「虎に翼」 第38回
第８週「女冥利に尽きる？」
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ラジオ） 「前線にて壮烈なる戦死
を遂げられた、山本五十六、海軍
元帥国葬の儀は、本6月5日、帝
都において、厳粛に執り行われま
した。国葬の儀はまず霊柩の安
置された･･･」。
（台所にはる）
はる） 花江さん？
（花江の手に、薄桃色の紙）
ラジオ） 「芝水交社での柩前祭の
儀によって始められ、次いで午前
8時30分、霊社発引の儀に移り、
午前8時50分、海軍軍楽隊の奏
する『命を捨てて』の楽の音と共
に、霊柩を載せた砲車と、前後1
キロメートルに及ぶ長い葬列は、
静かに水交社を発引、沿道にた
たずむ･･･」。
（すりこぎを置き、
花江を抱き締めるはる）
（花江の顔が歪む）
花江） （泣）
お義母さん･･･。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（食卓を囲んだ一同）
直道の、出征が決まりました。
直言） こんなごちそうは
久しぶりだな。
はる） フフフフ。
直道） お母さん、
無理したんじゃないの？
はる） そんなことあなたは
気にしなくていいの。
（小さく笑い、酒を飲む直道）
直道） 俺には分かる･･･。
日本は、この戦争に勝って、
子供たちにとって、もっともっと、
いい国になっていくって。
花江） ええ。立派に
戦っていらしてね。
直道） 直人、直治。
あれ歌ってくれよ。
2人） はい！
♪「万朶（ばんだ）の桜か
襟の色 花は芳野に嵐吹く」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜入隊の日＞
直道） 俺には分かる。お前
が元気な男の子を産むと。
寅子） お兄ちゃんがそう
言うなら、女の子だね。
優三） うん。
直道） 直人、直治。
お母さん頼んだよ。
2人） はい。
直道） 花江ちゃん。
（直道に抱きつく花江）
老人） お･･･おい！
君たち人前で！
山根） 好きにさせて
あげなさいよ。
直道） 俺、寝られるかな、
花江ちゃんが隣にいなくて。
花江） 大好きよ、直道さん。
絶対帰ってきてね。
（花江を抱き締め頷く直道）
（2人を見ることができない直言）
（涙をこらえている寅子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（寅子の机は、
書類と資料と手紙の山）
雲野） あっ、そうだ佐田君。
寅子） はい。
雲野） 君に講演会の
依頼が来てるぞ。
寅子） 講演会ですか？
雲野） 君の母校の明律大学で。
穂高先生じきじきのご指名だ。
寅子） ありがとうございます。
頑張ります。
雲野） うん！ ハハハハ。
（拍手）
常盤） おめでとう。
寅子） ありがとうございます。
常盤） すごいですね。
雲野） すごいよな。母校でだよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（講演会の準備が進む中、控え
室として用意された教室で、
原稿を書いている寅子）
（廊下を行く女子部の学生たち）
（仲間と過ごした教室を
見回す寅子）
もう私しかいないんだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（廊下を歩く寅子）
もう私しかいないんだ。
もう、私･･･。
穂高） おお、佐田君。
寅子） 先生。桂場さんまで。
穂高） 今日たまたま講義を
お願いしていてね。せっか
くだから、見ていきなさいと
誘ったんだよ。
桂場） すごい顔してるいるぞ。
寅子） あっ、
ここのところ寝不足で。
桂場） そうじゃない。
怒りが染みついている。
寅子） ご心配なく。
少し疲れてるだけですから。
穂高） じゃあ、行こうか。
（倒れる寅子）
桂場） おい。
穂高） 佐田君？
桂場） おい！ おい！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜医務室＞
穂高） 目が覚めたかね？
寅子） えっ、私･･･。
穂高） もう少し寝ていなさい。
寅子） 講演会は。
穂高） 案ずることはない。
私と桂場君とで、
無事済ませたよ。
寅子） 申し訳ありません、
ご迷惑をおかけして。
穂高） お医者様は、貧血じゃ
ないかと言っていたんだが。
寅子） 先生、私は、どうすれば
いいのでしょうか。
穂高） ん？
寅子） 実は私、子供を、授かりま
