくなり、地元の人に助けられる。オイミャコン村は世界最冷寒の地として有名だった。

●18年11月 タイのバンコクの両替所で、旅行資金が底を突いた33歳の日本人旅行者男性が強盗に及んだものの、そのまま両替所に閉じ込められて未遂のまま逮捕され、日本でもそのニュースが報じられた。

⇒旅行資金のなくなったバックパッカーが罪を犯すというケースはままあるが、現地の悪徳旅行業者などと結託して同国人を騙すようなパターンはよく聞くものの、こういった、普通の旅行者が直接、犯行に及ぶような事件は意外と珍しいので、興味深く思った。

●19年4月 十数人の日本人男性がタイのパタヤで共同生活を送り、日本国内の日本人に向けて、振り込み詐欺を働き、逮捕。

●19年11月 バリ島のマンションで日本人女性が襲撃され、防犯カメラの映像が日本のテレビでも放映される。

●19年月アメリカ・ユタ州のアーチーズ国立公園において日本人家族が転落事故に遭う。

●19年11月 2007年にタイのスコタイで日本人女性バックパッカーの方が殺害された事件について、10年以上たって、犯人がほぼ特定される。

●19年12月 タイで日本人4人の乗る車が事故に遭う。

●19年12月 アフガニスタンでNPO法人「ペシャワール会」代表の中村哲氏が銃撃されて死亡。

●19年12月 タイのバンコク在住の日本人男性が刃物で刺される。タイ人容疑者2名は外国人ばかりを狙って強盗に及んでいたとのこと。

●20年3月 インドネシア・バリ島沖の離島・ヌサ・ペニダ島で、22歳の日本人男性が海岸で高波にさらわれて転落し、溺死。

●20年8月 フィリピンで80代の日本人女性が殺害(2021年2月に犯人逮捕)。

●20年 11月 ブラジルで現地少年による強盗殺人。被害者は在住の40代日本人女性。

●21年 4月 バンコクで駐タイ日本大使のN氏が所謂「ナイトクラブ」でコロナに感染。大批判を浴びる。

●21年 4月 ミャンマーで日本人ジャーナリストのK氏が拘束。K氏は2月末にもミャンマーで一度拘束されていた。

●21年 4月 タイ・チョンブリ県の飲食店で午後9時半以降に飲酒を含む宴会をしていた日本人9人が、コロナ対策の禁止令違反で逮捕。

●21年5月 メキシコ北西部ティフアナでラーメン店を経営する日本人男性が、知人と見られる複数の男に殺害される

●23年7月 タイ北部チェンマイのホテルで31日午前、日本人女性が首に携帯電話の充電用のケーブルが巻かれた状態で死亡しているのを一緒に宿泊していた日本人の夫が見つけた。

●23年9月 ハワイの税関で、いかがわしい目的かと疑われて入国を拒否される日本人女性が増えているとの報道。

●23年9月 「持続化給付金」詐取の疑いで日本で逮捕状が出ていたものの、カンボジアからタイへ逃げていた日本人男性。不法滞在の疑いで当局に身柄を拘束されて、日本に強制送還される予定だったが、入管から車両で逃走。その後、パタヤで身柄を確保される。

●2024年10月 マレーシアのキャメロンハイランドに向かっていたツアーバスが事故に遭い、日本人旅行者が複数死傷。ちなみにキャメロンハイランドはタイのシルク王、ジム・トンプソンが謎の失踪を遂げた場所でもある。

●2024年12月 バンコクの(バックパッカーが多いことで知られる)カオサン通り付近にあるエンバーホテルで火災があり、日本人2人も被害に遭う(1月に一人の死亡が確認される)。

●2025年1月 タイ北部・チェンマイのターペー門広場で、カウントダウンイベント後に禁止区域でランタンを飛ばそうとした日本人男性が制止した警察官に挑みかかり、罰金刑に処される。

男性はその後あらためて警察に謝罪。冷静かつ温厚なタイ警察に称賛の声ならびに当該の警察官にチェンマイ警察から報奨金。

●2025年2月 タイ国境近くのミャンマー・ミヤワディを拠点にっした特殊詐欺事件において、日本人も多数加害者集団に加えられていた。ちなみにミヤワデイはタイから日帰り入国できることでバックパッカーに知られており、2013年にはその他のタイ・ミャンマー国境地域と共に、入国条件が緩和されている。今回の事件におけるアジトは、この時期以降に規模が拡大して行った模様。

