「カムカムエヴリバディ」 第8回
第2週「1939-1941」
そねんちせえかばん一つで、
配達もねえじゃろう
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ラジオ) 「政府は、首相官邸で、第14回、
総動員審議会を開き、生活必需品の
統制などに関する、6つの勅令案を諮
問することを、決定しました」。
安子) あっ、お父さん、なあ、今日
おはぎもあんころ餅もこれでおしまい?
えろう少ねんと違う?
金太) 安子。おめえ、見合いせえ。
安子) へっ?
**********
<橘家>
金太) うちと、取り引きしょおる、
砂糖の生産会社の次男さんじゃ。
おめえも年が明けりゃあ16じゃ。
ええ頃合いじゃろう。
安子) ごめんなさい。
あんまり急で・・・。
杵太郎) 安子。はっきり言うて
こりゃあ政略結婚じゃあ。
金太) なっ、お・・・親父!
何ゅう人聞きのわりいこと。
杵太郎) このままじゃ思うような菓子
が作れん。そねんなる前に、砂糖の
会社と手ぇ結んどこいう、魂胆じゃ。
金太) 魂胆言うな。
ひさ) まあ、金太と小しずさんだって、
似たようなもんじゃった。
安子) えっ?
ひさ) 小しずさんは、小豆農家の娘さん
でなあ。このとおりべっぴんさんじゃし、
気も利くし、こりゃあええわいと、おじい
ちゃんが金太に勧めたんじゃ。
杵太郎) こいつも初みゃあ、誰が見合い
なんかするか~言ようったけど、会わせ
てみたら、まあ一目で、ポ~ッとなってし
もうて。
金太) い・・・い・・・今そねえな話ゃあ、
ええじゃろうが!
ひさ) ちなみに、おじいちゃんと
おばあちゃんは恋愛結婚じゃ。
杵太郎) うん!
金太) その話もいらん!
安子! ええかよう聞け!
おめえは、かわいい一人娘じゃ。
なんぼ、店のためじゃ言うても、
しょうもねえ男にやる気ゃあねえ!
お人柄は、申し分ねえ。こんな人が
婿に来てくれておめえと店を2人で
もり立ててくれたら、こねん頼もしい
こたあねえ! のう、小しず。のう!
小しず) いや・・・。
(写真を突き出す金太)
**********
(店番に戻る安子)
小しず) ごめんな・・・。
急にあねえなことになってしもうて。
安子) ううん。
小しず) 安子。おねげえじゃから、
無理ゃあせんといてちょうでえよ。
みんな安子に幸せになってもれえ
てえ思ようる。じゃけど、何が安子
の幸せなんかは、安子にしか分か
らんのじゃからな。
安子) うん。
**********
(月明かりの窓辺で、
安子が英語の辞書を見ている)
(裏表紙に、
「雉真稔」と名前が書いてある)
(その手書きの文字を見つめる安子)
**********
ラジオ) 「『基礎英語講座』の時間です。
講師の堀英四郎です」。
小しず) 安子~。
ラジオ始まっとるよ。入るよ?
(部屋に安子がいない)
小しず) 安子・・・。
(机に置き手紙)
(「かならず今日中に帰ります 心配しな
いでください 安子」と書かれた便せん)
**********
<水田屋豆腐店>
小しず) お見合いのこたあ無理ゅうせ
んでもええ言うたんよ。安子の幸せが
一番なんじゃから言うて。
きぬ) あのじゃなあ、おばちゃん。
そねえなん、余計安子ちゃん
追い詰めるだけじゃが。
大丈夫じゃ。夜にゃあちゃんと
帰ってくらあ。
小しず) きぬちゃん。
雉真稔さんいう人のとこ?
きぬ) 何じゃ、知っとったんかな。
小しず) その人んとけえ行ったん
かな? 大阪の。
きぬ) 多分・・・。
**********
<汽車の中>
(小さな手提げを膝に置き、安子が
思い詰めた顔で座っている)
**********
(小さな駅舎を出る安子)
(手紙の住所を見ながら、
キョロキョロ歩き出す安子)
**********
子供) いろはにほへと 、ちりぬ!
