『掏摸(スリ)』 by 中村文則 ♬エルガー 《エニグマ変奏曲》 | ☆ Pingtung Archives ☆

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もとは(湾生の母にまつわる)戦前の台湾・屏東(Pingtung)や引揚げ、さらに2016年の屏東訪問の記録。今は思い付きの日記で、映画やドラマ、本、受験、犬、金融・経済、持病のIgGMGUSそして台湾とテーマは支離滅裂です。♬マークは音楽付き。

天才スリ師の”仕事”の顛末を通して描く、この世の闇とその向こうにある神の存在を問うお話です。

この本が最初に出たのは2009年。

なのにまるで、今年、日本で、世界で起こっていることを正確に再現するようなディテールで読者を惹きつけ、いっきに読ませます。

 

本の紹介文

掏摸(スリ) :中村 文則|河出書房新社 (kawade.co.jp)より)

 

東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」――運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。
その男、悪を超えた悪――絶対悪VS天才スリ師の戦いが、いま、始まる!!

 

テーマは、選ぶことのできない人の運命とそれを超えようとする力ってとこでしょうか。
 

”僕”がねらう金持ちのスペックはちょっと笑えます。

    

彼はこの周囲の乗客の中で、最も裕福な男であると僕は思った。コートはブルネロ、スーツも同様・・・オーダーもののベルルッティの革靴は、少しもすり減っていない。わかりやすい裕福者は、自分がそのような存在であることを、周囲に主張していた。

 

    

クラシックのコンサートを聴く客達のほとんどは年齢層が高く、金を持っていた・・・老人の男はロロ・ピアーナの厚い茶色のコートを着、女はクリーム色の厚手のコートにグッチのマフラー・・・

 

 

また、“僕”の犯行の詳細には、今年前半に起きたいくつかの強盗殺人事件や詐欺事件を地で行く描写(脱税目的の現金の保管、愛人など)もあります。

 

掏摸のお話ですが、弱者に課された運命に光をあてた内容でもあり、なぜか ウクライナvsロシア、ハマスvsイスラエル、そしてアメリカのことを思い、木崎のセリフのようにこの先とんでもない地殻変動が起きそうな気もします。

 

    

残念ながら、お前は、これから面白くなる世界を見ることができない。・・・これからこの国は面白くなるぞ。利権にボケた権力者の構造が、大きく変わる。劇的に!庶民にも凄まじい影響が出る。世界はこれから、沸騰していくのだよ。だが、しかし

 

 

”僕”が狙った裕福な老夫婦がコンサートで聴いた エルガー 『エニグマ変奏曲』