「まんぷく」 第63回
第11週 「まんぺい印のダネイホン！」
キャッチコピーは「萬平印のダネイホン！」
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萬平さんたちが東京に向かったのは、
昭和22年の暮れ。
（汽笛）
世良） 向こうに着いたらすぐに
会社の物件探すで。
真一） あと、社員寮にするアパートも。
萬平） 分かってます。
（笑顔で車窓の景色を見る萬平）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（夕陽の差し込む社内で
居眠りをする萬平と世良）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
そして、泉大津に戻ってきたのは、
その３日後でした。
（よれよれの萬平）
萬平） （ため息）
ただいま。
（事務所で目を覚ます福子）
福子） お帰りなさい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
鈴） 品川。
萬平） ええ。品川にちょうどいい
空き家があったんです。
駅から歩いて10分。家賃は月150円。
福子） ほかにもいろいろ見たけど、
そこが一番よかったんやて。
萬平） そこを、たちばな栄養食品
販売会社にします。
鈴） 社員寮も決めたの？
萬平） 会社の近くに、戦災を免れたアパートが。
部屋が４つほど空いていたんで、
そこを借りることにしました。
鈴） 本当に、東京進出するのね。
萬平） はい。真一さんが、
営業本部長として出向します。
連れていく社員は、全部で６人。
鈴） 誰にするの？
萬平） それはまだこれから。
福子） 若い人がええんやありませんか？
鈴） みんな若いやない。
福子） 戦争で学校に行けなかった人たちよ。
萬平） 学校？
福子） ダネイホンが売れたら、
その人たちに奨学金を出して、
夜学に通わせてあげたらどうでしょう。
萬平） ああ、なるほど。
鈴） そんな余裕があるのかしら。
福子） ダネイホンは絶対に売れます。
萬平） 分かった。東京に連れていくのは、
若い連中にしよう。
福子） きっと喜びますよ。
鈴） まあまあ、まるであの子たちの親みたい。
福子） そら、そんな気持ちになるわよ。
鈴） ならなくていい。それより早く、
源ちゃんに、兄弟をつくってあげなさい。
２人目よ、２人目。
福子） 分かったから。
鈴） 萬平さん。
萬平） はい、僕も、分かってます。
（にっこり笑う萬平）
（戸惑う福子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜広間＞
堺） 僕らが？
小松原） 東京に？
萬平） そうだ。東京で働いてくれ。
倉永） ええ…。
福子） 嫌なの？
倉永） せやかて…。
増田） 東京は怖いとこなんですやろ？
堀） 大お奥様が、
東京は冷たか人ばっかりって。
真一） そんなことはない。
萬平） 僕たちも東京に行ってきたけど、
みんな親切だったぞ。
神部） 東京に行けるなんて
願ってもない話やで。
萬平） いずれ君たちには、
奨学金を出そうと思ってる。
神部） えっ。
小松原） 奨学金？
真一） 仕事が終わったら、
夜間学校に通うんだ。
増田） 夜間学校？
福子） みんな戦争で勉強どころでは
なかったでしょ？ その分をしっかり
取り返せるわよ。
神部） か～っ！ こんなええ話ないで！
羨ましすぎるわ！
萬平） 君も東京に行くんだぞ、神部君。
神部） えっ…。
真一） 何のためにここに
呼ばれた思ってたんだ。
福子） みんなまだ若いから、
しっかりした先輩がいないと。
神部） せやかて、俺やのうても…。
萬平） 東京進出には、たちばな栄養食品の、
社運が懸かっているんだ。真一さんの右腕
として、みんなを引っ張ってくれ。
堺） 神部さんがおってくれたら安心や。なあ。
小松原） はい。
真一） 頼むで、神部君。
神部） はい…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ダネイホン製造工場になった研究室＞
野村） ええなあ、東京。
佐久間） わしが行きたかった。
小松原） いやいや、僕ら、
全然浮かれてませんよ。
増田） 遊びに行くんやないもんな。
長久保） せやけど、
学校に行かせてもらえるんやろう？
赤津） 羨ましいな。
堀） 赤津さんたちは、学校に行ったとでしょ。
倉永） 僕ら戦争で、
ろくに勉強でけへんかったんやから。
堺） それに、ダネイホンが売れたらっちゅう
条件つきですよ。
大和田） ほな、向こうで頑張るしかないな。