子供) ぬすと!
子供) 待て~!
(路地を進む安子)
(「おぐら荘」の看板を見つける)
(入り口脇に下宿人の表札が並んでいる)
くま) 誰や? あ~もう、また鈴木君の
女友達かいな、もう。しゃあないな、
あの子は取っ替え引っ替え。もう。
あのな、悪いこと言わへん。
やめときて。
安子) あ・・・あの・・・。
くま) そやけどあんた、鈴木君の好み
にしたらまた・・・ええ? 地味やなこれ。
それにまた、顔がおぼこいなあ。
あっそうか。あの気ぃのきっつい女に
ひっかかれて、顔にばんそうこう貼ん
のん懲りたんや。フッフッフッフッ。
稔) ただいま帰りました。
くま) お帰り。
稔) 安子ちゃん?
(お辞儀をする安子)
くま) ええっ!
雉真君の女友達やったん?
い~やっ珍しや。
稔) はあ・・・。
くま) いや~でもよかったわあ。
あんたはあんたで勉強ばっかり
してるやろ。もう私・・・。
**********
<稔の部屋>
稔) どねんしたん? 急に。
安子) 配達で・・・。
稔) 配達?
安子) 商店街の、えっと・・・荒物屋の清
子さんの親戚がこっちで結婚されて。
紅白まんじゅうを届けるように頼まれ
たんです。ハハッ、せっかくじゃから、
稔さんの住んどる町見てみとうて。
稔) そう。何にもねえとこじゃろ。
安子) あ・・・お手紙に書いてあったとおり。
ヘヘヘッ。しゃあけど、稔さんには会えん
と思うてました。
稔) ああ、今日は午後の授業はねんじゃ。
安子) そうですか。よかった。
稔) 何時の汽車で帰るん?
安子) 夕方・・・5時半ごろのつもりです。
稔) ああ・・・。
**********
<映画館>
剣之介) 「暗闇でしか、見えぬものがある。
暗闇でしか、聴こえぬ歌がある」。
(拍手)
人々) (口々に)モモケン!
剣之介) 「黍之丞(きびのじょう)、見参!」。
(拍手)
(鮮やかな刀裁きで悪を倒す、桃山剣之介)
(拍手と歓声)
(スクリーンに向かい拍手をしながら、
そっと稔を見る安子)
**********
(向かい合い、ラーメンを食べる2人)
稔) よかったよ。
やっと映画の約束が果たせて。
安子) フフフッ、はい。
モモケン勇ましかったですねえ。
稔) なあ、本当によかったんかな。
こんな学生用の食堂で。
安子) 稔さんがふだん行きょおる
場所がええんです。
(安子の様子が気になる稔)
安子) う~ん、フフフッ、おいしい!
**********
(土手を歩く2人)
安子) わあ・・・
本当に似とるなあ、旭川に。
稔) そうじゃろ。
(息を吸い込む安子)
安子) あっ、本当じゃあ。
潮の香りがする。
It smells like the ocean.
稔) おっ!
安子) フフフッ、
「基礎英語講座」で覚えました。
稔) 本当に毎日聴きょうるんじゃな。
(マントを脱ぎ、安子の肩にかける稔)
稔) 日が暮れたらさみいよ。
(穏やかに流れる茜色の川)
稔) Sunset.
A beautiful sunset.
Do you see that beautiful sunset?
安子) Yes, I do. I see a beautiful
sunset over the river.
(夕日を見つめる安子と稔)
**********
(明かりの灯る駅舎に2人がやってくる)
稔) じゃあ、気を付けて帰ってね。
(頷き、マントを脱ぐ安子)
安子) あっ・・・。
稔) ああ、着て行って。
それじゃあ、またね。
安子) はい。ありがとうございました。
(微笑み、改札口に向かう安子)
(目で追う稔)
**********
<汽車の中>
(席に着く安子)
(汽笛)
(汽車の走行音)
(一点を見つめた安子の顔が、
かすかに歪み、涙がこぼれる)
安子) (すすり泣き)
**********
駅員) 岡山、岡山。
(俯いたまま、
席から立ち上がらない安子)
安子) (すすり泣き)
(人が近づく)
安子) すんません、すぐ降ります。
(立ち上がり、顔を上げる安子)
安子) 何で・・・?
