設楽は風呂から上がってタオルで髪を拭きながらリビングに入ろうとした。
「え? ううん。 まだそんなに弾かなかった。先生が指ならし程度にしようっていうから。 ・・今日はちょっと小野塚先生と長く話してた、」
奏がテーブルでひなたとスカイプで会話をしていた。
「え? 小野塚先生って。 この前いた人?」
「うん。 そう。」
「なんかちょっと大人なのに子供っぽい人だったよねー、」
「おれもどう接していいのかよくわかんなかったけど。 でもね、話してみるとすごくいい人なんだなーって思った。 ちょっとおしゃべりだけどね、」
奏は笑った。
設楽はその会話を耳にして何だか入っていけなくなってしまった。
「パパもその先生に会ったことあるって言ってたよ。」
「この前志藤さんが来た時にもいたから、」
「ひょっとしてさくら先生の元カレとかじゃないよねーって笑っちゃった、」
設楽はひなたの声が聞こえてどきんとした。
「それは・・ちがうよ。 『友達』だって言ってたけど、」
奏も内心複雑だった。
「でも一緒に会社やるんだもんね。 そうとう信じてないとできないよね、」
「どうしたんですか?」
リビングに入る所に立ち止っていた設楽に梓が声を掛けた。
「え? あ、いや・・」
その会話に奏が気づいた。
「あ、じゃあ。 これから風呂入るわ。 またね、」
慌ててスマホを切った。
「奏はずっと電話してたの? もう遅いのに。 ひなたちゃんも明日学校でしょうに、」
梓は時計を見た。
「ちょっと話が長くなっちゃって・・。 すみません、」
なんとなく設楽に謝ってしまった。
「いや、構わないよ。 高校生なんだからこのくらいの時間なら大丈夫だろう、」
やんわりと奏をかばってくれた。
ミネラルウォーターを飲む設楽を奏はぼんやりと見やってしまった。
もちろん自分には
激しい部分なんか見せない人だけど。
昼間の小野塚の話を思い出してしまった。
何度も別れたくなるくらい、先生とこの人の日々は大変だったんだろうな。
何年も。
この人を支えて。
さっきは自分と母がこの人を救ったと言われて
ホッとしてしまったけれど
いったいこの人にとってさくらはどんな存在だったのか
と想像するとまた胸が痛くなる。
梓は美音を抱っこして寝室に連れて行った。
奏は風呂に入る支度をしてまたリビングに戻ってきた。
映画のDVDを頬杖をついてみている設楽に
「・・小野塚先生は。 設楽さんのスタッフだった人って・・聞きました、」
思わず声を掛けてしまった。
設楽は驚いたように振り返った。
さくらと小野塚しか知らない設楽のための懸命な日々。
奏はそれを想像してまた胸を痛めますが…
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