 

●2025年3月 中国の万里の長城で日本人男女2人が尻を出した動画を撮影・配信し、拘束された上、国外に強制退去。

      

                   おしまい。

 

「旅行人」2006年春号に掲載して頂いた「バックパッカーのためのアジアお坊さん入門」を大幅加筆し、

2019年に全面的にリニューアルした

「ホームページ アジアのお坊さん 本編」も是非ご覧ください。

子供の頃に同年代の親戚の少年が「引田天功の大魔術」という本を持っていて、私は奇術と探偵小説が好きで、彼はSF小説を愛好していたのにも関わらず、彼が手品関係の本を持っているのが羨ましくて、会う度に貸してくれとせがんだものだ。

 

何年か前に久しぶりで再会した彼に、今もSFを読んでいるのかと尋ねたら、SFを愛する気持ちはまだ持っているみたいな、曖昧な返事でお茶を濁されたので、その上、「引田天功の大魔術」はまだ持っているかとまでは、畳みかけて聞く気が失せた。

 

一方で、別の年長の子供が持っていた「伊藤一葉の手ちがい手品」という本も、しつこいくらいに借りて読んだものだが、さて、そうした子供時代に読んだ手品本以外に、大人になって買った奇術関係の本で、唯一、今も手元に有り、なおかつ何度も読み返している本が、現役奇術師である藤山新太郎師の「タネも仕掛けもございません」だ。

 

この本は天功や一葉を含む昭和の奇術師について詳しく述べた好著で、初代天功の自己顕示欲が如何に強かったかということや、伊藤一葉が天功に対してコンプレックスを感じながら、ようやく成功を掴みかけた時に病魔に冒され、不遇の内に死を遂げたことなどが克明に描かれていて、とても興味深い。ただ一つ不満を言うならば、この本「引田天功の大魔術」「伊藤一葉の手ちがい手品」について一言も触れていないことが残念だ。

 

ちなみに「引田天功の大魔術」に一葉の名前は全く出て来ないのだが、他の奇術師仲間からの誹謗や揶揄については書かれている。一方の「伊藤一葉の手ちがい手品」には天功の名前が何度も出て来て、奇術師仲間が天功の大魔術を揶揄していたことにも触れているし、かと思うと「私と天功とは案外、話が合う」「私と天功とは全く両極端の奇術を演じているように見えるが、結局根底には同じ共通点がある」といった、コンプレックスに満ちた叙述が頻繁に出て来る。

 

これを「タネも仕掛けもございません」に描かれた一葉像と併せて読むと、彼の複雑な胸中が想像できて、感慨深さの余り、深く胸を打たれずにはいられない。

               おしまい。

 

 

※「引田天功の大魔術」と「伊藤一葉の手ちがい手品」は、その後、古本屋で手に入れて何度も何度も読み返している。

また、大人になってから買った奇術関係の本の中で、唯一、手元に残して何度も読み直しているのが「タネも仕掛けもございません」だと書いたけれど、もう1冊、故・ジョニー広瀬師の「ジョニー広瀬 奇術人生55年」を最近に買って、手元に残させて頂いている。

 

「ホームページ アジアのお坊さん 本編」もご覧ください

2025年3月までの日本人バックパッカーや海外邦人関係の事件一覧を、更新させて頂きます。

 

●97年7月 ネパールの仏跡ルンビニの日本山妙法寺の僧侶が射殺される。

●98年6月 チベットで日本人男子大学生が行方不明。
●98年12月 インドのデリーで日本人男子大学生が殺される。
●99年3月 トルコで日本人女子学生が不明。

●99年4月 ネパール・カトマンズのホテルで24歳の日本人男性が墜落死。
●2001年2月 バリ島で日本人女性が殺される。

●01年4月 トルコで卒業旅行の日本人女子学生4人が交通事故に遭い、死傷。

●01年11月 タイのチェンマイのダムで65歳の在留邦人男性の死体が発見。
●02年4月 銃撃戦の直後にエルサレムの聖誕教会を訪れた日本人男女2人が厳重注意を受ける。
●02年5月 ニューカレドニアのイルデパン島で日本人女性が殺害。07年と09年に容疑者2人に、それぞれ無罪判決。