稔) そねんちせえ、かばん一つで、
配達もねえじゃろう。
何で泣いてるん? 安子ちゃん。
何があったん?
安子) (泣)
**********
砂糖の生産会社の次男坊とのお見合い・・・。
うん、おじいちゃんの言う通り・・・まぎれもなく
政略結婚だねw 小しずさんは小豆農家の娘
で、おじいちゃんが仕組んだ政略結婚だった
と。とはいえ、金太は小しずさんに一目ぼれ。
おじいちゃんとおばあちゃんは恋愛結婚だっ
たと自慢するオチを持ってくるあたり・・・橘家
の多様性を感じさせるエピソード。和菓子屋
としては、小豆と砂糖が確保されれば安泰よ
ね。入り口は政略結婚でも、幸せな結婚はあ
るし、すべては、結果オーライともいえるしね。
たちばなのお菓子も、お店も大好きな安子が、
たちばなの未来を考えた時に、小さい頃自ら
が言ったように、婿を取って後を継ぐしかない
かもと、考えたことがないはずはなく。加えて
稔は大きな会社の跡取り息子で・・・勇に言わ
れたように、釣り合わないと思ってるはずで。
稔と結婚できないのなら、親の勧める人と結
婚するのがいいんだろうなあって・・・なるよね。
・・・頭では。でも心は、大阪へと飛んでしまう。
稔が住んでいる町を見て、食べているものを
食べて、旭川に似た川辺で、潮の香りを嗅ぐ。
2人で映画を見て、食事をし、一緒に歩く・・・。
デートだよ、思いっきりデートだよ。青春だ・・・。
稔) Sunset.
A beautiful sunset.
Do you see that beautiful sunset?
安子) Yes, I do. I see a beautiful
sunset over the river.
英語を全く知らなかった安子が、稔と出会い、
一生懸命ラジオを聴いて、勉強して、彼の問
いかけに英語で答えている。愛おしいよね~。
ずっと少女漫画の世界を体現しているなあと
思ってはきたけれど、稔がマジ王子過ぎる!
あの時代にあれほど察しがよくて気が利いて、
息を吸うように女性に優しく、かつ紳士的に振
る舞える男子はそうそういないと思うわけで。
何というか、奇跡の王子様属性で生まれてき
たとしか思えない、パーフェクト男子なんです
けど!ここまで完璧な王子は初めてかも!?
そねんちせえ、かばん一つで、
配達もねえじゃろう。
これもう最初からちゃんと安子のSOSサイン
に気付いてるってことで。ぼんやり男子なら、
女のかばんに目がいかないし、気付かない。
駅で見送ったものの、安子の様子が気にな
って急行で追いかけるなんて神対応、絶対
思いつかないだろうし、思いついても行動で
きないよね。お金を持っているという育ちも
大きいだろうけど。逆に安子は急行に乗る
お金を持っていなかったんだろうね。だから
追いつけたという皮肉。稔が急行に乗った
という情報は、こちらの記事から↓
安子が汽車に乗り込んだところからのタイト
ルバックが表現した、大阪と岡山の距離感。
とても効果的でいい演出だった。グッジョブ。
何で泣いてるん? 安子ちゃん。
何があったん?
ああ、こんな場面に立ち会いたい。こんな風
に、やさしく問われたい。何で泣いてるん?
この2人、まだ恋人じゃないんだよ? 尊い。
稔キャラの乙女ゲーム、誰か作ってくれ~!
(学生服に黒マントは必需品だからね~!)
話がそれてしまったけど・・・心から・・・良き♪
久しぶりに、少女漫画脳がときめいたわ~。
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