「虎に翼」 第39回
第８週「女冥利に尽きる？」
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轟） 佐田、これから男たちは
どんどん兵隊に取られていく。
お前の仕事がもっと増えて
いくぞ。
寅子） ええ、そうね。
（寅子の顔が曇る）
轟） じゃあ、また会おう。
よね） なあ。
寅子） ん？
よね） 私も、やれるだけの
ことはするから。
寅子） よねさん？
よね） お前は一人じゃない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜事務所＞
よね） 戻りました。
穂高） おう、山田君も。
よね） お久しぶりです。
寅子） 先生。
雲野） 佐田君、君、講演会で
倒れたんだって？
岩居） 何で黙っていたんだい？
寅子） 申し訳ありません。
穂高） いや、佐田君、先日は、
すまないことをした。
寅子） 穂高先生、私まだ
あのこと皆さんには･･･。
雲野） ご懐妊のことなら、
もう聞いた。
よね） はっ？
雲野） 何だ、山田君にも
話してなかったのか。
岩居） バカだな。無理して子供
に何かあったらどうする？
寅子） すいません。
雲野） 君の仕事は、
私と岩居君で引き継ごう。
岩居） ご婦人の弁護士がここに
来ると分かった時から、こうなる
日が来ることは予想していたよ。
雲野） 佐田君、弁護士の仕事を
休んで、子育てに専念することも、
大事なことなんじゃないのかな。
穂高） 私もそう思うんだ。もう弁護
士の資格は持っているのだから、
仕事への復帰は、いつだって
できるんじゃないのかね。
寅子） そうですか。
ありがとうございます。
（こみ上げる怒りをこらえ、
出て行くよね）
もう先頭に立って、全てを
抱えなくてもいいのか。
寅子は、去っていくよねを、
見ることができませんでした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（夕暮れ近くの上野）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜カフェー燈台＞
増野） いらっしゃい。
あれ、君は･･･。
寅子） よねさんと、
大学の同窓の･･･。
増野） そうだったそうだった。
このご時世、不真面目な商売は
あがったりでさ。軍歌のレコード
かけて、喫茶と、街のよろず法
律相談で、もう細々と、生きてる
ってわけ。
寅子） そうだったんですか。
よね） これでよし。委任状も書い
てもらったし、私が代わりに出し
とくから。
女性） 何から何まで･･･
ありがとね、よねちゃん。
増野） ありがとうございます。
寅子） よねさん。
よね） 何だ。
寅子） さっき、いつの間にか
帰ってしまってたから。
よね） 私は忙しいんだ。
寅子） 怒ってるわよね。
増野） 僕は、いない方が
よさそうだね。
（奥へ行く増野）
寅子） 黙っていたことは謝る。
ごめんなさい。
（背を向けたままのよね）
寅子） 無責任だって
言いたいんでしょ？
よね） 勝手に使命感に燃えて、
「やめていった仲間の思いを」だ
なんて、くだらないと思っていた。
別に結婚したけりゃすればいい。
子供が産みたきゃ産めばいい。
勝手にしろ。いちいち悲劇の
ヒロインぶりやがって。
寅子） 悲劇のって、
私そんなつもりじゃ･･･。
よね） 自分一人が背負ってやって
るって顔して恩着せがましいくせ
に、ちょっと男どもに優しくされた
らほっとした顔しやがって！
（寅子を見据えるよね）
よね） お前には男に守ってもらう、
そっちの道がお似合いだよ。
寅子） じゃあ、私はどうすれば
よかったの？
（背を向けるよね）
よね） 知るか。
（瞳が揺れ、唇が震える）
よね） 心配ご無用、女の弁護士は
必ずまた生まれる。だから･･･こっ
ちの道には二度と戻ってくんな。
（涙のあふれる目で、
よねの背中を見据える寅子）
寅子） 言われなくてもそのつもりよ。
（一点を見据え、動かないよね）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
はる） お帰りなさい、寅子。
着替えて手伝ってちょうだい。
寅子） お母さん。
はる） ん？
寅子） 今日、法律事務所に、
辞表を出してきました。
（包丁の動きが止まるはる）
寅子） ごめんなさい。
お母さんが言っていたとおり、
歩いても歩いても、
地獄でしかなくて･･･。
私なりに頑張りました。
