「カムカムエヴリバディ」第9回~あなたとひなたの道を歩いていきたい | 日々のダダ漏れ

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カムカムエヴリバディ 第9回
第2週「1939-1941」
あなたとひなたの道を歩いていきたい

 

 

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(夜、台所のあがりこまちに小しず)

金太) おい。

小しず) うん?

金太) 安子はまだけえらんのか。

小しず) あ・・・はい。

金太) えろう遅うねえか?

(店へ行く金太)

 

**********

 

小しず) きっと、すぐ帰ってきます。

金太) 何なら?

 おめえは心配じゃねえんか?

(入り口の戸が開く音)

金太) 安子!

 遅えじゃねえか。心配したぞおい。

(安子の後から稔が入ってくる)

(金太に向かい、頭を下げる稔)

 

**********

 

<橘家・居間>

稔) 雉真、稔と申します。

 大阪商科大学、予科に通うとります。

ひさ) 雉真いうんは、

 あの、雉真繊維さんですか?

杵太郎) あの足袋と、学生服の。

金太) 何なら。

 寝とったんじゃねえんか。

杵太郎) 騒がしゅうて寝とれるか。

 ハッハッハッ。

稔) おっしゃるとおり、雉真繊維の

 経営者、雉真千吉は、僕の父です。

ひさ) やっぱり!

 お見かけしたことがありますけど、

 ありゃあ立派なええ男です。

小しず) お義母さん。

稔) 恐れ入ります。

杵太郎) よううちの菓子ゅう、

 注文してくださっとるようで。

稔) はい。

 父は、特に大事なお客様には、

 たちばなさんのお菓子と、

 決めとるようです。

杵太郎) いや~それはそれは。

 お父上は、何ゅうそねえに気に

 入ってくださりょんですかの。

稔) やはり、あんこが決め手かと。

杵太郎) いや~!

 さすが、よう分かっとります。

 で、特に、どの菓子が?

稔) おはぎが。

杵太郎) いや~ハハッ! 2番目は?

金太) 何の話ゅうしょんなら。

杵太郎) えっ。

金太) それで、安子たあ、

 どねえなつきあいですか?

稔) はい。去年の夏に、こちらのお店

 で知り合うてから、手紙のやり取りを

 しょおりました。

金太) それで?

稔) 僕は・・・正式に安子さんとの、

 おつきあいを認めていただきたい

 思ようります。

(稔を見る安子)

稔) 今日、突然、安子さんが大阪に

 僕を訪ねてきました。映画を見たり、

 食堂に行ったり、川を眺めたり。

 安子さんは、ずっと笑ようったけど、

 どこか様子がおかしかった。急行で、

 岡山まで追いかけて、事情を聞きま

 した。砂糖の生産会社の息子さん

 との、縁談が進みょうること。そりょ

 う受け入れると決めて、最後に僕に

 会いに来たこと。無礼を承知で言い

 ます。砂糖の会社と、手を組んだと

 ころで、店の経営は、ようはなりま

 せん。

金太) 何でじゃ。

稔) 大阪に暮らしょうると、岡山にい

 るよりもずっと、戦況を肌で感じます。

 今後、菓子そのものがぜいたく品と

 されて、製造の規制がかかるかもし

 れません。

金太) そねんこと・・・

 にわかに信じれるか。

稔) すみません。

 差し出がましいことを言いました。

小しず) あの・・・安子とおつきあいし

 てえいうんは、本当なんでしょうか?

稔) はい。

小しず) そねんことができるんですか?

 雉真繊維のご長男じゃったら、それに

 ふさわしい縁談が、きっとあるはずじ

 ゃのに。あなたの一存で決めれること

 なんですか?

