『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 CIVIL WAR 公開中🎦
久しぶりにテーマで迷いました。
‘サスペンス映画’にしようかとも思いましたが、
明らかに‘戦争映画’ではないし
‘映画’にしました。
【ネタバレあり】
この作品をネタバレなしで色々語るのは無理だと思うので。
『アメリカ最後の日』という邦題のサブタイトルは合ってないと思いましたが、
トランプが大統領選挙で勝利した今、
このタイトルがあながち絵空事じゃない気がしてきました。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』キルステン・ダンストが語る「戦場ジャーナリストへの深い敬意」【今祥枝の考える映画vol.32】 https://t.co/QDw29jaNNy
— BAILA/バイラ (@BAILA_magazine) November 2, 2024
ボクはキルスティン・ダンストが好きなので、
この作品のことは結構前からチェックしてたんですが、
本国アメリカならまだしも、
まさか日本でも初登場1位になるとは思ってませんでした。
日本における洋画の低迷が叫ばれて久しいですが、
こういうスター映画でも人気シリーズものでもない作品がヒットしたのは快挙に等しいと思いますね。
ただし、そこそこチェックしたユーザーレビューは
どちらかというと‘否’が多かった印象で、
ボクも 期待したものとは違った、とまず思いました。
つい先日トランプが大統領選挙で勝ちましたが、
ボクはトランプが大嫌い。
平気で差別的発言をする下品な人間やと思ってます。
トランプ大統領が誕生してから
“アメリカの分断”がよく言われるようになったので、
そのアメリカの内戦を描くというのは、
大統領選挙がある年でもあったし
非常にタイムリーな題材と思いました。
日本では大統領選挙が近づいたタイミングで公開されたのもよかったと思います。
ちなみにアメリカの公開日は南北戦争にちなんだ日だったそうです。
南北戦争のことは知らないのでここでは触れません。
現代におけるアメリカの内戦を描くということは、
トランプ以降のアメリカの分断を描くに違いないと思って、それを期待してたんですが、
内戦がなぜ起こったのか?という肝心なところがよく分からない。
ボクの理解力不足かも?と思いましたが、
同様のレビューを多数目にしました。
ただ、本作の面白いところは、
だからといってつまらないワケではないところです。
フツー、期待したものと違うのを見せられたらガッカリ感が強くなりますが、
本作には期待外れの部分を補う面白さというか、興味深いところがありました。
ダンストはベテラン戦場カメラマンを演じてたんですが、
対する若手カメラマンを『エイリアン:ロムルス』でいいところを見せたばかりのケイリー・スピーニーが演じていたのが良かった!
幼く見えて少しビックリしたんですが、
そのぶんダンストとの対比が際立って良かったです。
ダンストはオバさんになってたのがややショックでしたが、もうそういう歳ですからね。
子役時代から見てきた好きな女優さんがいまだに話題作で活躍してくれてるだけで嬉しいものです。
パンフレットによると、スピーニーはダンストの『ヴァージョン・スーサイズ』がきっかけで女優を志して、
本作でスピーニーを気に入ったダンストがソフィア・コッポラ監督に紹介して
コッポラ監督の『プリシラ』でスピーニーはヴェネチア国際映画賞の主演女優賞を獲得。
現実の女優としての関係性と
本作でのカメラマンとしての関係性がリンクするのが何とも感慨深いです。
最初から“戦争映画”は期待してなかったし、実際いい意味でそういうカテゴリーの作品ではないですが、
遠景で描かれる砲弾の映像や音が、
あの 湾岸戦争のニュース映像を思い出さずにはいられないリアルさで、
内戦を具体的に描いてはいないのに、
戦時下の雰囲気はなかなかリアルに描けている、
ある種アンバランスな感じも本作の魅力かもしれません。
このシーンが話題になってて確かに恐ろしくて、
露骨な人種差別のシーンもありますが
作品全体としてはそういうテーマ性はわざとぼやかしてる印象です。
本作のアレックス・ガーランドが監督した作品は他に観たことがないので
作風を予測できない面白さもありました。
『28日後…』や『わたしを離さないで』の脚本を書いていたということで
才能がある人なのは間違いないでしょう。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のアレックス・ガーランド監督にインタビューしました。
— ISO (@iso_zin_) October 4, 2024
右派と左派の対話が崩壊しているこの社会で、両者が喧嘩せず議論できる映画を目指したという本作。終盤の衝撃的な場面が本国でどう受け止められたか、という話に驚愕しました。 https://t.co/9Xwz937VZS
ガーランド監督は公の場で‘反トランプ’の立場を明確にしたそうで、
タイミング的にもなかなか勇気のある人だな、と感心しました。
その話を聞かずとも、本作に登場するアメリカ大統領がトランプを意識しているのは
特にラストでハッキリします。
本作の中でも明らかに反トランプの意志を鮮明に出している演出をボクは気に入りました。
パンフレットにあった監督のインタビューを見て驚いたんですが、
ガーランド監督は
「性的暴力で有罪判決を受け、邪悪で嘘つきであることが何度も証明されている男がアメリカの大統領選に出馬しているのです」と、ここまでハッキリ言っています。
しかし、現実には予想を覆す大勝をトランプは果たしたわけですから、
この結果を踏まえて、ガーランド監督にまたアメリカを描いた作品を撮ってほしい気がします。
イングランドのロンドン生まれということで、
アメリカ人じゃないから描けるアメリカの暗部ってあると思います。
実はそれをこの『シビル・ウォー』で期待したんですが、
そこまで反トランプを公言しながらも
作品の中では抑制を効かせるガーランド監督は
映画のエンターテイメント性にもきっちりこだわる人なのかもしれません。
実際に本作を観ると 主役はスピーニー演じる若手カメラマンのジェシーで、
ダンスト演じるリーたちとニューヨークからワシントンD.C.まで向かう
まるで、というかまさに〈ロードムービー〉みたいな作品になっています。
大統領を取材するための旅に同行するベテラン記者サミーを演じた
スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンは知らない俳優さんでしたが
見事な助演ぶりでしたね!