けれども･･･降参です。
（小さく微笑む寅子）
はる） そう。
着替えてらっしゃい。
寅子） はい。
（包丁を動かすはる）
はる） はあ･･･。
（涙をこらえるはる）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（押し入れから箱を取り出す寅子）
（法律関係の本やノートを
箱の中にしまう寅子）
（机の上に、六法全書）
（手に取った瞬間、涙が
ポロポロとこぼれる）
（震える両手で六法全書を掴む）
（箱の縁で手が止まる）
（箱の中に入れる）
こうして、
寅子の地獄の日々は、
幕を下ろしました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（初夏の夕暮れの光が差し込む
女子部の教室で、寅子からの
手紙を読む穂高）
（静かに顔を上げる）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（「十月二十五日から学徒の検査
開始、十二月一日に入営」の記事）
直言） トラ、新聞、ここ置いとくぞ。
寅子） 私はもういいの。
地獄から、一歩外に出ると、
淡々と、静かな平穏が
待っていました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（大きなお腹に耳を当てた優三）
優三） 動いた。ハハハハ。
寅子） フフフフ。
優三） お父さんですよ～。
寅子が仕事を辞めた
ことについて、優三は
何も言いません。
優三） 早く出てこ～い。
ラジオ） 「昨日東京の神宮外苑
競技場で、出陣学徒の壮行会
が行われました」。
寅子） 最近直明からの便りが
ちっともないのよ。
花江） 便りがないのはいい
知らせ。きっと岡山でお勉強
頑張ってるんじゃないかしら。
（繕いものをする二人）
寅子） お兄ちゃんは？
便りはあった？
花江） うん。でも何だか直道さん
らしくない文面でつまんない。
寅子） フフフ･･･。あんまり、
はしゃいだことは書けないのよ。
花江） そうなの？
寅子） フフフフ。
花江） 何だか女学校時代
思い出すわね。
寅子） そうね。
花江） トラちゃんは相変わらず、
お裁縫は、あれね。
（笑い声）
寅子） ええ、どうせあれですよ。
（笑い声）
花江） こんなこと言っちゃ駄目
なんだけどね･･･。トラちゃんが
家にいてくれてうれしい。時々、
直道さんがいないことが、さみ
しくて涙が出ちゃうの。いけな
いわね。お国のために働いて
くださってるのに。
寅子） これから私がいるから。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
昭和十九（1944）年・春
寅子たちは、戦争の影響で、
家の地所を軍に引き渡す
ことになりました。
空襲に備えて、
道路を広げるためです。
寅子） なくなっちゃうのね。
家も、この景色も、全部。
直言） よし、じゃあ、最後に、
みんなで、写真でも撮ろうか。
優三） いいですね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
山根） ご隠居さん、ご隠居さん、
ほら、写真撮るんだって。
ご隠居さん、家族みんなで･･･。
男性） はい、いきますよ～。
（猪爪家の写真を撮るご隠居）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
寅子） ♪「大きくて立派なは
ママ うちのパパとうちの
ママとけんかして」
（赤ん坊をおんぶして、多摩川
の河原を散歩する寅子）
寅子） うい～。
気持ちいいね、優未（ゆみ）。
寅子と優三の娘です。
未年に生まれたので、
優三の「優」の字をとって、
優未と名付けられました。
優三） トラちゃん！
トラちゃんにお客さん。
優未） （泣き声）
寅子） ハハハ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
超簡単感想で♪
穂高先生に先手を打たれてしまう
寅子。悪気はないんだろうけど･･･。
じゃあ、私はどうすれば
よかったの？
どうすればよかったのか･･･。一体
どうすることが、できただろうか･･･。
今も、答えがでない、難しい問いだ。
スーパーマンにはなれないから･･･
やれることをやる･･･しか･ないよね。
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