●02年6月 バンコクの運河で二人の邦人男性が溺死。のちにタイ人とミャンマー人の二人が逮捕。

●02年7月 日本人女性ジャーナリストのY氏が、アフガンで兵士に鞭で殴打される。

●02年11月 アユタヤからバンコクに向かうバスが事故。日本人11人が重傷を含む被害。
●02年12月 フィリピン・セブ島を旅行中の日本人女性2人が強盗を撃退。
●03年1月 イースター島のモアイ像に落書きを彫った日本人男性が逮捕。
●03年1月 バンコクのチャオプラヤー河ラーマ8世橋下の運河で24歳の日本人男性の遺体が発見。
●03年6月 パキスタンのラホールの空港近くに日本人男性の遺体。

●03年6月 インドネシア・ジャカルタ近郊で48歳の日本人男性が22歳のインドネシア人女性を殺害。

●03年7月 タイ・パタヤのマンションで日系企業に勤める37歳の邦人男性が変死。

●03年11月 JALに務める日本人客室乗務員女性がバンコクのタクシーの運転手に腹部を撃たれる。
●04年3月 イラクのサマワで日本人男子学生2人、タクシーとのトラブルで逮捕される。
●04年4月 イラクでボランティアの日本人3人が拘束され、後に日本国内でバッシングされる。
●04年10月 香田証生さん、イラクで殺害される。
⇒参考文献:「香田証生さんはなぜ殺されたのか」下川裕治(新潮社)は、香田さん事件 をバックパッカーの観点から考察した著作。
●04年12月、シドニーのバックパッカー向けゲストハウスで、日本人旅行者の男性が、同宿のオーストラリア人旅行者の男性を刺殺。
●05年8月 パキスタンで自分のカメラを現地人の短銃と交換した日本人男性旅行者が逮捕。

●05年9月 ケニアのマサイマラ国立保護区で外国人観光客が斧を持った男に襲われ、日本人男性一人が負傷。
●05年9月 教員の日本人男女2人がアフガニスタンで殺害。
●05年11月 インドのジャム・カシミール州で日本人ジャーナリスト男性のS氏が武装グループに襲われて負傷。

●05年12月 22歳の日本人男子大学生がトルコで行方不明。
●06年4月 タイのパトゥムタニで50代の日本人男性2人が殺害される。

●07年2月 ギニアで民俗太鼓「ジャンベ」を習う日本人旅行者たち数名が、日本大使館の退避勧告に従わず、大使館で保護。

●07年9月 ミャンマーのヤンゴンで、デモ取材中の日本人ジャーナリストが狙撃され死亡。
●07年10月 イランで日本人男子学生が誘拐される(08年6月に解放)。
●07年11月 タイのスコタイで、ブログなどで旅の足取りを発信していた日本人女性の遺体が発見。

●07年12月 タイのチョンブリで67歳の在住日本人が惨殺。
●08年5月8日 イエメンで日本人女性2人が誘拐。
●08年8月4日 パレスチナ自治区で日本人フリーライターが拘束。
●08年8月12日 バンコクで長期滞在者の日本人男性が行方不明。その後、日本で貯金が引き出され、死体で発見。犯人は日本人男性2人。
●08年8月28日 アフガンでタリバンに拉致されていたNGO職員の男性、遺体で発見。
●08年9月 エチオピアで活動中の「世界の医療団」の日本人女性医師が誘拐。10月にソマリアで解放。
●09年8月 モンゴルのウランバトルで日本人女性教師がモンゴル人男性によって殺害。
●09年9月 バリ島で日本人観光客の女性が殺害。
●09年11月 イエメンでJICA関係の邦人が誘拐。
●09年11月 タイのプーケットで75歳の在留邦人の男性が殺害。
●09年12月 バリ島で在留邦人の女性が殺害。
●10年4月 アフガニスタンで日本人ジャーナリスト・T氏が誘拐。ちなみにこの方は、それまでに海外で何度もトラブルに巻き込まれていたお方。
●10年4月 チリのパタゴニア近郊のパイネ国立公園で、アフリカ、欧米を1年近く旅行中だった20代の日本人男性バックパッカーが遺体で発見。遭難の可能性も。
●10年4月 日本人カメラマン、バンコクのデモに際し、死亡。
●10年12月 インド・ヴァラナシのガートでテロ、邦人一人を含む多数が死傷。
●11年2月 ベトナム・ハロン湾の観光船事故で日本人男子大学生を含む乗客が、複数死亡。

