アガサ・クリスティー「ヘラクレスの冒険」のこと | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

アガサ・クリスティーが生んだ名探偵ポアロのことを、子供の頃は人が言うほどエキセントリックだとも思わなかったし、特に好きでも嫌いでもなかったのだが、最近になってポアロ物を読むと、とても面白く思う。

 

ミス・マープルに比べると、作者クリスティーがポアロのことを余り愛していなかったという説があり、版権所有者である孫のマシューまでが祖母のアガサから直接そう聞いたと証言しているが、後期作品におけるポアロは老いによる円熟味が魅力的で、作者が初期の頃と違って段々とポアロに愛情を感じ始めたのではないかと私は思っている。

 

さて、ポアロ物の中期の短編集「ヘラクレスの冒険」をこの程はじめて読んだのだが、これも大変に面白かった。各話の工夫もさることながら、以前に登場したロサコフ伯爵夫人のその後が描かれているところなどもクリスティーの登場人物への愛情だと思う。

 

クリスティーの他の探偵について言えば、「謎のクィン氏」という短編集にしか登場しないハーリ・クィン氏物の後日談「クィン氏のティー・セット」が何十年も経ってから突然一話だけ書かれたり、ミス・マープルの初登場短編集「火曜クラブ」に出て来るジェーン・ヘリア嬢が後の短編「奇妙な冗談」に少しだけ顔を出したりするようなものだ。先日読んだ「謎のクィン氏」と同様、ミステリ的興味も満喫できた上で心地よい滋味にも酔える短編集でした。

 

 

※ポアロ最後の事件「カーテン」については過去ブログ「ミス・マープル 最初と最後の事件」をご覧ください。

 

※先日「謎のクィン氏」を初めて読んだ後、図書館で「クィン氏のティー・セット」所収の単行本を借りて読みましたが、面白かったです。

 

 

               おしまい。

 

 

「ホームページ アジアのお坊さん 本編」もご覧ください