「さ、さくらさん、」
葦切は電話をしてきたのがさくらとわかって、少しだけ驚いていた。
「・・お父さま。 如何なんでしょうか、」
さくらは、『落ち着け』と自分に言い聞かせるように心で唱えた。
「えっ、」
葦切は色んなことが頭を渦巻いてしまってすぐに返事ができなかった。
「南ちゃんにききました。」
「あのっ、すみませんでした。 奏くんのコンクールに行くと言ったのに。 さくらさんからのLINEも、今気づいて・・」
その時さくらの中で何かがブチ切れた。
「そんなことは! どうでもいいんです。 お父さまは、」
少し声を荒げてしまった。
「・・心筋梗塞で倒れたようで。 血管の詰まりを取り除く手術をすることになって。 少し状態が良くなかったので時間がかかってしまいましたが。 何とか命は取り留めました。 たまたま救急車も早く来れて、適切な処置をしてもらったの助かりました、」
葦切は経過を説明した。
「そうですか。 良かった、」
「・・さくらさんに心配をかけてはいけないと思って。 奏くんのコンクールがあるのに、」
「なんでいつもそうやってあたしに気を遣うのですか、」
さくらは彼の言葉を遮るように言った。
「え、」
「その通り。 奏のことに集中したいのに。 耕平さんがまた心配をかけるから! ぜんっぜん集中できないし!」
さくらはどんどん歯止めが利かなくなってきた。
「さくらさん・・・」
「あたしに言いたいこと。 あるでしょう? ずっとこの前から感じてました。 言ってくれないと! わかんないじゃないですか! あ、あたしは・・鈍感なので。 あんまり気も配れないし。 あなたが黙ってしまうと・・わからないんです!」
「・・すみません・・」
葦切は謝るだけでまた黙り込んでしまった。
「お父さま、命に別状なくて何よりでした。 じゃあ、」
さくらはそう言って一方的に電話を切ってしまった。
そして
「はああっ!」
と声に出してため息をついてしまった。
ジャパンピアノコンクールは日本でも権威あるコンクールのひとつで、年齢やグレードに関係なく審査が行われる。
高校1年生が最年少で奏もその一人なのだが
まだ誕生日を迎えていない彼が厳密に言うと最年少だった。
このコンクールの上位入賞3人は12月に行われるドイツのクライン・カネルコンクールに優先出場できる。
さくらは密かにそれを狙っていた。
奏には海外のコンクールでもやれる実力は身についている。
スタートが遅かった分、何とか一気に駆け上って行きたい。
そう思っていたけれど。
他の演奏者のピアノを聴いている時も葦切のことが頭に浮かんでしまって全く集中できていなかった。
すぐに黙ってしまう葦切にさくらは我慢ができずに…
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