●11年6月 ネパールで日本人女性が遭難。タケノコを食べて後に生還。
●11年9月 ミャンマーで一人旅の日本人女性が、バイクタクシーの運転手によって殺害。

●11年10月 インドネシア・ジャワ島でツアーバスが事故に遭い、日本人女性が被害に。

●12年5月 ドバイで日本人女性客室乗務員がチュニジア人の男に絞殺される。
●12年5月 ロシアのウラジオストクから東シベリアまでバイクで横断旅行中の日本人男性が刺殺される。

●12年8月 ルーマニアで日本人女子大生が、ブカレストの空港で声を掛けてきた男の車に乗せられ、近くの森で殺害される。

●12年8月 シリアで日本人女性ジャーナリストが銃撃に巻き込まれて死亡。

●12年11月 台湾のタロコ渓谷で62歳の日本人男性が転落死。

●13年3月 カンボジア・シアムリアプの遊園地でジェットコースターが脱線し、邦人女性が死亡。

●13年9月 トルコのカッパドキア付近で、日本人女子大生2人が襲われ、一人が殺害、一人が重体。

●13年9月 バングラデシュのコックスバザールからダッカに向かうバスがチッタゴンでデモに遭い、一人旅の日本人女性が重傷。

●13年10月 カンボジアのプノンペンで日本人女性が、9月の末に強盗に足を撃たれ負傷。10月に入って、カンボジア人の男二人が逮捕。 

●13年11月 コンゴの日本大使館で務めていた元3等書記官の20代の日本人男性が、大使館に放火。

●13年12月 エクアドルで新婚旅行中の日本人夫婦が殺害される。

●14年1月 ローマの地下鉄でスリを繰り返し、「地下鉄の忍者」と謳われた日本人男性が逮捕。

●14年8月 カナダでバス事故があり、日本人学生2人を含む観光客56人が重軽傷。

●14年10月 バンコク在住の日本語教師(79歳男性)が行方不明の後、殺害され、バンコク郊外の運河で発見。

●14年10月 日本人女性が iPhone(アイフォン)を密輸し、上海の税関に摘発される。

●14年10月 ネパールのヒマラヤ・アンナプルナで日本人男性が雪崩で死亡。

●14年10~11月 日本人ジャーナリスト2人がシリアで相次いで拘束され、翌年1月公開処刑される。

●15年1月 インドのブッダガヤ近郊の村で日本人女性旅行者が監禁暴行される。

●15年3月 イラク北部クルド人自治区にトルコから入国した日本人男性が不審者と疑われて拘束される。

●15年9月 ジャカルタのマンションで、日本人女性がマンション警備員に金品目的で殺害される。

●15年10月 バングラデシュで農業開発に携わっていた日本人男性が射殺される。

●15年11月 バングラデシュに10年滞在していた日本人女性がダッカの民家で死体で発見。

●16年2月 グアムで70歳の日本人男性がホテルに所持品を残したまま行方不明。

●16年3月 タイのリゾート地ホアヒンのビーチで、社員旅行の日本人男性約30人が泥酔の上、全裸に。タイ中で大問題に。

●16年9月 カナダに語学留学中の日本人女性がバンクーバーで殺害される。

●16年11月 インドのゴヴァラム・ビーチで日本人女性旅行者が暴行される。

●16年11月 バックパッカーとして世界各地を旅して、旅ブログの発信もしていた一橋大学の日本人学生がコロンビアで殺害される。

●16年12月 フランス留学中の日本人留学生女子がブザンソン市で行方不明に。

●17年4月 マルチ商法詐欺の日本人女性62歳が、38歳と年を偽り、タイ人男性と交際、タイ当局に逮捕される。

●17年9月 釜山の海雲台で40代日本人女性の旅券が入った持ち物が見つかり、女性は行方不明。

●17年9月 バリ島で70代の邦人夫婦が殺害される。

●17年11月 アユタヤで日本旅行のツアーに参加した日本人男女4人が移動中の自動車で事故に合う。

●18年2月 東シベリアのオイミャコン村を自転車旅行していた日本人大学生グループがキャンプ中に動けなくなり、地元の人に助けられる。オイミャコン村は世界最冷寒の地として有名だった。

●18年11月 タイのバンコクの両替所で、旅行資金が底を突いた33歳の日本人旅行者男性が強盗に及んだものの、そのまま両替所に閉じ込められて未遂のまま逮捕され、日本でもそのニュースが報じられた。

