直木賞受賞作『テスカトリポカ』を図書館で予約したら、96人待ちだったので、同じ著者の作品の中から面白そうなものを手に取りました。
大藪春彦賞(第20回)と 吉川英治文学新人賞(第39回)をW受賞した作品です。
あらすじ
2026年、京都。
シンガポール人の元AI研究者ダニエル・キュイが創設した類人猿研究施設〈KMWP(Kyoto Moon Watchers Project)センター〉に、アフリカから一匹のチンパンジーがやってきた。密猟者に喉を傷つけられ、鳴き声を発することができない彼を、センター内で最も知能が高く思慮深いチンパンジーたちのグループ〈ムーンウォッチャー〉に収容すると、驚くべきことに元からいた者たちにも解けなかった高度なテストをやすやすと突破した。センター長の鈴木望は新入りをエジプト語で鏡を意味する「アンク」と命名し、自身とダニエルの極秘研究〈ミラーリング・エイプ〉の遺伝子の謎を解明する糸口になると期待する。だが、地震による不慮の事故をきっかけに、声を出せないはずのアンクが発した〈警戒音〉が、瞬く間に京都の街を人種国籍を超えて目の前の他人を襲撃し合う悪夢の修羅場に変えていく。
なぜ人間だけが言語や意識を獲得できたのか。どうやって我々は生まれたのか。
災厄を引き起こした「アンク」にその鍵をみた望は、絶対絶命の状況下、たった一人渦中に身を投じる――。
600ページを超す長編ですが、まるでハリウッド映画を見ているようなスペクタクル感で一気に読めます。
引き込まれる理由は
1)父に暴力をふるわれていた望、薬物依存で更生施設にいたケイティ、感情というものがわからなかったダニエルなど、物語に奥行きを持たせる人間描写
2)ついつい信じてしまいそうになる類人猿からヒトへの進化についての仮説
3)巨額を投じてこの研究施設を立ち上げたシンガポール人が世界トップクラスのAI研究者であったという設定
など、まるで本当のことのような筋立てで上手にエンタテインしてくれるからでしょうか。
しばらく「ANK」のイメージが頭から消えそうにありません。
なぜか、類人猿同士、人間同士が殺戮しあうシーンは、韓国映画の「新感染」を彷彿とさせました。