稔) 僕は、子供の頃から、ずっと、雉真

 繊維の後継ぎとして、生きてきました。

 常に父の教えに従い、学問に打ち込

 み、後継ぎにふさわしい、教養と品格

 を身につけようと、努めてきました。い

 ずれ、親の決めた相手と結婚するじ

 ゃろうということにも、何の疑問も持っ

 とりませんでした。ですが・・・安子さん

 に出会うてから、僕の目に映る景色

 が、一変しました。安子さんが言よう

 られました。甘うておいしいお菓子を、

 怖え顔して食べる人はおらん。怒りょ

 っても、くたびれとっても、悩みょうっ

 ても、自然と、明るい顔になると。

 親の決めた相手じゃのうて・・・

 安子さんと共におりたい。

 安子さんと共に生きたい。

 安子さんに、そばにおってほしい。

 それが、うそ偽りのない、

 僕の気持ちです。

(大きく頷く杵太郎)

(3人の職人も廊下の陰で頷く)

(顔を上げ、稔を見る金太)

金太) あんたの、気持ちゃあ分かった。

 あんたが、ええかげんな人間じゃねえ

 のも、よう分かった。じゃけど、安子を

 たちばなから出すわけにはいかん。

 もう・・・うちにゃあ、安子しかおらんの

 んじゃ。

(金太を見つめる稔)

(居ずまいを正す金太)

金太) 今日は、

 安子が、面倒をかけました。

(頭を下げる金太)

稔) 夜分に、お邪魔しました。

(頭を下げる稔)

稔) 失礼します。

(涙のあふれる目で、

 一点を見つめている安子)

 

**********

 

(マントを羽織り、

 月明かりの道を行く稔)

安子) 稔さん!

稔) 勝手なことをして、ごめん。

(首を横に振る安子)

安子) 稔さん、私・・・。

 私も、稔さんと生きていきたい。

 あなたとひなたの道を歩いていきたい。

 

**********

 

<雉真家>

(勇が庭で素振りをしている)

稔) ナイスバッティング!

勇) 兄さん。

稔) いい打撃って言わにゃあ

 いけんのんかな。

勇) お帰り! どねんしたんで急に。

稔) あ~ちょっと急用でな。汽車が

 のおうなったから寄ったんじゃ。

勇) そうか。ハハッ。母さん!

 

**********

 

美都里) まあまあまあ。

 帰ってくるなら前もって言われえ。

稔) すんません。

美都里) 何にもねえんよ。タミさん、

 ひとっ走り行って、かしわを分けて

 もろうてきてちょうだい。

タミ) はい。

稔) 食事は、大阪で済ませてきました。

美都里) あっ、そう? それじゃあ、

 明日りゃあ、ごちそうにするわね。

勇) 兄さんがおったらこれじゃあ。

稔) 明日はすぐ、また大阪に戻ります。

美都里) ええ? そんな・・・。

千吉) 稔。

稔) ああ父さん。ただいま帰りました。

千吉) お帰り。

美都里) あなたも止めてちょうだい。

 明日戻るって言うんですよ。

千吉) 学校があるんじゃ、

 しかたがねえじゃろ。

美都里) ご自分はええでしょうよ。商用

 にかこつけて、大阪で会うんじゃから。

千吉) ええから、お茶でもいれてやれ。

美都里) タミさん。

タミ) はい。

美都里) お茶・・・。

 あ・・・いや、私がいれらあ。

 タミさんは、お風呂をくべてちょうだい。

タミ) はい。

千吉) 神田さんが、褒めよったぞ。

 おめえのようなええ後継ぎがおる

 と分かって、ますます雉真繊維へ

 の信頼が増したっちゅうて。

稔) いや・・・恐縮です。

千吉) うちで、国民服を製造しよう

 思ようるいう話ゅうしたら、それは

 ええと喜んでくださった。

稔) ああ、国民服ですか。

美都里) こねえな時に

 お仕事のお話なんて。

勇) 学校の先生が着とったで。

 軍服に似とるやつじゃろ。

千吉) ああ。ふだん着にもなる礼服

 にもなる。安うて丈夫な服じゃ。

 いずれ皆がこれを求める時がくる

 じゃろう。

美都里) みんなが同じものを着る

 なんて、つまらないわ。

千吉) ぜいたく言うんじゃねえ。

 着るもんも食べるもんも、これから

 もっと簡素化が求められるんじゃ。

美都里) まあ嫌じゃ。食べるもんも?

