事業部の滑り出しは順調だった。
定期公演を行う準備やオケの楽団員の中からトリオやカルテットを組んで、小さな演奏会を開くプランもあり
5人は忙しく仕事を始めた。
「コレ。 誕生日のプレゼント。」
泉川は彼女とレストランで食事をしている最中、スーツのポケットから小さな箱を取り出した。
「え・・・」
少し驚いたように彼女はそれを受け取る。
小さなサファイアのついたデザインリングだった。
「・・・指輪、」
「似合うと思って。」
ニッコリ笑ってタバコを取り出して火をつけた。
しかし
彼女はその指輪の箱をパタンと閉じて
「・・・もう・・・あなたと別れたいの、」
いきなり
本当にいきなり
そう告げられた。
「は・・・・????」
手にしたタバコを落としそうになった。
「んじゃあ。 今度の休みに行ってみない? けっこういいらしいよ。」
「え~~~、でも~~。 泉川さん彼女いるじゃないですかあ、」
朝から
泉川が受付の女の子をナンパ中なところに出くわした志藤は
小さなため息をついてその後ろを通り過ぎようとした。
「彼女? ああ、もう別れたから。 カンケーないし、」
そこだけが聞こえてしまった。
思わずふっと彼のほうを見ると、受付嬢が志藤に気づいて泉川に目配せをした。
「え?」
振り返ると志藤がいたので、
「あ、おはよーございます!」
いつもと変わらず元気にそう言って
「あそっか。今朝、ミーティングでしたよね。 志藤さんが早い時は。」
いつもと変わらずKYな冗談も言い一緒に歩き出した。
「・・・口説き中だったみたいだけど。 いいの?」
チラっと軽蔑したような目で言うと
「は? やだな~~。 別に口説いてなんかいないですよ。 ホラ今度品川に新しい水族館ができたってゆーから。 おれ結構水族館って好きだから。 でも一人で行ってもつまんないし。 彼女も水族館好きって言うから、」
そんな説明は特にいらないのだが。
彼はいつものように明るかった。
モテ男なのかと思いきや、実際は・・・
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