裁ちばさみでジョキジョキと布を裁断する音が響く。
「おれの母ちゃん。あの高野楽器の社長令嬢て。頭混乱したわ。今も意味わからんわ、」
天音は出してもらったコーヒーに口をつけた。
赤星は黙ったままだった。
なんのリアクションもない彼を見て
「風ちゃん知っとったんや、」
天音は目だけを彼に向けた。
「おまえんトコの親が離婚したって聞いた時。初音から聞いた。さすがの初音も抱えてるのがしんどかったみたい、」
「なんか。腹立ってな。おれだけなんも知らんと。自由に東京行って。高野楽器から調律の仕事来たんもおれの腕が証明された!ってひとり喜んでたんよ。・・でも。ちゃんと兄ちゃんと父ちゃんが手え回してた。おれだけに内緒で。」
「そら。おまえにほんまのこと言いたくなかったんやから。しゃあないやん、」
「おれが成人して。いっくらでも言うタイミングあったやろって。なんでおれだけに言うてくれんかったん?って。おれのこと5歳児と思ってんかって。」
だんだん昨日の気持ちがよみがえって語気が強くなった。
赤星は手を止めて
「おまえは何に怒ってんねん、」
天音を見た。
「は?」
「離婚の時、兄ちゃんがおれだけでも高野の家やってくれてたら。こんな貧乏せんでよかったのに!ってこと?」
赤星は中学に入ったころからいわゆる
ヤンキー
状態で。
金髪にしたりピアスを開けたりバイクを乗り回したりケンカをしたりとこの辺ではなかなかの有名人。
それでも優等生を絵にかいたような初音とはすごく仲が良くて小学生の時からずっと一緒だった。
それが子供ながらに何となく不思議だった。
その頃の彼の口調になったようでちょっとビビった。
「や、そこに怒ってるわけちゃうよ。別に金持ちの家に行きたかったわけでもない。」
少しだけトーンを落とした。
「初音、高校の頃よう遅刻早退してた。畑の手伝いしてお前の面倒見て、家事全般もやって。でも・・めっちゃ勉強もできてな。先生に目つぶってもらえてた部分もあった。でもおれにも一回もグチ言うたことなかった。」
朝日が窓から差し込んできた。
やりきれない気持ちをぶつける天音に風太は当時の初音のことを話します・・
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