「ひとつは悪いことをしたらきちんと叱ること。もうひとつは。
『お嬢さま、お坊ちゃま』と呼ばないこと、」
美和子はふふっと笑った。
「それは・・」
初音は少し首を傾げた。
「そんな風に呼んで育てると。自分の『下』に誰かがいるって勘違いしてしまうからって。ホクトグループの子息であってもその前にただの人だからって。そう奥様から言われたこと。昨日のことのように覚えています。まあ年の近いご兄妹さんだったのでケンカもありましたけど。みなさんとても素直で真っすぐにお育ちになったんじゃないかと。旦那様は子育てにあまり関われませんでしたがそういう奥様の方針を黙って見守ってらっしゃいましたし。特に真緒さんは末っ子で女の子なので天真爛漫でそのまま大人になったなって。」
全く彼女の言う通りの真緒の人となりのような気がした。
「親からの教えって。口酸っぱく言われなくても身についているものですね。それは。身に染みて感じます、」
初音は何となく母のことを思い出していた。
「ああ、すみません。お急ぎでしたわね。お気をつけて、」
美和子は壁の時計を見て慌てて彼を送り出した。
自分が言ったこと、したことの『先』があることをいつも考えるようにね。
小学生になったころから母にはいつも言われていた。
今になってみれば両親自身が
駆け落ち
という先も何もない、という行動をしているわけで
そこはちょっと納得がいかなかった。
天音が小学生の時にやんちゃが過ぎて同級生を転ばせてケガをさせてしまったことがあった。
もちろん厳しく叱って、一緒に先方に謝りに行って。
その帰り道に天音が鼻歌を歌っていたので
おまえにとってすぐに鼻歌を歌えるくらいのことでもケガをさせられた方はずっとこのことを覚えてる。
謝って自分の気持ちが済んだと思っているかもしれないけれど、それは終わったわけじゃない。
自分のしたことのその『先』を考えろ。
とその場で叱った。
今回の出張でそういう場面が何度もあったな、と初音は思い返していた。
母からいつも言われていたことは身についてはいるけれど
恋愛感情にはあまりあてはめられない、ということを思い知っている。
結果を考えていたら
一歩も進めないっていうことを。
丹波篠山に戻るとこちらも昨日雪が降ったようで、駅前に車を停めていた初音は慌ててチェーンを巻いた。
「足元気いつけ。 久しぶりにこれだけ積もったわ。」
父は家の前の道の雪かきをひとりでしていたようで腰がしんどそうだった。
「遅くなって悪かったな。あとおれやるわ。休んどいて。畑も見てくるし、」
初音は慌てて着替えに部屋に戻った。
日常と
夢がいったりきたりする。
それを繰り返しているうちに少し平衡感覚を失ってゆくような気がして。
それが怖かった。
北都家の話を聞いて母のことを思う初音。何かに縛られている自分がわかっていても・・
↑↑↑↑↑
読んでいただいてありがとうございました。よろしかったらポチお願いします!
で過去のお話を再掲しております。こちらもよろしくお願いします。