千吉) 遠からず、食用の砂糖は、

 ほとんど手にへえらんようになる

 じゃろう。

稔) じゃあ、

 菓子屋などは、どうなるんです?

千吉) う~ん・・・小せえ菓子屋は、い

 ずれ立ちゆかんようになるじゃろう。

美都里) お菓子も食べれん言うん?

 嫌じゃわあ、

 せちがれえ世の中になって・・・。

 

**********

 

<朝・たちばな>

(安子がきぬと店番をしている)

きぬ) ほんなら、お見合いの

 話はのうなったんじゃね?

安子) うん。わがままじゃて

 分かっとるけど・・・。

きぬ) 好きになってしもうたんじゃ

 もん。わがままになるなあ当たり

 めえじゃが。よかったがん。

 稔さんもおんなじ気持ちで。

安子) うん。

きぬ) 稔さんに婿に入ってもらう

 わけにゃあいかんじゃろうか。

安子) あ・・・当たりめえじゃろお。

きぬ) 勇ちゃんじゃったら

 丸う収まったのにな。

安子) 何ゅうおかしなこと言よん?

きぬ) 分からなんだらええ。

安子) えっ?

 

**********

 

(河原でキャッチボールをする稔と勇)

勇) 本当に、

 昼前の汽車で帰るんかな?

稔) 夕方から商工経営研究会の

 集まりがあるんじゃ。明日は朝

 一番の授業じゃしな。

勇) 遊びぃ行ったりせんのかな?

稔) あ~・・・

 たまに映画に行くくれえかな。

勇) ふ~ん。

 長男いうなあ大変じゃのう。

稔) えっ?

勇) わしゃあこ、気楽なもんじゃ。

 な~んも期待されてねえから。

 父さんも母さんも、兄さんのこと

 ばあじゃ。わしには、野球させ

 ときゃあええ思ようる。

稔) それは勇が・・・

 勇が野球がうめえから。

勇) 兄さん。

稔) うん?

勇) 兄さんは、

 気付いてねえ思うけど。

稔) 何じゃあ。

勇) わし・・・

 あんこのことが好きなんじゃ。

(ボールを受けそこねる稔)

 

**********

 

稔・・・恐ろしい子。パーフェクト過ぎて逆に

怖くなってきたわ。あまりに理想過ぎて・・・

これが全部安子の妄想でしたと言われた

ら、だろうねと逆に安心してしまいそうだよ。

あまりにも美しすぎて・・・これは、この先に

待っている過酷な運命ゆえに与えられた、

束の間の祝福、なんじゃないかと勘ぐって

しまう。それぐらい稔の存在は夢のようだ。

 

安子さんと共におりたい。
安子さんと共に生きたい。
安子さんに、そばにおってほしい。
それが、うそ偽りのない、
僕の気持ちです。

 

私がヒロインだったら・・・これでご飯を無限

に食べられる(違う!)じゃなくて・・・一生分

の甘い思い出として、心の活力にできるわ。

 

稔さん、私・・・。
私も、稔さんと生きていきたい。
あなたとひなたの道を歩いていきたい。

 

気持ちを確認しあう2人。想いはひとつ・・・。

そうはいっても、簡単じゃないのは想定済。

障害があればあるほど燃え上がるのが恋。

これから稔の家で一騒動が起こるだろうと

いう時に、弟・勇が「ちょっと待った!」宣言。

(稔と安子のことはまだ知らない訳だけど)

 

わし・・・
あんこのことが好きなんじゃ。

 

あまりに直球すぎる、勇、お前もか~の巻。

清々しいほど勇の気持ちに気付かない安

子のおかげで、ドキドキも、ザワザワもしな

いのだけれど・・・ガンバレ~勇君(棒読み)。

 

 

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