「え? その人? あたし会ったよ。 この前の藝大のコンサートの時、」
ひなたは風呂上がりの麦茶をごくごく飲んだ後に言った。
「え? 会った?」
志藤は意外な展開に驚いた。
「ウン。 なんか。 カナに必死にピアノの伴奏頼んでた。 誰もやってくれる人がいなくて困ってたみたい。 でもさー、カナがあまりに慎重すぎちゃって、なかなかウンって言わないから。 受けてあげればいいじゃんって言ったの、」
「だってそこで会ったばっかりのヤツやろ?」
「でも。 なんかいい人っぽかったし。」
ひなたはケロっと言った。
「いい人っぽいって・・。 おまえ、世の中いい人ばっかやないで??」
何だか娘が心配になってきた。
「でも。 いい人っぽい顔してたから。 パパ前に言ってたでしょ? 人間、心は顔に出るって、」
そんなこと言ったかなあ・・と思い起こす。
「どんなににこにこしてる人でもさあ・・なーんか、怪しい人っているじゃん? そういうのとは、違ってた。」
ひなたは笑った。
「おまえは笑顔の人間の見分けがつくんかい、」
「つくつく! なんか『予感』? でも結局、その人いい人だったみたいでさー。 カナもまた一緒にやりたいって逆にノリノリになっちゃってて。」
「ふーん・・」
こういうところか何となく自分の血を引いている気がする・・
志藤はそんな風に逆に感心してしまった。
「あー! もう、遅い!」
志藤は時計を見ながらイライラしていた。
「約束は・・4時でしたよね、」
斯波も時計を見た。
「さっき『ちょっと遅れます』ってLINEあったけど。 もう30分以上経ってる!」
「まあまあ。 もうちょっと待ちましょうよ。 てか、今日葦切さんの歓迎会なんやけど、時間だいじょぶかな。」
南は自分の腕時計を見た。
「もう歓迎会とか呑気なこと・・・」
志藤が渋い顔をしたとき、
「・・遅れて、すみません・・」
そおっと瑠依が部屋に入ってきた。
「時間!」
志藤は初対面の彼に思わず説教した。
「す、すんません・・ なんか、バイト延びちゃって、」
「バイト? なにやってんの?」
南が言った。
「あ、牛丼屋です。 深夜の時給がいいんですよ!」
「笑ってないで。 ちょっとここに座って、」
志藤は咳払いをして話を元に戻した。
「で。 石清水くん。 動画できみのパフォーマンス、見せてもらいました。 高遠奏とはなんていうか・・まあ、ちょっとした知り合いで。 興味があって、」
「あ、奏の彼女のお父さんなの。 この人、」
南がまたどうでもいいようなことを付け加えた。
「あ! 藝大で会ったあのカワイイ子ですね! はいはい、似てますよねー。 確かに!」
瑠依は思い出してパッと笑顔になった。
「・・それはいいから。 で。 この動画。 アレンジは・・きみが?」
「はい。 これは・・高3の時に吹奏楽のヤツらと文化祭に出るんでやったやつです。 有志で、」
「ウチで管楽器のアンサンブルを考えてる。 これまで弦楽器のアンサンブルでCDデビューさせた子たちはいたんだけど。 北都フィルの楽団員の若いのと・・組んでみたらどうかなと思って、」
まだるっこしいことが嫌いな斯波は単刀直入にそう言った。
そして瑠依は事業部にやってきました・・
ひなたと奏の出会いはこのへんから→★
奏が北都家に下宿するいきさつからさくらとの出会いはこのへんから→★
お話が長くなっております。よろしかったら読んでやってください・・
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