仕事帰りのことだ。
帰り道、職場の同期を見つけた。
私の少し前を歩いている。
彼女の名前はユメちゃん(仮名)という。
ユメちゃんと私は同時期に婚活し、彼女は先に結婚を決め、それを追うように私も結婚することになった。現在は目下妊活中だ。
彼女とは他に2人の同期とグループで仲良くしていた。
ワンシーズンに1回くらいの周期で女子会をする仲間である。
他の2人のうち、1人は妊活中であり、もう1人はすでに一人目の子をもうけ、産休に入っている。何かとライフプランの被っているグループだった。
その中でも一番会話の回数が多い、もとい帰り道にこうして会いやすいのが彼女だ。
私は小走りに近づいて、彼女に声をかけた。
「お疲れ、ユメちゃん!」
「あーけいちゃん。お疲れー」
独特の高い声音とともに彼女が私の方を振り返った。
「明日はクリスマスイブだね。なんか計画してる?」
「何にも。コロナだしねーご飯とか行きたいけど、今年は見送りかなぁ」
「そっか」
「けいちゃんはなんかするの?」
「一応、家でケーキ食べようって予約した。明日、夫が取りに行ってくれるよ」
「そう。順調そうだねー」
この場合の順調は結婚生活が、という意味だ。
「妊活は進んでる?」
「うん、続けてる。私は、今月はあと5日後くらいに生理来る予定。そっちは?」
私たちの間で妊活はラフな話題だった。
どっちもまだ妊娠していないことが大きかった。
婚活の時もそうだった。どちらかが先に妊娠することに対して、おそらく二人とも気にしていなかった。私は確実に気にしていなかった。
子どもができるのもできないのも、結婚と同じく縁に近い。
努力ではどうにもできない領域がある。それが悪いわけでも、人より劣っているわけでもない。それはどうにもできないことの一つだ。
できなかった時は犬でも飼おう、それが二人の家庭が出した共通の認識だった。
「私も同じくらいだよー。生理前は毎回緊張するよね」
「そっか、じゃあ、仕事納めの日は二人ともドキドキだね」
5日後は私たちの仕事納めの日でもあった。
仕事納めの日を過ぎれば数日同期と会うことはない。
会うこともないのだから、すぐに結果について話すこともない。
なんなら答え合わせなんてしないかもしれない。
こうして偶然会わない限り、話す機会があるわけではないのだ。
そういう意識が私にいらないことを言わせた。
その程度のことは言っても大丈夫だろうと軽く考えてしまったのだ。
「あ、うー、うーん。まあ、そうだね」
「……?うん」
歯切れの悪い返事だった。
そのあと駅が近づき、使う路線が違う私たちは、またね、と言って別れた。
どうして歯切れが悪かったのかな、と別れた後考えたものの、理由はわからなかった。できてなかったとき言いたくない、とか、そういうのはないと思うのだけれど。
それとも、片方だけできてしまったとき、やっぱり溝になってしまうからだろうか。
途端、いらないことを言ったな、という気持ちが胸いっぱいに広がった。
ただドキドキだね、と共感したかっただけのはずが、とんでもない引き金を引いてしまったのではないかと心配になってきた。
まあ、どちらにしてもおそらく次会うのは1週間以上後だし、どちらもできてなければ、問題ないし。相手だけにできていても問題ないし……私にできていない限り、問題ない。
そのときはそう自分を納得させた。
その後、私はこのセリフを深く後悔することになる。この一言は私と彼女の間に亀裂を入れることはなかったが、私がグループで付き合うことをやめるキッカケへと展開していくのだった。