「なにニヤけてんの? これ、経理に回す書類。 ハンコ押して。」
南が志藤のデスクの前にやってきた。
「え? ・・・ああ、」
志藤は思わず頬を触って、ニヤけていたであろう顔を修正した。
『・・・今日の8時ごろなら・・・。』
自分の押しに負けたのか
怜子はOKしてくれた。
ニヤけずにはいられないではないか。
一瞬ゆうこの顔が浮かんだが
いや
これは立派なお礼だ。
人としておれは当然のことをしてるだけやん!
必死に正当化していた。
「本当に返って申し訳ないです、」
怜子は約束のレストランに来ても恐縮していた。
「いえいえ。 気になさらずに。」
志藤は至極ご満悦であった。
「お子さんは、女の子ですか?」
「ハイ。 まだ2ヶ月になったばっかりで、まだぼくがすることもないんですけど・・・。」
「かわいいでしょうね、ほんと生まれたばかりの赤ちゃんって、」
「そーですね~。 みんな自分にソックリって言ってくれて。 ま、新生児室にいたときからヨソの赤ん坊よりは数段かわいいなって思ったんですけど、」
会話も笑顔で弾んだ。
「デキちゃった結婚だったんで。 ほんと慌しくて。」
ワインに口をつけて志藤は言う。
「え、そうなんですか?」
怜子は少し驚いていた。
「ヨメのお父さんから絶対に結婚式を挙げてもらう!って詰め寄られたんですけど。 ちょうど北都フィルの立ち上げと重なってしまって。 おなかは大きくなるわで・・・結局子供が生まれてからってことになってしまって。」
「そうですかあ・・。 でも親御さんの気持ちを考えると、娘さんの花嫁姿は見たいですよね、」
「まあ・・・罪滅ぼしですかねー。 ほんとびっくりさせたんで。 ・・・知り合ってからどんくらいで結婚までいったと思います?」
志藤はニヤっと笑った。
「え・・・どのくらいなんですか?」
「ぼくが東京にやってきたのは去年の7月。 んで・・・彼女が妊娠3ヶ月に入ってしまって結婚を決めたのが、翌年の1月、ですから。」
それにはさすがに
「は・・・・」
怜子は食事をしていた手を止めてしまった。
志藤はおかしそうに笑って
「めっちゃスゴイでしょ? ほんまジェットコースターに乗ってるみたいやった、」
笑い話のように言った。
しかし怜子は笑うこともせず
「・・・・きっと。 奥さまはもっとびっくりされたでしょうね。」
少ししんみりして言った。
志藤はまんまと怜子と食事に出かけましたが・・・
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