ちょっと前に佐藤優の「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」を読んだ。(今頃・・・)
この本の内容はさておき、この本に川上弘美がよせた”解説”にしびれた。
で、ベストセラーだった時には全く響かなかった川上弘美の「センセイの鞄」を本棚の奥からひっぱり出してきて読んだ。
当時、この物語の空気がさっぱりわからなかったのに、年のせいでしょうか。
今読むと、なんてステキな恋愛小説。
それで、川上弘美という人が余計に気になっていたら目に飛び込んできたのが、川上さんによるこの「リンさんの小さな子」の書評。(2005年この本が出た当時の読売新聞)
「幾つも書評を書いてきたが、小説の流れてゆくさまばかりを、こんなふうに書きたくなるのは、私にとっては生まれて初めてのことだ。ただそれだけの、物語。そして、それ以上、何もつけ加える必要のない物語。私の拙い感想も、説明も、何もいらない、ただゆっくりと文章を追い、たぐいまれな悲しさと美しさを湛えた最後の行までの物語を、あまさず読んでほしい」
こうして私はこの本が世に出てから15年という月日を経てようやくお目にかかりました。
もう、川上弘美の書評通りの内容。何も言うことはありません。
生きるとはこういうこと、なのでしょう。
ただ、この本の原書がフランス語だということを考えると、翻訳者のただならぬ力量を感じずにはいられません。
ところで、この本は、主人公のリン老人が腕に旅行鞄と赤ん坊を抱えて難民船の後部に立っているシーンから始まります。
赤ん坊は生後六週間。
なぜかそのシーンは母の家族が台湾の高雄から乗った引揚げ船を思い起こさせます。
生後二か月の末の弟を伴っての引揚げはまさに生死をかけた航海でした。
アメリカ海軍供与のリバティ型輸送船
上記のような船も引揚げ者で溢れるとこんな感じだったらしい↓(満州からの引揚げ船)
よく沈没しなかったものです。
よく考えると(考えなくても)、外地からの引揚げ者は難民と変わらない。
太平洋戦争が終わって75年。
地球上には当時とほとんど変わらない海の風景がある。
リビア沖をわたる現代の難民 by マッシモ・セスティーニ