Prima Stella(10) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

涼太郎が風呂に入りに行っても志藤はピアノの前にずっと座っていた。

 

「あ。 なんかたそがれちゃってますか?」

 

おちょくるようなことを言いながらひなたが入ってきた。

 

「ボーっとしてたの、」

 

志藤はやや口を尖らせた。

 

「涼、だいじょぶそうだね。 よかったね、」

 

ひなたは横に座った。

 

「ん。 まあ・・とにかく。 好きなことは、とことんやってほしいかなって。  親が何をしてほしいとか、どうなってほしいとか。 そういうんやなくて、どんなにくだらなく思えることでも好きなら自分の限界までやってみろって、感じ。」

 

右手でカノンの主旋律を弾き始めた。

 

「あたしも昔ピアノやってたけど。 パパに教わると小言ばっかりで。なんかめんどくさくなっちゃってやめちゃったし。 涼は怒られてもよく続けるよなーって思ってた。 パパはさ、ピアノのプロなんだから絶対厳しいはずだし。 自分の子供教えるレベルじゃないし、」

 

「いや。 下手くそだからって怒ったことはなかったと思うで。 おれは。 ちゃんと練習をしてないと、怒った。」

 

志藤は精一杯の反論をした。

 

「・・カナがね。 涼の発表会を自分のことより優先してくれって、言えないって。 」

 

「え、」

 

音が止まった。

 

「志藤さんがいてくれないとって。 そのことを・・気にしてた。 自分勝手だって。 あたし、カナがパパのことそんなに思ってるなんて思わなかったから、ちょっとびっくりした。」

 

「・・しっかりしてるように見えるけど。 まだ15歳。 この世界に出てまだ日が浅い。 その分さくらちゃんやおれを頼りにしてるところもあるかもしれない、」

 

「ここで。 カナが初めてパパにピアノ弾いて聴かせた時のこと。覚えてる?」

 

ひなたはクスっと笑った。

 

「・・もちろん。 あの日の衝撃だけで、今に至るって言ってもいい。」

 

志藤はそう言ったけれど、それから2年ちょっとで今の奏の姿は想像できなかった。

 

 

そこに志藤の携帯が鳴った。

 

名前を見て少しだけハッとした顔をしてそれに出た。

 

「もしもし。 設楽ですが、」

 

「ああ。 どうも。」

 

「・・明日。 梓と美音とNYに帰ります。」

 

「そうですか、」

 

「奏のこと。 宜しくお願いします、」

 

少し思いつめたようにそう言う彼に

 

「クラシックマスター、出たら送ります。 まあこれでしつこい記者が納得するとは思えないんですが、もうそれが全てなので。 ぼくが用意した原稿も必要ないくらい奏は自分の言葉できちんと応えてましたから。 あとはぼくとさくらちゃんに任せて下さい、」

 

「ありがとう、ございます。」

 

「ナイーブそうに見えて、芯はしっかりしてます。自分の気持ちを曲げることもない。 彼の気持ちが動くことがなければ・・きっと花は、咲くでしょう、」

 

そう言うと少し間を置いて

 

「・・ぼくが。 育てたわけではないので。 梓にそう伝えておきます、」

 

大真面目に返してくる設楽の顔が浮かんでしまい

 

笑いがこみ上げた。

 

設楽から奏を思う気持ちがあふれてきていることを志藤は感じました・・

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