森本） 自分が東京に行ってどんな仕事
するんかお前ら分かっとるんか。
小松原） 全然分かってません。
高木） 何やそれ。
峰岸） 大丈夫かお前ら。
岡） 頼むでほんまにもう。
福子） 神部さん。ちょっとええ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜居間＞
福子） 克子姉ちゃんから聞いたわ、
タカちゃんのこと。
神部） えっ…。
福子） タカちゃんが卒業したら、
結婚するんでしょ？
神部） はい。
福子） びっくりしたわ。
私全然知らんかったから。
神部） ほんだら、何で…何で俺を…。
福子） 何で僕を、東京にやるんですか。
何でタカちゃんと離れ離れにするんですか。
これは意地悪や！
神部） そこまでは思うてません。
福子） ほんまに？
神部） お…思うてます。
福子） ごめんね。
神部さんが落ち込むのもしかたないと思うわ。
せやけどね、まだ２年半も先の話でしょ。そ
れまでに神部さんは、大事な仕事を任せられ
るようになって、タカちゃんを養えるお給料を
もらえるようにならないといけないやない？
神部） はい。
福子） 赤ちゃんが出来たら、
もっとしっかりしないといけないのよ。
神部） 赤ちゃん…。
福子） そうでしょ？
神部） はい。
福子） しばらくは、さみしいかもしれないけど、
タカちゃんはまだ学生なんやから、結婚する
までは、学業に専念させてあげなさい。
神部） 分かりました。
ありがとうございます。奥様。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
その週末、いつものように
タカちゃんがやって来ました。
＜裏庭＞
タカ） （泣）
神部） 泣くな、タカちゃん。
タカ） せやかて…せやかて…。
神部） 毎週、手紙書くから。
離れ離れになっても、一日たりとも
タカちゃんのこと忘れへんから。
タカ） ほんまに？
神部） 約束する。
タカ） そしたら、指きりして。
神部） うん。
神部・タカ） ♪指きりげんまん 嘘ついたら
神部） ♪針千本飲…
タカ） ♪針三千本飲～ます
神部） 三千本！？
タカ） そうや。
神部） 普通は千本や。
タカ） 三千本やったら困るの？
約束破るの？ （涙）
神部） いや、三千本でええ。
一万本でもええぞ！
神部・タカ） ♪指きりげんまん
嘘ついたら 針一万本飲～ます
指きった
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜広間＞
（夕食を食べている一同）
タカ） 萬平おじちゃん。（お茶）どうぞ。
萬平） ありがとう。
タカ） 福子おばちゃんもどうぞ。
福子） ありがとうタカちゃん。
（神部を見る福子）
（笑って頷く神部）
男性） 大奥様、こっちもお代わり下さい。
男性） わいもお代わり下さい。
タカ） おばあちゃん、それ私やるわ。
鈴） やさしいなあ、タカは。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
電・克子） そう、タカは納得したの。
電・福子） うん。ええ子やわ、タカちゃんは。
ほんまはきっとつらいやろに。
電・克子） 神部さんが大人なんよ。
私は結婚に反対しないわ。
電・福子） 私はって忠彦さんも
賛成してるんでしょ？
電・克子） どうやろ。
電・福子） えっ、どうやろって？
電・克子） 近頃、あの人の描く絵が、
暗うて陰気で…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（大きな口を開けたアンコウのような絵）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
電・克子） あれは自分の心境の現れや。
電・福子） 忠彦さんが結婚を勧めたのに？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
忠彦） （ため息）
何見とんねん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
電・克子） せやから、後悔してるんやって。
電・福子） 学校卒業してすぐに結婚する
子はたくさんいるやない。年の差かて、
萬平さんと私とおんなじやし。
電・克子） う～ん、そうやけど。
電・福子） あっ…。神部さんが大阪帝大
出てるのに、うちみたいな小さい会社に
入ったから？ 大阪帝大出てるのに克子
姉ちゃんの家に泥棒に入ったから？
電・克子） あ…福子。
電・福子） 大阪帝大出てるのに…。
