『ラブ&ポップ』 (1998)
庵野秀明監督初の実写映画作品として劇場公開されたのがもう25年前。
『エヴァンゲリオン』にハマった勢いで観に行きましたが
これが素晴らしかった!!
しかし、思い入れが強い分、
DVDは持ってましたが、それを観た記憶はほとんどなくて、
『シン・仮面ライダー』で久しぶりに庵野熱が上がったので
おそらく12年以上ぶりに観ました。
映画館で観た時は30歳くらいで 結婚する前、
まだ学生時代に好きやった女の子と会ってたりして
嫁さんとは出会う前。
つまり、まだ将来が固まっていない時期でした。
それから25年経った今は、
下の娘が本作の主人公の女子高生とちょうど同じ年頃になっているという(^^ゞ
そしてもちろん自分も歳を重ねて、
劇場公開時とは全く違う状況
いい意味で自分の家庭が固まっている状態で観たわけですが、
不思議なほどぶっ刺さりました!!!
女子高生の心情をストレートに描いている本作に
50代半ばで人生が落ち着いてきたオッサンに感情移入できるのか?不安でしたが、
そんな不安は不要でした。
本来ならボクが嫌いなハズの手持ちカメラによる映像は
その 巧みでテンポのよい編集で引き込まれ、
本来ならこれまた嫌いなナレーションも、
主役の裕美を演じた三輪明日美ちゃんの
セリフのような語りが心地よく
これまたハマって実に飽きさせない。
語りの多さやテロップはまさにエヴァ的で、
エヴァが好きな人はすんなり入れると思う。
とにかく明日美ちゃんが素晴らしいので、
まだ新人やった彼女の起用が本作の成功に大きく貢献したのは間違いありません!
彼女ももう41歳ですが、21歳で結婚して、3人の子供のお母さんだそうです^^
女優さんとして復帰してるそうなので見てみたいですね。
フィルムカメラなど、90年代の雰囲気を
今となっては懐かしい気持ちで楽しめます。
女子高生の援助交際を描いたストーリーは
悪く言えば平板でもありますが、
本作は映像が凝っているから
ストーリーのシンプルさと変わった映像の組み合わせが相性よくて、
援助交際の相手のキャラがだんだん強烈になっていくから、
そこで思わず引き込まれます。
援助交際=セックスというイメージがあるかもしれませんが、
本作で描かれるそれはむしろセックスなしの
一緒に御飯食べるだけとかばかりなので、
主人公たちが何の罪悪感もなく
軽い小遣い稼ぎであっけらかんとしてるから
センセーショナルな内容というわけではありません。
正直、不快なシーンもありますが、
それがあるから裕美たちの得も言われぬ心情が胸に迫ってくるし、
軽いバイト感覚であっけらかんと援助交際をやっていた彼女たちが、
パッと見はまともでも異様なフェチを持っている男や、
社会の隅でなんとか生きている ある種危ない男たちと出会う、出会ってしまったことによって、
表にはハッキリ出さないものの、
彼女たちの中で何かが確実に‘変わってしまう’のが見てとれ、
そこが爽やかでありがちな青春映画とは明らかに違い、
観ている側も何とも言えない気持ちになってしまいながらも、
だからこそ多感な年頃の彼女たちの心の機微が胸に刺さってきます。
結局刺さったセリフは25年前と全く同じでした。
「世の中のものは必ず終わっていく。人の気持ちも終っていく」
「ただ四人は、全てを話せるから仲がいいわけじゃない。
相手が答えたくないことを聞いたり
相手が何か答えを欲しがっている時に
黙ったりしないから四人は友達なのだ」
「やりたい事や 欲しいと思った物は
そう思った瞬間に手に入れようと努力しないと
必ず自分から消えて無くなる」
「時の流れは いつも無理やり物事を終わらせてくれる」
後半登場する手塚とおるさんが気持ち悪過ぎて^_^;
当時はキワモノ役者で終わるかと思いましたが、
ずっと第一線で活躍されてて、こういう読み違えは嬉しいですね。
いまだに手塚さん見ると本作のこと思い出しますw
続いて登場する浅野忠信さんがさらに危なくて
浅野さんのさすがの演技で本当に怖い。
しかし、実はコイツが一番いい事を言うのが面白くて、
ここで本作の大切なメッセージが浮かび上がってきます。
誰にも その人を大切に想っている人がいる。
だから自分を大切にしないといけない。
優しい両親と姉との四人家族の裕美はそもそも恵まれていて
家族とも仲がいい。少なくとも悪くはない。
だから援助交際も本当にお金のためにやってるだけで
別に人生に対してやさぐれているワケでもなんでもない。
そもそも援助交際というものが親たちを悲しませてしまう行為である
自覚がないというか罪悪感がない。
人間は誰しも独りじゃない。
そのことに他者が気づきを与える。
これは庵野監督作品に共通したメッセージな気がします。
『シン・ゴジラ』は面白かったんですが、
そういうメッセージはボクは感じなかったから心には引っ掛からなかったんやと思います。
でも『シン・仮面ライダー』は『シン・ゴジラ』ほど優れたエンタメ性はないのに
心には刺さった。
本作には村上龍さんの原作があって
ボクは公開当時に買ってたんですが
実は読んだ記憶がない。
本作を久しぶりに観るにあたって読んでみようかとも思いましたが、
庵野監督の映画として感じたかったので、読まずに観ました。
昔“読んでから見るか 見てから読むか”というキャッチコピーがありましたが、
ボクは経験上断然後者です。
パンフレットで村上さんのインタビューを読みましたが、
作品の出来に満足されてて、
原作にけっこう忠実なようです。
村上さんは女子高生が援助交際をやるのはお金のためだけとは限らず、
他人との出会いを求めていたり、そこには寂しさがあるんじゃないか、
みたいに答えていて、なるほどと思いました。
本作の主人公たちは基本明るくて家庭環境も学校生活も(描写はなくとも)問題なさそうなのに、どこか満たされ感がない。
これ書いてて気づいたけど、本作、女子高生が主役の青春映画なのに
学校のシーンが一切出てこないんですよね。男子高校生も出てこない。
決められた学校生活より、外の世界こそが彼女たちが求めている世界、
そこもひとつのメッセージだったのかもしれません。
裕美はそこで出会った男に大切なことに気づかされる。
先に書いたように、
この歳になって女子高生の揺れ動く内面世界にハマれるのか?という心配はありましたが、
‘満たされているようで実は満たされていない生活を送っている’女子高生が主役と捉えたら、
それは完全に今のボクにも、いや、おそらくほとんどの人に当てはまるわけです。
これほどブログを書くのが難しい映画もそうはないんですが、
こうやって書いていくことで気づきが与えられるのがブログの良さでもあります^^
「何かが欲しい、という思いをキープするのは
その何かが今の自分には無いという無力感をキープすることで
それはとても難しい」
エンドタイトルの映像が最高に素晴らしくて、
昭和歌謡の名曲『あの素晴らしい愛をもう一度』が不思議なほどピタリとハマってるのも♫
庵野監督のセンス!!
実はここの映像が一番映画的で、
これから未来に向かって歩いて行く彼女たちを観て感動せずにはいられません。
昔はなんだかよくわからない感情も相まってここで涙が流れましたが、
今回はウルッときながらも泣くところまではいきませんでした。
でもそれはボクの感受性が鈍ったというのではなくて、
この、前向きで素晴らしい作品の核心に一歩近づけたからのような気がします。