Only one love(7) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「留学とか。 考えないの?」

グラスに口をつけた後、結城は言った。


「留学は・・。 具体的にはあまり考えてないですけど、」

茜も赤ワインを少しだけ飲んだ。



普段はほとんど酒を飲まないので

そのアルコール感にちょっとむせそうだった。



「もったいないな。 もっともっと技術を磨けばすごい演奏家になるかもしれないのに、」


「でも・・まだ北都フィルに入って1年だし。 こうして売り出していただけるだけで幸せです。」


「もっと欲を持たなくちゃ。 こんな日本の小さなオケで満足していたら、世界が見えてこないよ。」

結城はふっと笑った。




自分がいる部署なのに

『こんな』

と言う彼に

茜は不思議そうな顔をした。




「ぼくはきみはここを出て世界に行くべきだと思うけど。」



あっさりと

留学を勧めて。



「・・あたしはまだまだです。」

戸惑いながら言うと、結城は笑って



「でも。 コンサートまでやるんだろ? まだまだな人間ができることじゃないよ。 もし会社がきみの容姿だけで売り出そうとしているんだったら、未来はない。」



ドキンとした。



「ほんとは・・・ずっと不安だったんです、」




茜はポツリと言った。


「え、」


「あたしなんかがソロでコンサートを開いたりしていいんだろうかって・・・。 佐田さんのほうがあたしより巧いし・・ヴァイオリン以外で会社があたしを売り出そうとしているんじゃないかって・・」

茜は今までの迷いを一気に口にした。



ワインで少し頭がぼうっとしてきた。



「自信が・・ないんです、」




泣きそうになりながら言う彼女に




「きみは佐田さんよりも・・ずっと可能性があるよ。」



結城は言った。



「え?」



「会社だってバカじゃないから。 きみの顔だけで売り出そうだなんて無謀なことはしないよ。 きみのその伸び伸びとした新鮮な音を買っている。 佐田さんは巧いけど、巧いだけのヴァイオリニストだ。 ソリストはそれ以上のプラスアルファが必要だ。 きみにはそれがある。」

意外な言葉を言われて



「・・結城さん、」

茜は驚いたように彼を見た。



「もっと自信を持ちなさい。 きみはもっともっとやれる。」




真剣な彼の目に

また

体中の力が抜けていくような感覚に襲われた。


もう

顔に全身の血液が集まってくるように

熱くなって。



彼女の自宅近くまでタクシーで送った。




「じゃあ。 がんばってね、」

窓から顔を出して結城はニッコリと笑った。


「はい・・。 ごちそうさまでした、」

茜はペコっと頭を下げた。



去ってゆく車を見送りながら

茜ははっきりと自分の結城への恋心を確信していた。



家に帰って

自室のベッドにどっと倒れこむようにして。

ぼーっとした。



もっと

彼のことを知りたい・・。



笑顔を見ても

それが本当の彼なのかわからなくて。


大人で

全てをわかっているかのように

上から見ていてくれて。



あたしの気持ちは

あの人に持っていかれたままだ・・・。



タクシーの中で結城は電話の着信音を聞いた。



『佐田麗子』

の名前がウインドウに映し出される。



それを見て黙って保留ボタンを押した。



結城に励まされた茜はもう胸がいっぱいで・・



人気ブログランキングへ 左矢印 お気に召しましたらポチっ!わんわん お願いします!


人気ブログランキングへ 左矢印 携帯の方はコチラからお願いしますドキドキ
My sweet home ~恋のカタチ。