もったいないコミュニケーション | 小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

労働エッセイストの松井一恵です。小さい会社には小さい会社にしかできない労務管理の方法があります。
丸17年社会保険労務士として生きてきて、みんなに知ってほしいこと、未来に残したいことを書き残そうと思います。

先日、給食会社の社内で、食材の横領事件がありました。

それが、消えてなくなるのが玉子1個とか、魚の入れ物にはいったしょうゆがいくつかとか、そんなレベルなのです。でも、やり方がまずいんだか、誰がやってるか、バレバレだそうで、周囲の社員も薄々わかっているのだとか。

もちろん不正は不正ですが、懲戒するにもいかがなものか、という微細なレベルの横領・・・ただし、呼び出して、注意をしたら、ま、何らかの懲戒はせざるを得ないでしょう。

そうなれば、その人が職場に居づらくなる・・・人手不足の折に、どうしたものか、というのが相談でした。

 

「まずは、全員に対して朝礼なり、回覧なりで注意をしてみてはどうですか」とアドバイスをしました。

「そうですね、でも、先生、薄々みんな気づいてて、朝礼で言ったら、みんなにばれますよね」

「薄々っていうのがずっと続くほど、嫌な雰囲気はないんじゃないでしょうか。要するに、そっと不正をやめていただければ、不問に付したいと思っておられるんでしょ」

「そうなんですけど、言い方が問題ですよね」

「じゃ、本人をそっと呼んで話しますか」

「そうですね、でも、しらを切られるような気もするんです」

「そうですか、ただ、話してみなければ、しらをきられるかどうか、分かりませんよね。しらを切られるのがかなわんと思われるのなら、対象者を特定せずに、一度、朝礼で全体に伝えたらと、これは先ほどもお伝えしましたね。私は、毎日現場に入っているわけではないので、どちらの方法が効果的なのかわかりません。どうするかは、お任せしますね」

と言って、話を切りました。

 

ちょっときつい言い方ですが、この社長は、私の言うことを聞く気はありません。取りに足らない相談を持ちかけて、私の答えを待ち、「そうですね」と言いながら、返す刀で「でも、」と否定を繰り返します。この人の相談のゴールは、なんでしょう?

食材の横領をなんとかしたいのなら、全体に対してでも、個別に呼んででも、注意をするしかありません。ですので、そのことはおそらく、もう社長の中では決着がついているのです。

じゃ、何のためかっていうと、本人が自覚しているかどうかは別として、「松井を無力にすること」が目的なのです。

私に「どうしたらいいのか、お手上げです。大変なことですね」と言わせて、やり込めたい。なんなら、「どうしていいかわからない~」と一緒に路頭に迷わせて、「すみません」とひれ伏してほしい、ぐらいの下心は見え隠れしてますね。

でも、こういう人って結構まわりにいませんか?

部下の中にも「はい」と言いながら、「でも・・・」「でも・・・」「でも・・・」とできない言い訳をくりかえし、結局全然「はい」じゃないよねっていう人。で、ほぼなんだかんだ言って、やらないね。

 

こういう人には、ある程度話をお聞きして、ガス抜きをしたら、相手に選択させることです。先の社長の例でいうと、「全体に対して注意を促す」か「個別に呼んで注意する」か、「あなたが選んでください」と本人に選択肢を渡してお互いの心の位置を正常な距離まで離します。でないと、この相談は延々続きます。時間がたっぷりあれば、お付き合いしてもいいですが、ビジネスパーソンはそんなにヒマにはできていません。且つ、松井が適正な距離まで下がって離れてあげると、社長は本来向き合うべき問題(食材の横領)とちゃんと一人で向き合うことができるようになります。

放り出すでもなく、べったりと一緒に路頭に迷うわけでもなく、選択肢を提示して、決定権を預けて、ちょうどいい距離を保つこと。これがコツですね。

 

 

もし部下が「でも・・・」「でも・・・」「でも・・・」といいだしたら、「こうするか」「ああするか」「そうするか」の選択肢を示して、「どれにするか、今すぐ決めて」といって、一旦離れましょう。それが、上司と部下、お互いの心の健康のためですよ。