⇒旅行資金のなくなったバックパッカーが罪を犯すというケースはままあるが、現地の悪徳旅行業者などと結託して同国人を騙すようなパターンはよく聞くものの、こういった、普通の旅行者が直接、犯行に及ぶような事件は意外と珍しいので、興味深く思った。

●19年4月 十数人の日本人男性がタイのパタヤで共同生活を送り、日本国内の日本人に向けて、振り込み詐欺を働き、逮捕。

●19年11月 バリ島のマンションで日本人女性が襲撃され、防犯カメラの映像が日本のテレビでも放映される。

●19年月アメリカ・ユタ州のアーチーズ国立公園において日本人家族が転落事故に遭う。

●19年11月 2007年にタイのスコタイで日本人女性バックパッカーの方が殺害された事件について、10年以上たって、犯人がほぼ特定される。

●19年12月 タイで日本人4人の乗る車が事故に遭う。

●19年12月 アフガニスタンでNPO法人「ペシャワール会」代表の中村哲氏が銃撃されて死亡。

●19年12月 タイのバンコク在住の日本人男性が刃物で刺される。タイ人容疑者2名は外国人ばかりを狙って強盗に及んでいたとのこと。

●20年3月 インドネシア・バリ島沖の離島・ヌサ・ペニダ島で、22歳の日本人男性が海岸で高波にさらわれて転落し、溺死。

●20年8月 フィリピンで80代の日本人女性が殺害(2021年2月に犯人逮捕)。

●20年 11月 ブラジルで現地少年による強盗殺人。被害者は在住の40代日本人女性。

●21年 4月 バンコクで駐タイ日本大使のN氏が所謂「ナイトクラブ」でコロナに感染。大批判を浴びる。

●21年 4月 ミャンマーで日本人ジャーナリストのK氏が拘束。K氏は2月末にもミャンマーで一度拘束されていた。

●21年 4月 タイ・チョンブリ県の飲食店で午後9時半以降に飲酒を含む宴会をしていた日本人9人が、コロナ対策の禁止令違反で逮捕。

●21年5月 メキシコ北西部ティフアナでラーメン店を経営する日本人男性が、知人と見られる複数の男に殺害される

●23年7月 タイ北部チェンマイのホテルで31日午前、日本人女性が首に携帯電話の充電用のケーブルが巻かれた状態で死亡しているのを一緒に宿泊していた日本人の夫が見つけた。

●23年9月 ハワイの税関で、いかがわしい目的かと疑われて入国を拒否される日本人女性が増えているとの報道。

●23年9月 「持続化給付金」詐取の疑いで日本で逮捕状が出ていたものの、カンボジアからタイへ逃げていた日本人男性。不法滞在の疑いで当局に身柄を拘束されて、日本に強制送還される予定だったが、入管から車両で逃走。その後、パタヤで身柄を確保される。

 

●2024年10月 マレーシアのキャメロンハイランドに向かっていたツアーバスが事故に遭い、日本人旅行者が複数死傷。ちなみにキャメロンハイランドはタイのシルク王、ジム・トンプソンが謎の失踪を遂げた場所でもある。

 

●2024年12月 バンコクの(バックパッカーが多いことで知られる)カオサン通り付近にあるエンバーホテルで火災があり、日本人2人も被害に遭う(1月に一人の死亡が確認される)。

 

●2025年1月 タイ北部・チェンマイのターペー門広場で、カウントダウンイベント後に禁止区域でランタンを飛ばそうとした日本人男性が制止した警察官に挑みかかり、罰金刑に処される。

男性はその後あらためて警察に謝罪。冷静かつ温厚なタイ警察に称賛の声ならびに当該の警察官にチェンマイ警察から報奨金。

 

●2025年2月 タイ国境近くのミャンマー・ミヤワディを拠点にっした特殊詐欺事件において、日本人も多数加害者集団に加えられていた。ちなみにミヤワデイはタイから日帰り入国できることでバックパッカーに知られており、2013年にはその他のタイ・ミャンマー国境地域と共に、入国条件が緩和されている。今回の事件におけるアジトは、この時期以降に規模が拡大して行った模様。

 

●2025年3月 中国の万里の長城で日本人男女2人が尻を出した動画を撮影・配信し、拘束された上、国外に強制退去。

      

                   おしまい。

 

「旅行人」2006年春号に掲載して頂いた「バックパッカーのためのアジアお坊さん入門」を大幅加筆し、

2019年に全面的にリニューアルした

「ホームページ アジアのお坊さん 本編」も是非ご覧ください。