「・・でも。 自分が弾きたい曲を弾くのがいいってことも、」
奏が不思議そうに言うと
「うん。 今までコンクールの楽曲については、あたしや志藤さんの意見をもとに奏がやりたいって曲をやってきたりしたけど。 他の人から『やってみなさい』って出された曲の方が完成度が高くなることってあるのよ。 好きな曲だと思い入れが強すぎてこだわりすぎちゃうし、ずーっとやってると逆に好きじゃなくなってしまったりでモチベーションが下がるっていうか。 自分だったら絶対にこの曲は選ばないなって曲をやってみるのも勉強かもしれないよ、」
さくらはいつものように少し早口でまくし立てた。
「ラフマは奏に合ってると思う。 『クロイツェル』はちょっと難しいかもしれないけど、奏ならできるよ、」
その励ましに、神妙に頷いた。
ぜんぜん返事こないなあ・・
ひなたはスマホとにらめっこしたあと、小さくため息をついた。
帰宅して食事を採っていた志藤は、そんな娘に
「奏。 ちょっとでっかい仕事が入った、」
先回りしてそう言った。
「は? 仕事?」
「うん。」
「でも、カナにはまだ仕事はさせないって、パパが・・」
「そのつもりやったけど。 まあ・・そこそこのコンクールで優勝したり、の展開で。 なかなかそうもいかなくなってきたっていうか、」
「な、なんの仕事?」
ひなたは思わず父の隣に移動した。
「北都フィルの公演に、出る。」
志藤は炊き込みご飯をパクついた。
「公演・・? え、どういうこと?」
「まあ説明すると長くなるけど。 有名ヴァイオリニストとの競演と。 ソロでの演奏。 ・・ご指名でな、」
「有名ヴァイオリニストって、」
「さくらちゃんのところで一緒にレッスンしてた、神宮寺って子いたやろ? 彼女のお母さん。 神宮寺綾って・・まあ日本を代表するヴァイオリニスト。 その人から奏と演りたいって言われて。」
「・・・」
すぐに律のことは思い出したものの、彼女の母親がどれだけ大物かはわからず、しかしそんな人からオファーが、と思うとひなたはいきなり心配になった。
「だ、だいじょぶそうなの?」
「・・わからんけど。 もうやらせるしかない。 彼女の演奏は公演の目玉やし。」
「そんなんしたら。 カナ、めっちゃ注目されるじゃん・・」
「かもな、」
「かもなって。 ・・もー、今でさえコンクールのホールとかでファンの人とかいるんだよ? イケメンピアニストで騒がれるじゃん、」
そういうひなたを志藤はジッと見やったあと、思わずケッと言って
「自分の彼氏、イケメンて。 ほんまにもー、のぼせてしまって、」
またごはんをヤケクソのように食べ始めた。
「・・その炊き込みご飯。あたしが作ったんだよ? めっちゃ美味しいでしょ~? ママが作ったと思ったでしょ?」
ひなたは頬杖をついてムッとして指をさした。
どんどん奏が表舞台に出ていくのをひなたは心配そうに・・
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