電・克子） もうやめて。
私も不安になってきた。
電・福子） あ…今のは忘れて。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
東京に作った、
たちばな栄養食品販売会社の開業が、
２週間後に迫った２月の初め、
世良さんがやって来ました。
萬平） 宣伝放送？
世良） そうや。
ダネイホンの宣伝放送やるんや。
福子） 何ですか、それ。
世良） 大阪の街なかでも流れとるやろ。
チャカチャチャチャチャチャチャ
スッチャンチャン。
娯楽の殿堂、道頓堀ミュージックホール。
あでやかなダンサーが、
お色気たっぷりに踊ります。
チャカチャンチャンチャン。
萬平） ハハハハハ。（拍手）
世良） これを東京中で流すんや。
いや、東京だけやない。
日本中の商店街で流さなあかん。
鈴） 娯楽の殿堂って？
萬平） いや、それは違いますお義母さん。
真一） でもあれは、人を雇って
しゃべってもらうんでしょう？
金がかかるんや…？
世良） さすが真一さん。
ええとこに気ぃ付いたな。
そこもちゃ～んと考えとる。
人にしゃべらすんやのうて、
レコードで流せばええ。
福子） レコード？
世良） ああ。レコード作って、
全国の商店街に送るんや。
鈴） そんな、
レコードって簡単に作れるもんなの？
世良） はい、金さえ出せば作れます。
せやけどこれからずっと宣伝していく
ことを考えたら、人を雇うよりも安い。
萬平） いや～さすがは世良さんや。
商事会社をやってる人はやっぱり
違いますね。
世良） 当たり前や。ダネイホンをどうやって
日本中に売ろうかと、毎晩寝んと考えて
ひらめいたアイデアや。
萬平） で、どういう内容を流すんですか。
世良） それももう考えとる。
これは、福ちゃんにしゃべってもらうで。
福子） えっ、私！？
世良） ああ。
福ちゃんは、元電話交換手で
元ホテルのフロント嬢やろ。
さあ、読んでみい。
福子） えっ…。
（原稿を見る福子）
福子） 「栄養満点ダネイホン。
美味しい美味しいダネイホン」。
世良） もっとうまそうにしゃべらんかいな。
福子） 「栄養満点ダネイホン。
美味しい、美味しいダネイホン」。
（体を揺らし、表情豊かにしゃべる福子）
世良） おお。
福子） 「萬平印のダネイホン」。
萬平印？
鈴） えっ？ 萬平印？
萬平） 萬平印って？
世良） 決まっとるやんけ。
立花萬平が作ったからや。実はな、
看板も貼りまくろうと考えとる。
真一） 看板？
世良） デザインももう考えた。これや！
福子） これは…。
真一） 萬平君！？
世良） おお。社長の立花君にも
宣伝に一役買うてもらうで。
鈴） 萬平印のダネイホン。
萬平） 嫌です。
世良） 嫌て。
萬平） 嫌だ！
世良） 何でや！
福子） 萬平さん！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
忠彦さんがどんどん面白い人になっていく～！
克子曰く、心象風景がアンコウって面白すぎｗ
大阪帝大卒なのに、会社が中小企業、大阪帝
大卒なのに泥棒、大阪帝大なのにと畳みかけ
る福ちゃん恐るべし。福ちゃんは神部の味方な
のか敵なのか、萬平以外どうでもいいのか…。
社員の前では、社長の奥様らしく振る舞う福ち
ゃんが、身内、特に、克子姉ちゃんの前で見せ
る末っ子感というか、妹っぽさが極端で面白い。
長女ヒロインにはない、末っ子ヒロインらしさと
いうか…自然に甘えて人に頼れる強さがある。
真面目な長女タイプにはない、ちゃっかり感も。
神部の東京行きが決まって、離れ離れの恋人
モードで盛り上がる神部＆タカちゃん。事前に
福ちゃんに諭され、大人の落ち着きを取り戻し
た神部と、忘れない約束として指きりをせがむ
タカちゃん。嘘ついたら三千本…通常の３倍の
針を要求される神部。シャア化するタカちゃん。
通常の３倍のスピードで加速するタカちゃんの
愛が重い。何気に怖いよタカちゃん。さすがは
武士の娘の孫！ 恐ろしい子だわタカちゃん…。
浮気したらさらに１万本、そしておそらく本家ぶ
しむすからもその３倍、３万本の針が神部に…。
そして気持ちは宣伝部長？ 日本中に売りまく
ろうとやる気満々でやってくる世良。レコードを
使って宣伝放送しようと、キャッチコピー、看板
のデザインまで持参。デザインが秀逸すぎて、
誰に頼んだんだ～！ まさか、世良さんが！？
即座に「だが断る！」な萬平さん。いやいや…
絶対見たいでしょ、こんな食い倒れ人形みたい
な萬平さん！（爆） まずは…やってみなはれ！
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