8月になり
萌香は産休に入った。
彼女が復職を強く望んだこともあり、志藤の秘書は他の秘書課の女子社員が交代で務めることにして彼女の帰りを待つ。
そして。
「どう? 準備進んでる?」
南は夏希に声をかけた。
「はあ? なんの?」
相変わらずのほほんとしていた。
「なんのって・・・。 結婚式に決まってるやんか! あと1ヶ月くらいやんか、」
ちょっとイラつきながら言った。
「あ、結婚式ですか・・・。 えっと、それは隆ちゃんのお母さんに任せてあるんで。 あたしあんまわかんないんですけど、」
本当に興味がなさそうに言った。
「自分の結婚式やん。 そんなんでええの? で、ウエディングドレス? それとも白無垢?」
南はさらに身を乗り出した。
「あたしがヅラなんか被ったらめっちゃデカ女になっちゃうじゃないですか・・。 隆ちゃんのお母さんも、『それは避けたいわね。』とかゆーから、」
それに大笑いをして
「避けたいって・・・。 へえ、けっこううまくやってるんや。 高宮の両親と、」
と言うと、
「うまくいってるかって言われると。 ホント行くたんびにあたしが怒られてるんですけど、」
夏希はトホホな顔になった。
「怒られるって?」
「お茶出しとかさせられても、ザツだとか。 もっとちゃんと食器を洗ったらどーなの、とか。 あたしテキトーだから、なんか我慢できないみたいで。 まあ、でも先輩からダメ出しされてる気持ちで返事だけは大声でしてます。」
「も~~、なんか目に浮かぶし。 でっかい声出したりしてるの、」
南はさらに笑った。
「それも声がうるさいとか言われたりするんですけど、」
夏希と高宮の挙式も、もうすぐだった。
二人は春から一緒に暮らすようになり、少しは夫婦っぽい感じになったかと言うと
「夏希! またトイレの電気がつけっぱなしだよ!」
「あ? あれ? 消さなかったかな?」
「この前も風呂の電気つけっぱで寝ちゃうし・・・。 こんなんしてたら電気代のムダだ! 夏希がいつもお金がなくて困ってたのも、こーゆーことばっかりしてるから・・・」
高宮は性格的にものすごく細かくて、何においてもどんぶり勘定の夏希の構わなさがどうにも我慢できなくなることもあるようだった。
「なんか男なのにほんっと細かいんですよ・・・。 正直、隆ちゃんのお母さんよりうるさいっつーか、」
夏希は思わずこぼした。
「高宮はさあ、職業病ちゃうのん?」
「職業病?」
「社長秘書なんか。 めっちゃ細かいトコまで目が行き届かないとやってられへんねんで。 しかも高宮はアメリカ生活長かったから合理的な考えやし。 無駄なことは大っきらいやし。 社長にだって意見もするしね。」
「社長もけっこうウンザリなんじゃないですかあ? 一緒に暮らすようになると、今までと同じことで注意されてても追いつめられるってゆーか。 あたしが散らかすからそれぞれ自分の部屋を持つってことになったのに、こっちの部屋が汚いことまで文句言うんですよ・・。 んで家計は全部隆ちゃんがやってて。 あたしはおこづかいもらってるだけで。 どーなってるのかも全然わかんない、」
「ハハ・・・ほんまにお父さんと娘やなあ・・・。 早くも倦怠期に入っちゃったみたいに・・・情けないねえ、」
南は苦笑いをした。
「一緒に生活するって大変ですね、」
夏希はつくづく言ってため息をついた。
さてさてpartⅥの始まりです。
落ち着きを取り戻した事業部でしたが、夏希の結婚準備や萌香の出産準備と、けっこう忙しい感じで始まりました。
最初はなだらかな雰囲気でスタートです。
今回もよろしくお願いします!!
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