Aldebaran(6) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「一回。つらくないの?って聞いたことある。」

 

赤星は再び作業に戻った。

 

「したら。全然つらくないって。初音が一番怖かったのは。家族がバラバラになることやってん、」

 

天音はコーヒーカップをコトっと置いた。

 

「最初は子供二人連れてお母ちゃんと東京の高野家に、って言われて。したらお父ちゃんひとりになるからおれは嫌やってなって。じゃあ小さい天音だけでもってなったら。ここで弟と離れてしまったらほんまにバラバラになってしまうって必死やったんやて。何としてでも3人で暮らして。いつかまたお母ちゃん戻ってきてくれるようにって。そう思ってたんやて、」

 

古い時計の秒針の音と赤星が布地を切る音だけが聴こえる。

 

「初音はおれと違って精神年齢もめっちゃ高かったし。大人っぽくて。いつも達観してるとこあったけど・・。 でも、今大人になってみるとな。離婚した夫婦が元サヤに戻ることなんかほぼほぼないわけよ。しかも丹波と東京に離れたら。余計にない。当時の初音はやっぱり子供で。そこまではわからんかったと思うよ。おれにしてみたらなんで苦労する方選んだんやろって思ったけどー。でも。初音、必死やった。」

 

 

必死

 

 

天音が兄に一度も見たことがない状況だったかもしれない。

 

頭が良くて優しくて。働き者で。

 

でも必死になっている姿は見たことがない。

 

 

「全ては。おまえとお父ちゃんのために。それしか考えてへんかったんよ。結局・・おまえのお父ちゃんとお母ちゃんは生きてきた世界が全く違ってたから悲劇が起きたんであって。初音のトラウマでもあるんやろな。高校の時つきあってた彼女は市議の娘やったから。卒業して彼女が神戸の大学行き始めたころから生き方が違うって思い始めて別れたんやと思うよ。はっきりと言われたわけやないけど。ずっとつきあっていたらいつか結婚とかになる可能性あるわけで。両親の不幸を目の当たりにしてきた初音はそれがたまらなく嫌やったと思う、」

 

その話にはハッとした。

 

見かけも中身も非の打ちどころのない兄が。

 

36になっても結婚の話が全く出ないことはずっと不思議だった。

 

「おまえの兄ちゃんは。あの時こっちで3人で暮らすって自分が決心してから。自分の幸せはもう後回しで。お父ちゃん・・と特にお前だけは好きなことさせて幸せにしてやりたいって思ったと思うよ、」

 

赤星は顔を上げてふっと笑った。

 

少年だった兄の切なる願い。天音が見たことのない兄の姿でした・・

 

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