そのころ奏は北都邸の練習室で、さくらから借りた神宮寺綾のコンサートのDVDをジッと動かずに見入っていた。
・・すごい。
もう気が付けば瞬きを忘れるほどだった。
とにかくエモーショナルで、彼女が一人で弾いているのにフルオーケストラかのような迫力。
音が多彩で、身体に刺さってくるような衝撃で。
オケとのコンチェルトでも、全く押されることもなく
彼女のヴァイオリンの存在感がすごくて。
おれが。
この人と。
そう思ったら身震いしてしまった。
もうそれが仕事だとか、そんなことよりも
演奏家として自分がこの人と伍していけるのか、ばかりを考えてしまった。
時間はたった2か月。
奏はいてもたってもいられず、ピアノの前に慌てて座った。
「ポスターの直し。 上がってきました、」
有吏は慌てた様子で斯波の前にそのポスターを差し出した。
特別ゲスト 神宮寺綾
新進気鋭のピアニスト 高遠奏とのコラボが実現
奏が急遽出演することになり、彼の写真を挟んだ新たなポスターが上がった。
今までは事業部や北都フィルとは一線を画していた奏だったが、
北都フィルのHPにも写真や履歴が載ることになり、宣材写真を撮ったりもした。
すると。
事業部の方に奏への問い合わせや、HPのコメント欄にも彼関係の書き込みが増えた。
「・・『高遠奏くんのライヴやコンサートの予定はありませんか?』とか『テレビ出演などはありますか?』みたいな問い合わせが数件ですが来てます。」
斯波は志藤に報告をしていた。
「・・結局。 こうなるからなー。 ま、わかってたけど。」
志藤は奏の宣材写真を見ながら大きなため息をついた。
そこらへんの若手イケメン俳優とかアイドルとかにも負けない容姿。
どう考えてもそっちが先行してしまいそうな予感はあった。
「・・彼のお母さんと。 設楽くんには了承を取った。 おれもなー。 今までは『売る』仕事ばっかで。 『売らない』仕事したことないから。 せめて奏がシニアのコンクールでトップ獲るくらいになるまではって思ってたけど。」
志藤はさらにため息をつき爪をパチンパチンと切り始めた。
「でも。 おかげで公演の問い合わせも増えて、スポンサーに名乗り出るところも増えてます。 話題性としては十分です、」
志藤はそういう斯波を見上げ
「おまえも。 ・・管理職らしくなったな。」
つくづく言った。
「は? 皮肉、ですか?」
斯波はムッとした。
「いやいや。 褒めてんの。 それでいい。 それでいいんやけど、」
切った爪をティッシュで包んでごみ箱に捨てた。
いよいよ奏が表舞台に立つときが来ましたが、志藤は複雑な思いで・・
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