して。でもまさか。久保田先輩も
中山先輩もおやめになるだなんて、
思いもしなくて･･･。本当は、つらく
てつらくてたまらないんです。でも、
私がここで頑張らないと、やめて
いった仲間の分もと、思ってはい
るのですが。
穂高） 君、それは仕事なんか
している場合じゃないだろ。
寅子） はて？
穂高） 結婚した以上、
君の第一の務めは何だね？
子を産み、よき母になることじゃ
ないのかね？
寅子） あ･･･お言葉ですが、先生、
私が今ここで立ち止まれば、婦
人たちが法曹界に携わる道が途
絶えることになってしまいます。
違いますか？
穂高） うん、そうだね。
寅子） だから私、せめて、出産
ギリギリまでは働きたいんです。
出産後も、なるべく早く復帰して、
世の中を変えるべく、法廷に立ち
たいんです。
穂高） いやいや、世の中そう簡単
には変わらんよ。「雨垂れ、石を
穿つ」だよ佐田君。君の犠牲は、
決して無駄にはならない。
寅子） つまり先生は･･･私は、
石を砕けない、雨垂れの一粒
でしかない。無念のまま、
消えていくしかない･･･。
そうお考えですか？
穂高） 人には、その時代時代ごと
の天命というものがあってだね･･･。
寅子） こうなることが分かっていて、
私を女子部に誘ったのですか？
私たちに、世の中を変える力が
あると、信じてくださったのでは
ないのですか？
穂高） だからだね、また、君の
次の世代が、きっと活躍を･･･。
寅子） 私は、
今「私の話」をしてるんです！
穂高） 落ち着かないか。あまり
大きな声を出すと、おなかの中
の赤ん坊が驚いてしまうよ。
戸田子） ハッ･･･。何じゃそりゃ。
（ベッドから下りる寅子）
穂高） 佐田君？
寅子） 家族が、心配しますので、
これで失礼します。ご迷惑を
おかけしました。失礼します。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（廊下に桂場）
（立ち去る寅子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜・夫婦の部屋＞
優三） トラちゃんただいま。
遅くなったね。
寅子） お帰りなさい。
あっ、これ、事務所で頂いたの。
（小さな缶の中にアメ玉）
寅子） 2人でこっそり
頂いちゃいましょう。
優三） うん。
寅子） ありがとう。
2人） 頂きます。
（一粒ずつ口に入れる）
（笑い声）
この人と、
ただ穏やかに
毎日を過ごせたら、
どんなにいいか。
何で私だけ･･･
私だけ･･･。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（噴水の止まった、昼休みの公園）
（寅子とよねと轟）
轟） 赤紙が来た。
よね） 今、何て？
轟） だから赤紙だ。
法曹の道を究めたいところだが、
致し方ない。佐賀に帰る。
寅子） おめでとうございます。
轟） ありがとう。
よね） 死ぬなよ、轟。
轟） フンッ、
俺を誰だと思ってるんだ。
佐田、これから男たちはどん
どん兵隊に取られていく。
お前の仕事がもっと増えて
いくぞ。
寅子） ええ、そうね。
（寅子を見るよね）
轟） じゃあ、また会おう。
寅子） また必ず！
（轟を目で追う寅子）
よね） なあ。
寅子） ん？
よね） 私も、やれるだけの
ことはするから。
寅子） よねさん？
よね） お前は一人じゃない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜事務所＞
よね） 戻りました。
穂高） おう、山田君も。
よね） お久しぶりです。
寅子） 先生。
雲野） 佐田君、君、講演会で
倒れたんだって？
岩居） 何で黙っていたんだい？
寅子） 申し訳ありません。
雲野） 穂高先生、じきじきに
おわびに来てくださったんだよ。
穂高） いや、佐田君、先日は、
すまないことをした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
超簡単感想で♪
もう私しかいないんだ。私しか･･･。
どんどん自分を追い込んでゆく寅子。
分かるよ、分かるけど･･･落ち着け！
穂高先生への怒りも分かる。分かる
けど･･･落ち着け！ すべてに白黒つ
けられるわけじゃ、ないからねえ･･･。
「世の中はだいたいグレー」草彅剛
の名言を寅子に送ってあげたいよｗ
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