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言わなければよかった一言   

いつ頃、周りの人に妊娠を言うか 

 

私が夫と出会い、結婚するまでに要した時間は3ヶ月だった。

これは出会って婚約までが3ヶ月なのではない。

出会って入籍し、式をあげるまでが3ヶ月だった。

 

出会いは結婚相談所だった。私は婚活戦士だった。

緊急事態宣言があったため、途中、お見合いを止めた時期があったものの、1ヶ月約20人のペースでお見合いをしていた。

そうやって出会ったうちの一人が夫だった。

 

1回目の緊急事態宣言が明けてからの式だった。

人は呼ばなくていいから、式だけでもやりたいと私が夫に言った。

コロナのこともあったが、二人っきりの結婚式というのに憧れもあった。

漫画や小説の読みすぎである。

人を呼ばないことを少し残念には思っていたものの、憧れのお陰でまあいいかと思うことができた。

 

結果、式場は私が中学生の頃から憧れていた式場にしたものの、出席者は親族が計5人来ただけの簡素なものになった。5人も呼ぶつもりはなかったのだが、一応話をしたら来てくれたのだ。

写真を撮る時以外はマスクという、時代を反映した結婚式になった。

食事会等は一切しなかった。

それでも来てくれたのだから、ありがたい話だ。

 

コロナ禍であったため、式場の予約がガラガラだったことも、すぐに式ができたことの大きな要因である。予約してから1ヶ月経たずに式だった。式と写真をとっただけで、人を呼ばず、食事も出さなかったため、準備もほとんどなかった。

ちなみに婚約してからそう日を待たずに式場予約だった。

婚約は口約束だけで、あえて言えば、結婚に向けて積極的に動いていることが婚約の証明だった。

結納どころか両家顔合わせすらしなかった。お互いの親に二人で会いに行っただけだった。なお、兄弟姉妹には式をした時点で会っていなかった。すべてコロナを警戒してのことだった。

これも時代を反映していると言えるだろう。

 

このように書くとまるで不幸であるかのように見えるかもしれないが、メリットもあった。結婚に至るまでが非常に楽だった。

あるいは人によっては非常識に見えるだろうか。そこはほら、全部コロナのせいですよ。

 

ここまでが、私側の前提である。

 

アンちゃん、リンちゃん、ユメちゃんの3人に話したのは、ちょうど婚約と式場予約の間くらいの時期だった。

アンちゃんが後少しで産休に入るというので、一度みんなで会おう、という話になり平日ランチに行ったのだ。

久々に4人そろった会だった。

 

なお、久々すぎて私が結婚相談所で激しく活動していたことをアンちゃんもリンちゃんも知らない状態だった。ユメちゃんは、婚活中、色々相談に乗ってもらっていたので知っていた。

 

だから、婚約を告げたとき、二人からすれば寝耳に水というか、意味わからん、いつの間に?ってところだっただろう。

 

さらにアンちゃんの妊娠が分かってから初のランチでもあった。つわりが酷く集まれなかったのだ。その後はアンちゃんの仕事の都合がつかなかった。

 

そういう意味で、今から思いかえすと、もしかしたら、アンちゃんにとってはやっとの妊娠お披露目会だったのかもしれない。

 

ランチ会の当日、昼休み前にかかってきた電話の応対でたまたま職場を出るのが遅くなった。

仕事を終えてLINEを見ると、先に注文してるね、というメッセージが入っていた。

ランチ会はご飯屋さんに現地集合だった。

 

私がご飯屋さんに着いたのは、メンバーの中で最後だった。

 

店に入り、メンバーが座っている席に行くと、ユメちゃんが私に声をかけた。

 

「遅かったねー。仕事大丈夫だった?」

「うん、昼休み直前に電話がかかってきちゃって。思ったより遅くなっちゃった」

 

四人がけのテーブルのうち残った一つに私が座った。

 

「久しぶりだね。アンちゃんも。妊娠してからなかなか集まれなかったけど、最後にこうやって集まることができて、本当によかった」

「なかなか予定合わないもんねー」

 

リンちゃんが言った。

このタイミングでまず最初のジョブがアンちゃんから繰り出されることになった。

 

「そもそも私たちってそんな仲良くないでしょ」

 

一瞬固まった。いきなり何を言い出すんだ。

信頼し合った仲間!マブダチ!!とかではないと思うけど、それを言い出すことに何の意味が?

