著者は元日銀マン。
物価理論を研究する著者が、今、世界を覆うインフレを分析した本です。
結論から言うと、今のインフレ制圧に利上げは効かない、ということ。
なぜなら、今回のインフレは供給要因(この本が書かれた2022年時点)によるもので、利上げが効く従来の需要要因によるものではないから。
供給要因とはこの場合労働供給の不足であり、それはコロナのパンデミックによる人々の行動変容によってもたらされた、とされます。
日本のメディアが喧伝する
1)ウクライナ戦争によって急騰したエネルギーや穀物価格の高騰によってもたらされた
2)コロナ禍における各国のバラマキの結果である
というほど単純なものでもなさそうです。
インフレはウクライナ戦争よりも前(2021年)に始まっていました。
なのに、あのFedですらそれを見逃してしまいます。
物価理論の一丁目一番地とされる フィリップス曲線 を片手に、コロナからの経済回復を目論んでいたFedは、失業率が1%下がれば物価が0.1%上がると見込んでいました。
ところが実際には、失業率の低下にほぼ垂直に立ち上る物価の上昇がみられるようになり、あわてて急速な利上げに動き今に至るということです。
(【渡辺努】真相はモノ経済への移行。高インフレの謎に迫る (newspicks.com)より)
(先月のマーケットの振り返り(2023年9月) | 三井住友DSアセットマネジメント (smd-am.co.jp)より)
それから1年半。
物価は若干落ち着いてきましたが(高止まり)、失業率は依然低水準。
つまり、人手不足はそう解消されていない。
だから利上げが物価の下押し圧力にはなっていない、ということになります。
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ひるがえって、そんな欧米各国の動きに取り残された日本。
世界インフレの局面で日本のインフレ率は世界最下位。
(IMF統計 日本はむしろ物価高から取り残された異様な状態 世界の潮流との差で犠牲になっている人がいる | 政策 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net) より)
値上げ嫌い や 価格据え置き敢行 はバブル崩壊以降の30年で日本社会に沁みついた「ノルム」だと著者は言います。
そんな、デフレという慢性病を抱えた日本で急性インフレの治療だけ行うと慢性デフレをさらに悪化させる、というのが植田日銀の方針なのでしょうか。
たしかに日本は、自分で決めて動けない国。
このたびのインフレという外圧は、ある意味崖っぷちニッポンが素直に値上げや経済の成長を謳歌する健全なモードに戻る絶好のチャンスかもしれません。
不穏なのは、利上げが効かないインフレの行く末はひょっとして
スタグフレーション
なのかという懸念。
日本はその前に慢性デフレからの脱却(生還)を果たせるか。
むつかしい局面ですね。
悩み深き孤独な日銀におくります。