アカデミー賞にノミネートされるべきレベルの味わい深い演技でした。
この サミー、リー、ジェシーの三世代が同行することによって
それぞれの世代の異なる考え方や行動が見えてくるのが面白いところ。
若さの勢いがあるジェシーの方が
キャリアのあるリーより良い写真を撮るところが面白かったんですが、
本来はジェシーみたいなタイプだったと想像できるリーの
ずっと憂いを抱えたような姿が印象的でした。
そこにはジャーナリズムの限界が見てとれ、
そこがガーランド監督の重要なメッセージであったことが
パンフレットのインタビュー記事を読んで分かりました。
ジャーナリストが尊重されなくなり
報道が力を失ったことで、
昔なら失脚してもおかしくないトランプのような人間が大統領になってしまうんだ、と。
本作を実際に観ている間は正直そこまでは汲み取れてなかったんですが、
若い女性の成長を描くロードムービーとして観れば楽しめるし、
若者の成長物語とアメリカの内戦という
普通なら両立し得ないようなテーマが合わさってる
ある種奇妙な味わいこそが本作の魅力であるような気がします。
しかし、あらためて振り返ると、
ジェシーの成長は、目の前の人の死に慣れていってるだけともとれて、
それは知らず知らずのうちにジェシーが戦争の狂気に蝕まれているともいえて、
そこを冷静に考えると、やはり戦争は恐ろしい、人の命だけではなく心を壊すものであるという結論に至ります。
直接的には描かないものの、
戦争の恐ろしさをジワジワと感じさせるガーランド監督の演出が考え抜かれたものであるのは間違いないでしょう。
ツッコミどころがあっても、観ていくとそれらがちゃんと回収されていって
変わった作風と合わせて、ここはガーランド監督は明らかに確信犯。
クライマックスの ホワイトハウス陥落という最重要シークエンスも
ツッコミどころ満載なんですが、
内戦自体を明確に描いていないことも合わせ、
ここもガーランド監督が意図的にご都合主義にしてるのは明らか。
敵が誰か分からなくても、撃ってくるから撃ち返す。
この状況こそが戦争。
戦時下の空気感はリアルに描きながらも
戦争そのものをリアルに描くことよりも
その空気感こそが大事で、
明らかにトランプと重ねた本作の大統領の
ラストのみっともない姿こそを描きたかったようにすら見えました。
そう思うとラストシーンの皮肉ったらない。
そのワンカットにジェシーの成長も重ね合わせた
ラストシーンは本当に見事。
アメリカに対する強烈な皮肉をも含んでいたと思う。
リアルな空気感の描写に非リアルな展開、
恐ろしい戦時下の中でも変わらない美しい花や風景。
現実を見据える老人と突っ走る若者、
その狭間にいるかのような中年女性。
この先に明確なハッピーエンドは見えないし、
現実もまさにそうなってしまっている。
期待したような作品ではなかったのに
ブログが思ったより長くなりましたが、
こうやって 観た後色々と考えてしまいたくなる映画もときにはいいし、
こうやって 観た者に色々考えてもらうことこそがガーランド監督の目的。
この混沌とした世界で
人間に最後に残された希望は
いや、希望を残すために必要なのは
この、‘思考すること’なのかもしれません。
二人に一人は投票すらしないのがこの日本。
逆に、まだ二人に一人は考えていると捉えることも可能です。
あれだけ盛り上がってたアメリカ大統領選挙ですら
投票率は60%台。
思考が極端になることは危険ですが
考えている人間の方がまだ多いことには希望がある。
ガーランド監督は
今なら容易にCGで描けたはずのシーンを実写で撮っていて、
このメイキングを見て↓驚きました。
ガーランド監督もお気に入りのシーン
— 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』公式 (@civilwar_jp) October 25, 2024
┈ メイキング映像解禁 ┈
撮影現場にいた全員が鳥肌が立ったという
魔法のような驚くべき撮影手法を記録した映像🎥
ぜひご覧ください。#映画シビルウォー #アメリカ最後の日 #A24https://t.co/U6RObV6vw7 pic.twitter.com/Q8Z7kvCauS
おそらく試行錯誤したであろうからこそ生まれた
稀に見る美しいシーン。
(こんな美しいシーンを観れるとは思わんかった)とボクは感動を覚えました。
民主主義の根幹を揺るがす
連邦議会襲撃事件を煽動したトランプが
民主主義によって再び大統領になるのが今の現実。
日々モヤモヤしていますが、
このことに限らず、
‘モヤモヤする’というのは‘考えている’ということでもあります。
考え続けることで
この世界への一抹の希望を持ち続けたいです。