 

「え?いや、どうしたの?まあ、確かに普段からいっつも会ってるとかではないけど、それなりに仲良いつもりだよ」

 

ねえ?と同意を求めたけれど、ユメちゃん、リンちゃんからはハッキリとしたリアクションはなかった。

 

「ともかく、集まれてよかったよね。最後ってことじゃないと、コロナもあるし集まれなかったしね」

 

ユメちゃんが会話を流した。

私もそれに乗った。ランチだし集まりやすかったよねー、みたいに流した。

 

今考えれば、この時点でちょっと変だったかもしれない。

なぜこの時アンちゃんが“仲良くない”などと言ったのか、私は未だにわからない。結婚相談所に登録したことを言っていなかったからとか?いやしかし、会う機会がなければわざわざ報告するようなことでもない、というのが私の感覚だった。

 

その後、アンちゃんは自身の近況報告を始めた。

 

アンちゃんの夫が転職したようだ。

転職により二人の職場は近くなったけれど、給与自体は下がっただとか、退職金が減ったとか、そういう内容だったと思う。転職はアンちゃん自身が夫に勧めたものだったようだ。

 

アンちゃんの話は長かった。私はなかなか自分のことについて言い出せずにいた。少し話が落ち着いたときに、ユメちゃんが私に水を向けた。

 

「けいちゃんは最近、婚活したんだよね?今どんな感じなの?」

「あー、さっきちょっと聞いたけど驚いたよ」

 

アンちゃんが言った。

 

どうやら私が来る前にユメちゃんから軽く私の近況について話があったようだ。

もしかしたらアンちゃんは風の噂で私が結婚相談所に登録したことを聞いたのかもしれない。それをユメちゃんに聞いてみたとか。

 

まあ、何でもよかった。すでに伝わっているのなら説明の手間が省けたというものである。

それよりも、ここからが勝負だった。

絶対に夫について色々聞いてくる、それをどう打ち返すかが私にとっての勝負だった。

自慢にならず、さりとてバカにされることもないように、あまり詳しく夫の所謂“スペック”について話すつもりはなかった。

夫について腐すようなことを言われたくなかったのだ。

 

「そうなの。実はここ最近結婚相談所で婚活してたんだ。毎日のようにお見合いして大変だったけど、何とか相手を見つけられてよかったよ。今は式といつ籍を入れるか考えてる」

「うわー急だね。出会ってどのくらいなの?」

 

リンちゃんが驚いた声をあげた。

 

「1ヶ月?2ヶ月は経ってないくらいかな」

「超スピード婚だね!」

「うん。まあこんなに早く決めて大丈夫なのかって感じなんだけど、結婚なんて結局してみないとわからないことの方が多いかなって思って。だから、サクッと決めちゃったんだよね」

 

本心である。

結婚前に相手が結婚した後どんな人になるかを見極められるなら、世の中こんなに離婚で溢れていないだろう。結局、環境が変われば人は変わるのだ。だから、やってみなければわからない。ということで、いいと思えば食らいつく、が私の基本スタンスだった。

 

リンちゃんが控えめに笑いながら言った。

 

「なんか急に先越されちゃったね。私はまだ予定が立ってないからさ」

 

このときリンちゃんと彼氏が結婚しようという話になってから一年くらいが経過していた。二人でタイミングを見計らっているみたいだった。

 

「いやあ、でも、どっちも思いっきりがいい性格だったからたまたまこうなっただけよ。むしろ早すぎて大丈夫かなって感じなんだけど」

「そこは人それぞれだからさ。大丈夫だよー。それぞれリズムがあるし」

「うん、そう思うようにしてる」

 

自慢するような意図はないとちゃんと伝わっただろうか。

実際、愛だとか恋だとか、そんな次元で、人に自慢できるような感じでこの早さなわけではなかった。たまたま、どっちも即断即決即行動なタイプの性格だったのだ。

 

「どんな人?フワフワしてるってけいちゃん言ってたよね」

 

次はユメちゃんだった。

 

「そう、最初はそう思ったんだよね。フワッと話す感じ。話の内容とかが。けど、最近は面白いなーって思うことが多い。本人なりのこだわりというか。とりあえずゲームは好きよ」

「それで一緒にスマホゲーしてるんだよね」

「うん、出会ったばっかりの頃は結構いい話題になったわ」

 

うんうん。いい感じだ。

その人を知るには、仕事だとか、どこに住んでいるだとか、年収だとか、学歴だとか、そんなことよりその人が何を好きかを知れ、とサンティグジュペリも言っている(星の王子さま参照)。

 

「仕事は何してる人なの?」

 

ここでアンちゃんが聞いた。

私は、来た!と思った。

 

「えーとね。建築事務所で建物の内装を作る仕事をしてる」

「一級建築士事務所?」

「そう。デザインしたりもそうだけど、見積書作ったりとか、どこの家具使うとか決めたり、そういうことをしてるらしい」

「えー。それってブラックじゃない?!大丈夫?」

 

何言い出すんだコイツは。

驚いて一瞬固まった。

 

 

 

→続く